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0001. 出会いには準備と努力が必要

「里見〜、悪いが明日のポケップ社とのミーティング資料の修正、あとはよろしく頼むなぁ。ちょっと、このあと接待に行くことになったんで」


笑いながら課長が私に声をかけてきた。壁の時計は午後4時を回ったところ。

カチ、カチ、と無機質に刻まれる秒針の音に重なるように、耳の奥では重苦しいインダストリアルなノイズが響き始める。

(BGM:『午前0時のブラック企業』)

※時計の秒針がチクタクと無機質に刻まれる音に、重苦しくインダストリアル(工業的)な低音ノイズが重なる、現実の閉塞感を象徴するダークな楽曲。


「そんなぁ~、今日は残業出来ないって、前から言ってたじゃないですかぁ」


相変わらずなブラック企業である私の働いている会社は、理不尽に仕事を部下に押し付けてくる。


「オレも行けないって、言ったんだけどな。部長がどうしてもって言うから、まぁ、今度、何かするから頼んだぞぉ〜。最近、多少の残業はしても、長い残業を避けて来たんだから、今日ぐらいは長く残業して、会社に貢献しろよ。ほんとに最近の若い奴らは」


相変わらず、昭和、平成初めの古い価値観を押し付けてくる。いやっ、平成半ば以降でもそうかも。部長も課長も平成後半、終わり頃に社会人になったって言ってたから。


長い時間働いているのが『会社への貢献』ではないのだ。

それに――。


(ご生憎様ですが、私の究極の貢献先は理不尽な会社じゃなくて、『至高のモフモフ』です!)


心の中で全力のツッコミを入れつつ、私は笑顔を作った。


「あぁ~、課長、残念なお知らせですが、今日は残業すらせず、と言うか早上がりで今から帰らせていただきますので、ポケップ社とのミーティング資料の修正はお任せします。

課長、自分で修正やらないと説明できませんよ。それと、少しはパソコンの使い方を覚えてくださいね。それじゃぁ、あとはよろしくお願いします~。お先に失礼します」


課長と話をしている時点で、すでに私のパソコンはシャットダウンの処理を完了していたのだ。(頭の中の不快なノイズがピタリと止まる)

私は、課長にそう一言かけると、笑顔でオフィスからサッサとエスケープした。


「は?はぁ?はぁぁぁぁああ!ちょっ、ちょっ、ちょっと、里見、何言ってるんだ!早上がりなんて、認めるわけぇないだろぉう。まだ16時30分だぞ、戻って仕事しろ!終電ギリギリまでは仕事しろ、なんだと思ってるんだ。仕事を」


後ろから聞こえる課長の怒声を気持ち悪いバックミュージックにして、私の心はすでに今日から始まるVRMMO一色になっていた。


私が早上がりの強硬手段に出てまで、心待ちにしている、やりたいVRMMOがある。

正月に始まり、旧正月、バレンタイン、イースター、夏祭り、七夕、お盆、ハロウィン、クリスマスといろいろなイベントをごった煮で、何でも取り込んで昇華させようとする日本企業らしい、和風VRMMO【八百万の幻獣物語】というゲームだ。


このゲーム、八百万という名前に負けないくらい、世界中の神話が詰め込まれている。ギリシャ神話から始まり、ローマ、北欧、ケルト、メソポタミア、エジプト、マヤ、インド、日本、中国、アメリカ、アボリジニ、東南アジアの地球規模の各地の神話。さらにはクトゥルフに代表される創作神話、鬼、天狗などの妖怪・付喪神、民族宗教などの仏様、天使・悪魔まで……。

これでもかってくらい盛り込んでしまったVRMMOでありながら、なぜか最近には珍しい「和風」をベースにしているのだという。


いや、ここまで盛り込んでいて、どこが和風なのだというツッコミをβテスター達も言っていたそうだが、テストが終わるころには、「和風で間違いない」って評価になっていたらしい。

それを聞いて私もPR用の動画を見たけど、和風要素のあるVRMMOにしか見えなかったので、どこが和風で間違いないって言える要素があるのか、今から探すのが楽しみなのだ。


剣と魔法の中世ヨーロッパ風世界がVRMMOの主流である昨今。そんな中での和風VRMMOを謳っているので、【八百万の幻獣物語】――プレイヤー通称【八百幻やおげん】の注目度は非常に高く、βテストの参加応募も10数倍あったらしい。


当然、私も応募したのだが、残念ながら落選してしまって、リリースされる今日までずっと楽しみに待っていたのだ。

そして、なんの問題もなくβテストも評判良く終わり、第1陣の応募が開始されたのだが、応募数はβテストを遥かにしのぎ、ゆうに100倍を超えた。私は当然のように第1陣の応募をし、見事、この難関を飛び越えたのである。


今日の【八百幻】オープニングデーから参加できるのは、たった7万人。

最終的には、応募倍率から最低でも700万人、1000万人は余裕で超えると言われているVRMMOのリリース記念日。そんな超重要な特別の日に残業なんて、できるかっての!


そういうところがわかってないんだよね、うちの部長と課長は。人生は一度しかないのだ。

今、優先しないといけないことは、仕事以外にもたくさんあるし、人それぞれ違うのだから、もっと大らかに送り出してほしいものだ。


そんな八百幻のことや部長と課長への不満をあれやこれやと考えながら、私は無事に帰宅した。

いやぁ~、電車が止まったり、事故や不測の事態に巻き込まれなくてよかったわ。これも日頃の行いの良さ(自己申告制)と、モフモフの神様のおかげだね。

琴音が戦国時代に転生してスローライフを目指して生き抜く話を週3回、月曜、水曜、金曜と投稿しています。こちらの作品も楽しんでもらえればと思います。


戦国幻獣物語 〜目指せ、戦国ひきこもりモフモフ生活! 八百万の幻獣をモフって今日も生き抜くぞ、おぉーーっ!〜

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