37話:S事件―激しすぎる交響曲
この先の道は、見通しが悪く、襲われるならこの道だろう。俺は、そう見越して、お嬢様に対衝撃態勢をとらせる。
「本当に、ここで襲ってくるの?信也君」
すっかりフランクな言葉遣いになったお嬢様を説得させる。運転手は《PP》から借りてきた。生え抜きの運転手なので、どうにかなるだろう。
「見えた、絶対に喋らないでください。舌を噛みますよ」
俺は、敵を視認すると、お嬢様に注意して、態勢をとる。あれは、RPG-7。おそらくは、直接車に当てることはないだろう。直前で爆発させて、車を転倒させるのが目的だと思われる。判断理由は、前の襲撃の資料を事前に確認しておいたからだ。そして、衝撃が車全体に走る。
横転した車で、まず、お嬢様の無事を確認する。衝撃のせいでエアバッグが飛び出しているおかげで、無傷なようだ。
「大丈夫ですか、お嬢様」
「う、うん」
そして、ヒビの入った窓ガラスとミラーから敵の数をおおよそで探る。確認できたのは五人。一人だけ、銀色に髪を染めている。こいつが《銀狼》か。俺は、ベレッタを抜きつつ、車の中から、敵の足を狙う。跳弾を狙い、なるべく正確に、撃ちつくす。全十五発の弾丸が、五人の足をめがけて飛んでいき、四人を戦闘不能に出来たようだ。しかし、残った一人は、《銀狼》。やはり、正確に狙えない、ここからじゃ不利だ。俺は、弾を入れ直したベレッタを持つ。
「お嬢様、少しここにいてくださいね」
耳元でそう、囁き、お嬢様を置いて車体の外へ転がり出る。《銀狼》は少し驚いたような顔をして、口笛を吹く。そして、一言。
「こいつは驚いた」
「何に驚いたんだい、《銀狼》」
俺は、ベレッタを構えながら、《銀狼》を睨み付ける。
「おいおい、マジかよ。俺の名前までばれちゃってんの?しかもその言い方、すんげぇむかつく」
なんだ、この軽薄な感じは。しかも演技とかではない。軽薄そのものだ。
「ソイツはどうも。むかつくって言われんのは慣れてますんで」
睨み合いながら、俺は、《銀狼》を車から引き離す。
「ああ、やっぱりてめぇは、《真海》のアレだな」
奇妙な笑い声とともに、妙なことを言う。マミ?誰だそれは。まったく心当たりのない名に、俺は眉に皴を寄せながら、聞き返す。
「誰だよ、マミって」
「はん、誰が、教えっかよ!しかし、まじいな。ここで失敗すると俺は、《影》に消されちまう。つーわけで、お前さんをぶっ殺させてもらうぜぇえ!」
《銀狼》が銃を抜いた。おそらく、マカロフ。マカロフ?加奈穂の事件の犯人の持っていた銃もマカロフ。もしかして繋がっているのだろうか。境出加奈穂誘拐事件と今回の襲撃事件が繋がっている。窃盗未遂事件と襲撃事件も繋がっている。つまりは三つの事件全てが繋がっていれば、全てに《影》という人物が関わっているに違いない。
マカロフが発砲される。まっすぐ俺に向かって飛んでくる。しかし、それとほぼ同時に俺は、一発。すぐさま、二発目を撃ち込む。相手の弾を正面から受け、跳ね返し、俺のほうに返ってくる自分の弾を二発目でさらに弾き返す。そして、二発目は、俺のほうに跳ね返ってくるが、撃つと同時にしゃがむことで、何とか避けきる。《銀狼》の弾が、マカロフに飛び込み暴発する。そして、直後に俺の一発目の弾がさらに飛び込む。そして、《銀狼》の肩を打ち抜いた。
「これで、チェックメイトだぜ、《銀狼》よ」
「それはどうかな」
油断した。そう思った瞬間、俺の視界は、眩い光で埋め尽くされ、気を失った。




