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クロス・ファントムワールド  作者: 霧山怜哉
飛び違う「幻影」
20/22

Episode04 初対面Ⅰ

「お前がここに来てるってことは、話はあいつから聞いたよな」

 足を踏み出した悠慧はちらりと並んで歩いている湊の装備を見て、そして彼のフル装備を思い出すと、感心せざるをえなかった。

 今の悠慧が持っている装備は今まで彼が使用してきた物のすべてと言っていい。二本の刃物と狙撃銃だけの、現代戦争に極めて相応しくない所持物に対して、特製のアサルトライフルとマシンピストルはさておき、湊はアドレナリンやアトロピンとプラリドキシムヨウ化メチルのような解毒剤、戦術止血帯《Combat Application Tourniquet》、サムスプリントなどの救急用品から、防爆小型コンピューター、ボアスコープ、必要があれば砲台さえ備えられる。

 その恐ろしい数量の装備品は当然ながらどのような局面をも対応できる安定性をもたらす。

 いくら今湊が持っているのは最低限度の武器と|応急処置キット《First Aid Kit》だけでも、その重量は悠慧のよりは上回っているはずだ。

「いえ、たださっき電話で村上さんに悠慧と一緒に行くようにって」

「うわぁ……あいつ、厄害でしかねぇ」

 ここまで話すと悠慧は澪がまた面倒くさいことを自分に押し付けたということが分かった。

「さっきのさっきまでさんざん手間かけたんに、クソ、あの恩知らずめ」

「まあまあ。いいじゃないか。僕たちのできない文書仕事とか管理委員会スーパービジョンコミッティの雑用とかをやってくれてるんだから」

 湊が苦笑いで相槌を打つと、悠慧は仕方なさそうな顔でつぶやく。

「はぁ……しゃあない。湊、この件についてなんだけど、ちょっとレアなケースでね」

 門番の窓をノックしたら、これから行く目的地を事前に知らされた一人の警備員は引き出しから車カギを取り出した。悠慧は「お願いします」と告げ、もう一人の警備員に「いってらー」と言われている警備員に会釈する。

「レアなケース?」

「ああ、レアっていうか。生まれてこの方一度もなかったけどな」

 一礼を返され、今は警備員の後ろをついていく悠慧は両手を後頭部で組んだ。

「そういえばさ、お前来年になれば車運転できるんだろう?」

 続きを待っていると、一転した話題にちょっと泡を食ったが、悠慧がこのように急に話を変えるのはいつものことだから、すぐに切り替えて応答した。

「そうだよ」

「へえ、いいな……俺まだまだ先遠いわ、こういうときが不便なんだよ」

「悠慧が十八歳になれば」

「お前がもうすぐ十八になるからそんな口を叩けれるんだよ。ったく。てか、来年、載せてくれよ」

「もちろんだよ」

 いたずらっぽい視線を湊の方に送りつけると、彼も穏やかな笑みを返してきた。

「この前、お前オートバイ買ったよな」

 また急変する話題。だが、今回は不快を引き起こそうとする口振り聞こえなくもない。湊の身体は一瞬だけ静止画のようにピクリと止まった。

「えっ」

「あーれ? なんで俺たちに見せてくれなかったんだろう」

 顔の筋肉を引き攣らせる悠慧は明らかに笑うのを我慢している。

「またそれか……そもそも僕はちゃんと鍵かけたんだよ」

 購入したバイクを誰にも見せられなかった理由はただ一つ、それは当日に盗まれたからだ。あの日、帰ってきた湊の顔はなんとも剽軽だった。

「格好つけたいからだめなんだぞ? 年上のくせにバイクなんかさ」

「だから格好なんかつけてないって」

「嘘つくなよ、はは」

「ですから……」

 このネタは今までに腐るほど使用されてきた。そして、これからも更に腐ってしまうほど悠慧に使われるだろう。


 寒さゆえか、それとも湧きたてる緊張のせいか、悠慧は思わず歩きから早足に移ってしまった。

「ここがあの犬耳の子を発見した場所なのか?」

 悠慧は冷え切った手を緩んでもう一回握りしめる。すべての人がそうなんふうに感じているのか、それとも悠慧だけなのかは知れないが、夜の空気は昼よりじめじめしている気がする。

「ああ、来た道は一直線だったから多分間違えない。この木だ」

 悠慧はすぐ目の前にそそり立つ品種の知らない広葉樹に掌を当て、ザラザラとした幹の表面を擦りながらごくんと頷いた。

「じゃあ、このあたりを探してみようか」

 樹木の根元を眺めているのをやめ、湊はちょうど視線を送ってくる悠慧に目を合わせた。

「ああ、わかった、せいぜいあの『魔法老人』に合わないように、な。手に負えなかった呼べよ」

「はは、分かったよ」と青髪の少年は屈託ない顔で笑い飛ばし、ヘッドセットを装着して先に探索しに去っていった。

 数秒遅れて悠慧も同じ手付きでヘッドセットを取り付け、口元の位置まで持ち上げたマイクに「もしもーし」とつぶやくと、ワイヤレスイヤホンの向こうから湊の声で同じ言葉が返された。回線が繋がっていることを確認し、マイクが邪魔にならないように少し顔より下の方へ下げた。

 これであの実況カバどもと同じ目に会うかな……

 そんなふうに思いつつ、その考えを蔑むように笑う、弱気が身体のどこからも溢れ出しているにも関わらずに。

 今朝の僧侶のこともあって、今ここで何が起きようとしているかは神ぐらい偉大な者しか分かれないだろう。

 懐中電灯で前方を照らして、近くに人造物らしきものや不自然なものを探す。

 うっそうとした森林と縦横に交錯する枝葉は四面に囲む壁のように月明かりを遮断し、懐中電灯に照らされない先の暗闇は巨獣の口のように深く、不気味である。

 今に比べれば昼のほうがずっとましだったかもしれない。

 嫌だな……

 見えないところまで気を配りながら、悠慧は光の中を注視していた。

 ああいうネットでくだらない動画を投稿する暇人まで探検しに来たなら、もしかすると補助機関のクソ野郎どもも実はここに来てたかもしれないじゃないか? それにやつらもすでに人狼を確保できていて、ただ俺たちに邪魔されないように情報を放出してないだけ。

 安全議会セーフティカウンセル管理委員会スーパービジョンコミッティ新時代計画プロジェクトニューエラ、この三つはPKOの付属機関だって、最初から教え込まれていたけど、結局のところ嘘ばかりだった。俺だけではなく、日本支部のみんなもなんだか風変わりな感じがするって言ってるし。以前やつらは掴んでいる情報を全部データベースに上げてたけど、俺たちとも摩擦面が増えつつ中、ひょっとしたら今回は隠匿することにしたのも考えられなくもない。

 思いながら悠慧は苦笑交じりで頭を振った。

 いいや……本当にこの前からやつらが人狼の情報を手に入れて行動するつもりだったら、前日来たときに、アインとあんな論争も起こさなかっただろう。論争したあの日から今日までの間に人狼の情報収集し、拘束するなんて、相当運よくなければ、時間的に無理のはずなんだけどな……って何自分に言い聞かせてんだよ俺!!

 突然、悠慧は周りを見渡す。

「あれ?」

 今自分の視線を注がれている樹をさらに見下げて、気恥ずかしそうに表情を歪めた。

「もしかして、昼とこはここだったりして……」

 樹の下に何かが置かれていた痕跡が広がり、その痕跡の近くに二人分の深めの足跡とそこから離れていくときに残されたような浅い足跡がある。

 昼の悠慧たちは布団を観察するときにしゃがんだから、深めの足跡ができて、離れるときは走っていったから浅い足跡が残されたのだろう。

「やっべぇ、さっきあそこだって言ったのに、結局ここだったのかよ。俺の威名がここで絶つのか……そんなもんないけどさ」

 知らないふりしようっと。

 それからおよそ一時間が経った。耳元に喚起音が響き、それから湊の声が届いた。

「どうした?」

『面白いものを見つけたんだよ』

「面白いものって、人狼か?」

『いえ、狩猟小屋』

「ここは許可証があればできるんだろう? 狩猟くらいは」

 悠慧はそれに何かおかしなところがあると思わない。森林の面積が拡大して以来、政府も狩りを融通して、許可証があればできるようになった。

『それが狩猟小屋の四面はバラ線で囲まれてるんだよ』

「ああ、確かに変だな。野生動物は普通人類の気配のあるところにいかないからそんな必要性はないな」

『僕はこの家主はここに住み着いてるかなって思うんだ。たとえこの件と関わっていなくても。何かを見た可能性もあるんじゃないかな』

「なるほどね、面白い、今どこなんだ? 座標をくれ」

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