22話:喫茶店―面影
ゴールデンウィーク初日の温水プールの帰り、俺、いや、俺達の姿は、近くの喫茶店にあった。いかにも普通の喫茶店という感じの店で、趣のあるいい店らしい。らしいというのは、俺は、喫茶店など来たことがないからだ。昔、周の両親と、一度、入ったことがあるくらいか。小学生は喫茶店などよりゲームセンターだから、中学は行かずに《PP》に行ったため、喫茶店という場所とは無縁だ。
「喫茶店なんていつぶりかしら」
などと呟いたのは、周だった。どうやら周も喫茶店には、あまり来たことがないようだった。しかし、どうもこの店には既視感を覚える。店の雰囲気。店長のあの、奇抜なヘアスタイル。店員の制服。全てを一度、見たことがあるような。
「いらっしゃいませ。五名様ですね。カウンターで構わないでしょうか?」
大きくない店なので、テーブル席はあまりないので、別に構わないと思う。
「えっと、大丈夫です」
そう答えたのは加奈穂だった。そして、カウンター席につく。目の前で奇抜なヘアスタイルの店長がコーヒーを入れていた。
「…ん?君、もしかして、いや、違ったら悪いんだけど、如月さん、かな」
店長が、困惑気味に周に聞いた。どうやら、周はこの店を知っているらしい。
「は、ハイ。そうですけど」
あれ、アレは猫を被っている。そうなると、知り合いという可能性が失せるのだがどうなのだろうか。
「あー、やっぱりそうか。お母さんにそっくりになったね、周さん。前に親子で来てくれたのが小学校六年生くらいだったから、ずいぶん前になるから覚えていないかな」
「えーっと、あ、アイツと一緒に来た喫茶店はここだったんだ。あまり覚えていなくてすみません」
アイツ、という言葉で、俺の心臓が飛び上がる。
「ああ、あのときの少年ね。確か、家族で撮っていた記念写真が残っていたね」
店長が無駄な記憶力を発揮して、写真を見つけ出す。そして、みんな、ようやく見つけ出された写真を一目見たときに、加奈穂が、大きな声を上げる。
「み、みやくん…?!」
「え?境出さん。こいつを知ってるの?」
いつもの猫がはがれているのを気にせずに、加奈穂に話しかける。
「え、うん。幼馴染のみやくん」
そして、皆、数日前の生徒会室でのことを思い出したようで、写真を見て、俺を見る。咲耶は、あの時生徒会室にいなかったはずなのだが、写真を見た後、俺をじっくりと見ている。冷や汗をかきつつ、みんなに聞く。
「ど、どうしたんだ」
「いや、この子。信也に似てない?」
咲耶がそういったのをかわきりに、皆、似ていると騒ぐ。
「そ、そうか?他人の空似ってやつだろ。第一、俺は、如月さんとは、入学して初めて会ったんだから」
「それも、そうね…」
皆、ふに落ちない顔で、それでも頷く。どうにか、収まったようだ。それから、コーヒーや紅茶など(咲耶のみフルーツジュース)を飲んで寮に帰った。
寮に帰ってしばらくして、咲耶から着信が入った。
「もしもし?」
『あ、信也?一つ聞きたいんだけど、昼間のアレってさ』
「ああ、やっぱりばれたか」
咲耶は、あの喫茶店に訪れてから、数ヵ月後に逢ったのだ。写真を見て、気がつく可能性は十分にあった。
「アレは、俺が、まだ信也として、相棒を持つ前だ」
『そ。確認はそれだけ。じゃ、グンナイ』
おそらくグッドナイトといったのだろう。そんなことを考えながら、俺は眠りについた。




