平和な日々
「う…」微かな頭の痛みで目が覚めた。
段々、意識が明瞭になってくる。
「レーミア様、無事のご帰還、おめでとうございます」
目覚めたレーミアに、相も変わらず、慇懃に頭をさげる、エレン。
「おはよ! レーミアがいない間に仮想通貨で大儲けしちゃった!」と明るく声をあげたのはニーナだ。
上半身をゆっくり、起こす。
あぁ、久々だ…。
見慣れているはずの寝室が、少々違和感に包まれるのは、時の経過のせいだろう。
そうして。
「レーミア様。今回は我々の〈依頼〉に応えてくださり、ありがとうございました」跪いたまま、深々と頭をさげる―あの時の使者、ロイだ。
あの時は少年だったが、すっかり青年になっている。
「全くだ。骨が折れたよ」言いながら、レーミアはベッドから降りた。
服のポケットを探る。
取り出したのは氷のカケラだ。
薄ぼんやりと発光している、それから声が響いた。
「…どうして、我を生かした?」
あの時、氷柩で四散した、ライラの魂を閉じ込めたものだ。
「どうして? それも〈依頼〉だったからさ。魔王を殺さないでくれって」レーミアは笑った。
「私は一言も『殺す』なんて言ってないぞ?」
「…」ライラは黙り込んでしまった。
「レーミア様、わたくしに用がある、と伺って参ったのですが」
ロイが問うた。
「あぁ、なかなか連絡出来ずにすまなかった。率直に訊くが、家族に〈ロエ〉という名の女はいないか?」
ロイの顔色が変わった。
「妹の名です。…まさか…」
レーミアは頷いた。
「出立前に、一応、ロイの関係者にだけ、反応する魅了魔法をかけていった。ロエは王城でメイドをしているよ。私にとても良くしてくれた」
ロイの瞳から、涙がこぼれた。
「ありがとう、ありがとうございます、レーミア様…」
「礼を言うのは、…そうだな、運命とやらにでもするんだな」
陽射しが燦々と降り注ぐ庭に、裸足で出てみた。足裏に芝生が心地良い。
また、あの優雅な生活に戻れる!
レーミアはたたっと、子供のように、エレンに駆け寄った。
「エレン、頼んでおいたのは…」
エレンは慇懃に頭をさげた。
「はい、お言いつけ通り、レーミア様、御不在中も、抜かりなく」
その言葉に、レーミアの顔がパァっと輝く。
世界中から届いている本たち。
レーミアはウキウキとした様子で眺めた。私の愛する本たち、ただいま!
そして気付いた。くるりと振り返る。
「みんな、ただいま!」
口々におかえりなさい、が、返される。
「なぁ、ロイ」涙が落ち着いたところを見計らって、声をかけた。
「このライラの魂さ、どうする?」
ロイは、実は…と口ごもった。
―そう、レーミアに殺さないでくれ、と依頼したものの、引き取り手がないのだ。
「すみません」と頭をさげるロイ。
「別にいいよ…じゃあさ、ライラ」
レーミアは氷のカケラを目の高さに持ち上げ、言った。
「私とここで暮らすか? 暇なら、本で良ければ読み聞かせるよ」
えっ、となるロイ。
「それは、レーミア様にご負担では…」
レーミアは鷹揚に手を振った。
「袖すりあうも何とやら。私はいいよ」
ライラは無言だった。が。
「娘…レーミア。」
間が空く。
「…よろしく頼む」
こうして、レーミアには新しい仲間が増えた。
今日もレーミアは暖かな陽射し降り注ぐ庭で、読書に勤しんでいる。
彼女は知らない。
〈イルファス〉の城下町に、漆黒の翼を持つ〈聖女像〉が建てられた事を。
〈了〉
ここまで読んでくださった皆様に最大級の感謝を。
私としては初めての連載という形式でした。
とても楽しく、また充実していました。
ひとりよがりになっていなければ良いのですが。
ありがとうございました!




