―プロローグ ― 燃えた夜と、動き出す朝、残された光
燃える夜。ひとつのアクセスログ。
それが、すべての始まりだった。
夜の静寂を破るように、モニターが一瞬だけ光った。
黒い画面に、白い文字が浮かぶ。
> mirror_01 — access granted.
◇◇◇
夜の街に、赤い光が揺れていた。
サイレンの音が遠くから近づき、雨のように降る火の粉が空を照らす。
凪のマンションの前で、
柊と環は消防車のライトに照らされながら立ち尽くしていた。
「凪!」
「凪くん!」
ふたりの声が同時に響く。
焦げた空気の中から現れたのは、
顔をすすで黒くしながらも、しっかりと歩く凪の姿だった。
「……あ、柊先輩……環さん……」
その声を聞いた瞬間、
環の目に涙があふれ、柊は思わず凪を強く抱きしめた。
「無事でよかった。」
「僕の部屋、燃えちゃいましたけど……生きてます。」
小さく笑う凪。
だけど、その目の奥に一瞬だけ光った“影”を、柊は見逃さなかった。
――これは、ただの火事じゃない。
柊の心に、静かな予感が灯る。
◇◇◇
そして夜が明ける。
灰色の空の下、焦げた匂いがまだ残る凪のマンションに、
消防隊の許可を得て、3人は足を踏み入れた。
壁は黒くすすけていたが、
奇跡的に机の一角だけが燃えずに残っていた。
そこに、凪の愛用していたパソコンが置かれている。
「……これ、無事だ。」
凪が小さく息を吐いた。
「すごいな、熱で筐体が変形してるのに……データ、生きてるかも。」
環はその画面を見つめ、そっと言った。
「……まるで守られてるみたい。」
柊はその言葉に小さく頷く。
「バックアップを取って、念のため別の場所に移そう。
それが終わったら、うちに来い。部屋を空けておく。」
凪が驚いたように顔を上げる。
「……え? いいんですか?」
「今さら何を言ってる。」
環も笑って言う。
「ね。もう家族でしょ?」
凪は涙をこらえるように笑いながらうなずいた。
「……はい。」
◇◇◇
そして数日後。
アークシステムズの新プロジェクトで、
奇妙な不具合が連続して発生し始めた。
「……またログが消えた?」
凪の声がわずかに震える。
「消えたんじゃない……“隠されてる”……?」
モニターの光が3人の顔を照らす。
その瞳の奥には、それぞれの決意があった。
「止まってもいい。
でも、また動き出す。
それが、俺たちの“進化《EVOLVE》”だ。」
柊の言葉に、
環と凪がゆっくりと頷いた。
朝の光が3人を照らしていた。
それが、新しい“進化”の始まりだった。
《mirror_01》――この小さなファイルが、
彼らの未来を大きく変えることになる。




