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アラフォー・クエスト  作者: レト
第二章 幻想郷の足跡
22/25

21話 オンラインショップ

 カルガノ山を旅立ってから五日目。

 結局セルケトの不機嫌の理由がわからず、他人の嫌な記憶を垣間見た昨日。

 蠍の背の上で胡座をかく六道は、瞳を閉じ静かな呼吸を繰り返す。

 瞑想を体のいい隠れ蓑に、悶々とヒマを持て余していた。


(そういや護身用の武器どうしよう。魔法は……人には使えない威力だし)

『オンラインでのお買い物は如何でしょう』


 VRからの思わぬ提言。


(え、ほんとに? アイテムボックスに入ってるのが全てじゃなくて?)

『試験的開業記念に、特別VIP優待券が使用可能です』

(優待券……なんと甘美な響きだ。では買い物に行こう)


 誰かの口調を真似つつ、オンラインショッピングの意味が分かっていない。


『回線1から3を接続。視界開きます』


 瞼の裏の暗闇が、アナログテレビの砂嵐に映り変わる。

 良くない発作でも起きたのかと不安に駆られるが、間髪入れずに視界は開ける。

 それは、海外ドラマでよく見る拘置所の面会室。


 モルタルの塗られた壁は現代建築の趣向。

 部屋の中央をテーブルとガラスが仕切り、向かい合うように椅子が並ぶ。

 殺風景で監獄のようなこちら側と異なり、ガラスの向こうには棚や木箱がひしめき合い、雑多な印象を受ける。


 締め切られた部屋にいるものの、森の香りがする。

 瞳を開けると見慣れたセルケトの背中。長く艶やかな黒髪が風に戯れている。

 再び瞳を閉じると、モルタルの部屋。

 ビクトリア・ローズにとって、最もVRらしい仕事ぶりが発揮されている。

 五感の全てを体感できる訳ではないが、元の世界のVR水準は優に越えていた。

 部屋に二つあるドアの内、ガラス挟んで対面のドアが開き、朱色の西洋甲冑姿の人物が部屋へ入る。六道側のドアは誰も使用していない。


「ようこそ、いらっしゃいました、リクドウ様。会話は言葉にして頂かずとも通じますので、どうぞリラックスして御掛けください」


 男性の声で、朱色のフルアーマーの籠手が椅子を指し示す。

 六道が己の身体を見下ろすと五体満足揃っており、思い通りに動かせるようだ。

 促されるまま、椅子に掛ける。


「私、ダルタエンが担当させて頂きます」

(よろしくお願いします。六道厳です)


 ガラスで遮られ、初めは犯罪者の気分だったが真摯な接客に心を許す。

 対面に掛けるダルタエンの肩幅は異様に広く、ゴリラのような剛腕が卓に置かれる。武骨な矩形の装甲部位も見られるが、フリューテッドアーマーの特徴である細やかな溝が随所に施され、ドイツのニュルンベルク製と見紛う。

 そして、椅子がO脚に軋む音がした。


「お初に御目にかかり光栄でございます。本日は武器、装具の御入用で?」


 こちらを向くバーゴネットタイプの兜の隙間から、紅き月ような眼が一つ輝く。


(そうなんですよ。威力の弱い武器が欲しくて……)

「ナイフや短剣では、不都合がお有りですか?」


(いやぁ、馬鹿みたいな腕力になる時がありまして……)

「作用で。では銃火器は如何でしょう。弾薬の火薬の量を調整すれば、好みの威力を得られます」

(なるほど、それはいいな)


 足元の鉄箱を開け、品を取り出す。


「こちらキャニスターになります。背中に背負うタイプになり、前方に弾頭を飛ばします」


 テーブルに置かれたのは、砲筒が三列二段に組まれた武器。

 計六発の弾を飛ばせるらく。肩かけ用のベルトが付く。


(リボルバーみたいなのを期待していたが、そうか、このくらいの技術力か)


 六道は単発式の包筒を見るや、近代銃器と比較し技術力を侮る。


「申し訳ありません。リボルバーは試験段階中でして、特注で二日程。お時間を頂ければ……」

(いや、無理を言いました。これ、1mくらいですよね?)

「サイズは、14.6mになります」

(……!? もしかして、これ実寸じゃない?)


 テーブルの上に、長距離弾道ミサイル六機とは恐れ入る。

 よく目を凝らすと、対面のテーブルの縁やキャニスターを取り出した鉄箱には、お箸くらいの梯子が架けられている。


「私の身長が62mですので……」

(大怪獣かよ……)


 部屋がガラスで仕切られている意味が、ようやく分かった。

 こちらと向こうでは、空間の縮尺が違う。

 対話を円滑に進める為、モニターの役割を果たしている。


(私は身長2mもないんだけども)

「そのサイズのリボルバーでしたら、つい先日完成した試作品が御座います。微調整の後、お送り出来ますよ」


 危うく、身の丈に合わない買い物をするところだった。


(いやぁ、ありがとうございます。おいくらですか?)


 六道は凄まじい数のアイテム所持者である為、金銭的な心配は無い。


「リクドウ様は、VIPですので料金は受け取れません」

(え、本当にぃ? いや参ったなぁ)


 参った人間とは思えない程には、ニヤけている。


「特別優待で、鎧などの装具も一式揃えられますが、ご要望はお有りでしょうか」


 それなりに興味はあるが、希望を言葉に出来るほど知識もなく、


(鎧、鎧かぁ。それはオススメで)

「それでは、最高級の物を用意させて頂きます!」


 バーゴネットの兜で表情は読めないが、声音が嬉々とし上擦っている。


(いや、悪いなぁ。何かお返ししたいところだけど)

「……でしたら、リクドウ様のお持ちの品で、武帝グロス・デオ・ドラントのローブを頂けませんか?」


 妙に特定の品を欲しがるものだが、たまたま一度羽織って、涙と鼻水を擦り付けただけで執着はない。


(ああ、全然良いですよ。汚れてないかな?)


 VRにより、転送完了という文字が視界に表示される。


「お買い上げありがとう御座います。汚れは気にしません。晒すだけなので」

(サラす。なるほど。でも、まさか銃が手に入るとはなぁ。棍棒みたいなので乗り切ろうとしてたから助かったよ。まぁ戻ったら練習が必要だけどな)


「よろしければ装具一式の準備が整うまで、訓練を受けてみては如何でしょう?」

(銃の訓練か、習う機会もなかったし安全に扱うには必要だな)

「施設まで、サポートシステムがご案内いたします」


 席を立ち深々礼をするダルタエン。胸に添えていない方の腕が床に着いている。


『ルームを切り替えます。視界が乱れますので、ご注意ください』


 視界は再びアナログテレビの砂嵐に映り変わる。

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