62話:武神―東雲
かつて、俺の名は、東雲佳美弥と言った。加奈穂からは、かみやだから『みやくん』と呼ばれていた。
「貴様の姓は、篠宮か希咲か、それとも雨月か。いや、そのどれでも無いとするならば、東雲か」
琥珀は、すでに、俺の苗字を、絞っているらしい。だから、俺は、告げる。
「東雲だ」
琥珀は、少し、驚いたような顔をした。理由は分からないが、東雲という姓は特殊なようだ。
「そうか。東雲か。まさか、まだ、残って居ったとは……」
しみじみと呟く。
「東雲って?信也くんは漣っていう苗字じゃ?」
混乱している様子の晴香先輩。彼女への説明は後回しにしよう。
「東雲は、三神の一人の分家じゃ。じゃが、その力は、本家にも匹敵してのう。本家に一度滅ぼされたはずじゃ。しかし、生き残りがいたか」
どうやら、俺の一族は、滅ぼされているらしいのだが、生き残った人間の子孫が俺や姉さんらしい。
「それで、小童。名は何と申す」
「佳美弥」
俺は、簡潔にそう告げた。
「そうか。お前は、やはり《緋王》になるべき者ではないようじゃ。武神の子よ。お主は、《始祖》じゃ。《焉》と相反する存在。貴様が、この世界の《終焉》を防ぐものだ」
そして、語り始める琥珀の言葉を俺は、じっくり聞いた。
「この世は、世界の一つに過ぎぬ。数多ある平行世界には、必ず、《終焉》の時が来る。しかし、その《終焉》は、必然か、人為的か。そして、《人為的終焉》を避けるための存在が、どの世界にも存在する。それは、三神の子孫なのじゃ。この世界でのお前のことじゃ」
つまりは、《人工的終焉》が今起きようとしている。それを止めるのが俺ということか。しかし、そんなことがありえるのだろうか。神の子孫だという時点で実際に体験していなかったら、信じてすらいなかったはずだ。
「結局、どういうこと?」
晴香先輩が首をかしげている。俺は、今までのことを懇切丁寧に説明する。
「そっか、東雲佳美弥って言うのが信也くんの本名なんだね。と言うか、琥珀の説明をよく受け止められるね。わたし、最初は嘘だと思ってたもん」
その前に、猫が喋ったことを疑うだろう。やはり、晴香先輩はどこかがずれている。しかし、この、《人工的終焉》と言うのが何かが分からない。
「今までの《人工的終焉》はのう。正直言って参考にはならん。なぜならば、魔法と言うものが存在するからじゃ。この世界には、それがない。じゃから、何を持って終焉に導くのやら、見当つかん」
どうやら、平行世界には、魔法と言うものが存在するらしい。しかし、関係ないことだ。しかし、終焉と言っても何か分からない。何が起こる。
「《焉》と言う男は何者なんだ?」
俺は、勝手に男と断定したが、まあ、そこはどうでもいい。こないだから聞いていた名前。《焉》と呼ばれる存在。
「貴様、《死の結晶》と言う組織を知っておるか?」
「まあ、な」
姉さんと藍の所属していた組織。二人からの情報で、構成員の数がそこまで多くないことと、幹部が、あと一人しかいないことが分かっている。もしかして、その幹部か。
「《死の結晶》のボス、それが《焉》じゃ」
まさかのボス。あの組織の。俺の家を燃やし、全てを変えた存在。そのボスが、《焉》。
「しかし、何をしようってんだ?」




