第1章 ようこそ、ぽかぽか邸へ。
火事のあとに訪れた“新しい日常”。
柊と環、そして凪の、静かで温かな共同生活が始まる。
朝の光がカーテンのすき間から差し込み、
湯気の立つマグカップを照らしていた。…
「……え、これ全部、凪くんの荷物?」
環が目を丸くする。
部屋の真ん中には、きれいに積まれたダンボールが十数個。
「最小限にしたつもりなんですけどね!」
「どこがだ。」柊がすかさずツッコむ。
凪は少しだけ頬をかきながら笑った。
「“心の整理”ってやつができなくて……」
「ふふ。凪くんらしいですね。」
環は笑って、紅茶を差し出した。
◇◇◇
昼過ぎ。
ようやく片づけがひと段落した。
3人の笑い声が、柔らかな午後の光に溶けていく。
「ねぇ、柊。凪くんの部屋、どうしますか?」
「空き部屋は書斎だけだな。」
「でも……これじゃ書斎に入らないですよね……」
「すみません……書斎、けっこう狭いんですね。」
環が少し考えてから、言った。
「柊、私たちが一緒の部屋にするのはどうですか? 一部屋空きますよね。」
柊の手がピタリと止まる。
「……は?」
「ここでは凪くんの荷物入り切らないですよ」
「……いや、それは……」
「あれ?ダメですか?いいアイデアだと思ったんですけどね」
「……おまえ、ほんとに天然だな……」
「え!僕、環さんの部屋使っていいんですか!?」
「……もう好きにしろ。」
柊はあきらめたように言って、わずかに頬を赤くした。
◇◇◇
夜。
外は静かで、虫の声がかすかに聞こえていた。
「……環さん、布団の並びどうします?」
「うーん、じゃあ……川の字で!」
「ちょっ……環。」柊が小声で制止する。
「いいじゃないですか! ファミリー感あって!」
凪は上機嫌だった。
結局、3人並んで寝ることになった。
環が小さな声で言う。
「ここがいちばん……安心します。」
柊が微笑み、静かに答える。
「それでいい。」
やがて、凪の寝息が聞こえはじめた。
環は目を閉じながら、
「なんだか、ぽかぽかしますね……」とつぶやいた。
◇◇◇
午前3時。
暗いリビングで、ひとり残されたパソコンの画面が光る。
凪のPCが、自動バックアップを開始していた。
――バックアップ完了。
画面の隅に、小さく点滅する新しいフォルダ名。
> mirror_01
静まり返った部屋で、
誰も知らない“何か”が、静かに動き出していた。
笑い合える時間の中にも、
まだ誰も知らない“影”がひそんでいた。




