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クロス・ファントムワールド  作者: 霧山怜哉
飛び違う「幻影」
22/22

Episode04 初対面Ⅲ

「……はああああああああっ!?」

「……はああああああああああああああああっ!? 待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て! お前、その不幸な友だちから逃げるためにこんなところに!?」

 言語に絶する表情で全身を震わせながら問い詰めていた。

「悠慧、はああが長いし、落ち着け、悠慧落ち付け、一旦落ち付けって」

「あはは、やっぱり言うべきじゃなかったかな」

 頭を伏せて呟いたボーストを湊は一瞥する。まとまったものにはできないが、湊はボーストが発散している雰囲気になんとなくおかしな感じがする。現実はどうなっているかは知らないが、なんというか、あんなことをした人が取るような反応ではない気がする。

 だが、悠慧はその一糸の不自然に構っていられない。

「なんだこりゃ、このドラマ展開は! ……言うべきかどうかの話じゃねぇ。最初からやんなってハナシだ」

 悠慧は手で顔を押さえる。なぜなら、彼も赤面している。

 悠慧を慰め終わって、湊は乾いた笑いと声で男性に向き直した。こんなこと言われて、さすがに悠慧より年上の湊でもメンタルにダメージを与えられたようだ。

 この件についてはもう聞かないでおこうか、ボーストさんも大変そうだし……

「えぇと…まあ……その、お家の事情を聴いてしまってすみませんでした。僕たちがここに来て聞きたいのはこの近くなんか怪しいものが出入りしてないかってことです」

 素早く気持ちを整理すると、しづらい話を収束させ、次の話題へと切り替えた。

「怪しいもの?」

 悠慧たちがパンケーキを食べていないからか、男性もいまだ弁当に手をつけていない。こんな善良な市民があんなことがしていなければある意味完璧だったのに。

「あなたたちは何を調べてるかは知らないけれども、もし心霊現象のことなら特にないな」

「別に心霊現象とかじゃなくても、特別なことがあれば。特に最近に何かないんですか?」

 ボーストは拳を顎に当て、十数秒考え込むが、やはり頭を横に振るだけだった。

「そうですか」

 それを聞いて気難しそうな表情をする湊は断念するしかないと、悠慧に言おうとするときに、ぼんやりと考え入っている悠慧が目に入った。

「悠慧は知ってるか?」

「いいや、わっかんねぇ。前まで気にしてなかったんだけど、今うまく言えない何かが引っかかるんだ」

「なんで早めに言わなかったんだよ」

「思い出せなかったんだよ、全然。今になってようやくぼんやりと」

 湊とともに頭を抱える悠慧を見守る中、ボーストは突然座り直した。

「一つ聞きたいことがある。あなたたちはもしかして探検しに来たのか?」

「はい、まあ……そんな感じです。趣味的な」

「そうか、日本でもそういうのが流行ってきたんだな。詳しくはよく分からないんだけれども、この森がそういう謎の生き物が潜んでるって噂は確かに聞いたことはある……じゃ、その銃も刀もモデルだよな」

 さすがに悠慧でもこれを聞くとひやっとして、手を握りしめ、渋い顔で湊の回答を待った。

「はい、何かあったときの自衛用です。おおむね無意味だと思いますが」

 湊は特に慌てる様子もなく、自若として態度で質問に答えた。

 しかし、それはもちろんボーストをごまかすための嘘である。

 それどころか、湊のライフル銃も悠慧の二刀も軍などで配給されている規格品ではなく、PKOによって開発された特殊品なのである。モジュール化(Modular)武器(Weapon)システム(System)を利用したライフル銃は多様な特殊弾薬、爆薬を除き、指向性エネルギーのような規格外の技術を扱う部品にも互換性がある。二刀はいまだ開示されていない技術で形成された高密度炭素材料で作られている。

「ボーストさんはここに住んでなんともなかったんですか」

「わたしはここに住むのも何年が経つんだ。そういうこともたくさん聞いた、ただ……一度も見たことはない。都市伝説っていうのかな、大概嘘だよ」

「へぇぇ……何年も住みついてるんだ。とんだ怨念だな」

 男性の聞こえない小音量で唸った悠慧に、湊は腕で横腹を突いた。

「本当になにも見えなかったんですか? 僧とか、火玉とか、狼とか」

 男性はもう一度考えてみたが、やはり何もなかったように頭を横に振った。

「実は、わたしはほかの人にもこういう話が聞かれたんだ。でも、こういう都市伝説には裏付けになるものもないし、そもそも本当にあったとしてもまずは政府に拘束されるではないかとわたしは思う。だから、あなたたちも時間をもっと有意義なことに費やしたほうがいいぞ」

「まぁ、その通りですね」

 湊は頭を下げて、反省しているような姿勢を取った。

「どうする?」

 話を聞いて悠慧は湊に顔を向ける。言っていたこと嘘ではなさそうだし、ボーストには嘘つく必要性もない。このエリアは人狼の活動エリアではないようだ。

「あの子についての情報がまったくなかったのは残念だけど、ここまでかな。『諦める』か」

 この「諦める」は言うまでもなく本当に諦めるのではなく、ここを諦めてさらに深いところへ向かうという意味だ。

 しかし、このときボーストは一瞬だけ身震いした。

「……あの子?」

 思わぬ、男性はこの言葉に気を惹かれてしまった。

 やっと男の反応に気づいた湊たちだが、すでに対応する時間を与えられていなかった。

 悠慧も俯いて大きく目を見開く。瞳孔が急速に収縮する。

 彼は何を見たのか。

 いや、何も見ていない。

 でも、何かを分かった。

 悠慧たちのそばにあるベッドの下に盗聴器を付けられていることを……

 さっきまでの話は誰かに盗聴されたことを……

 次に起きることを……

 悠慧は後悔する。この部屋に入ってきたときから微かに危険を匂わせるこの盗聴器がここまでの殺意を放つまで感知できなかったことに。

 そっと右手を刀の柄にやる。片方の鞘から極めて細かい機械音がして、抜けるように展開した。

「どうかしたのっ——」

 刀と空気を裂く音がボーストと湊の頭上を通過した。その狙いは室外から襲う凶弾。

 キーンと、刃と親指長さの弾丸が衝突した。真二つにされた弾丸は刃の角度で飛び離れていき、回転しながら湊の首の両側をぎりぎりで通り過ぎる。

「これはっ——」

 事態を理解した湊は急いでボーストの頭を強引に低く押し下げた。

「——隠れてください!」

 たとえ理想的な状態ではなくでも、着弾した木製の板に繊維が花のように飛び散る大きな痕を弾丸は残せた。

「クソが、対物ライフルかッ! よく合うんじゃねぇかッ」

 この短い時間、神泉悠慧はまるで人が変わったかのように振舞う。狂いじみた口調に成り果て、瞳の奥に忌々しい光が纏繞する。

「悠慧、お前……」

 倒れたまま呆気にとられた湊は何か恐ろしいものを見ているようにぼうっと悠慧を眺めていた。

「そういうことなんだよォ。ったく、どいつもこいつも、対物ライフルをオモチャにしてはしゃいでくれんな、おい! それより、用意しろ」

 悠慧のことも心配だが、まずは現状を処理しないといけないため、次の行動に移した。

「何をすればいい」

「また何か来る。そいつを連れてけ——」

 話が終わらないうちに、屋内の家電から青い閃光、俗では電流がありえないほどに纏わり付く……

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