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20、巨竜アルビオン

「どおらああああ!!」


 大振りのロングソードを狼の魔物に叩き込む。

 回天の蝿(ブランディッシュ)だ。


 狼が地面に崩れる。すると真横から咆哮が上がる。狂気の狼の牙を剥いた大口が迫る。そんな真っ黒な幻影が映った。

 振り向くと狼が口を開け、迫っていた。


 横から割って入ったロンクがリックに迫るその狼を殴り飛ばした。


 一行が今、相手にしているのは狼の魔物の群れだ。その数は十数体。そのうちの何体かは燃え上がっている。しかし、倒れる様子はなく立っている。


 向かってくる狼が突然分身したように連なる。その数は百体ほど。横に連なる。これも幻影だ。


「くそっ」


 瞳蛇印(ドウダイン)を片っ端から放つが、連なった狼は止まらない。どれが本体かわからない。

 剣を横に振る。薙いだのは連なった幻影でロングソードは空を切った。本体には当たらない。

 そこへ背後から別の狼が噛みついてくる。その直前にはあの狼の巨大な咬殺へと向かう黒い幻影が入る。狼の攻撃の度に肝を冷やすようなおぞましい幻影が目の前に迫る。

 振り向いて剣で防ぐ。牙が眼前に迫る。受け止めていると連なった狼がさらに後ろから襲ってくる。

 そこへルヴェイが剣を突き立てる。狼の首を貫いた。


 魔物の猛攻に挟まれる異形の幻影は陰気によるものだ。奥深くなるにつれて陰気も酷くなる。


 さらに不死身のように起き上がってくる魔物の群れ。炎でも焼ききれない。焼け死ぬ前に炎が切れる。

 狼ごときでこんなに苦戦するのか――。


 十数体の狼を仕留めきれない。傷を負っても立ち上がってくる。


「全員退け」


 ゼムセルノートが左手を上げた。それに合わせて周りのものは構えを解いた。


 来る――。


 ゼムセルノートの特異超能力(クラシック)だ。

 彼の特異超能力は超越能力(アーリーアダプター)級だ。


 一瞬場が静まり返った。その次の瞬間。


 狼の体が宙に浮いた。

 十数体、全ての狼が空へと浮かんだ。

 狼たちは身動きが取れない。そこへ――。


 ボン、という爆発音と共に、全ての狼が爆発した。あたりに狼の肉片が飛び散る。


 【月面(ザ・ムーンワールド)】。全ての対象を宙に浮かせるゼムセルノートの特異超能力だ。

 そして、【対不動兵器(アトミックボム)】。一定時間、動きを止めた対象を爆破させるラインハルトの特異超能力だ。


 異能力のコンボにより魔物は全滅した。


「全員無事か」


 辺りを確認する。致命傷を負ったものはいない。

 どうやらグラスハートの言った通り、ロディアスの大穴の中は昼も夜もなく魔物が活発なようだった。辺りは松明で明るいが魔物は次々と襲ってくる。


 一行は再び歩き始めた。

 襲い掛かる陰気を跳ね除けるようにエネルギーに満ちた足取りで歩く。

 心で負けたら終わりだ。精神が陰気に押し負けると、どんどん膨張する陰気にやられ、おそらく恐怖でそこでショック死してしまう。ここで心配なのはトリーシャとリディスの騎士たちだ。異能力持ちの男たちが彼らのことも庇うように歩く。


 ばあ――!!


「何か言ったか?」


 ランディスが尋ねる。


「何も言ってない」


 ルヴェイが答える。

 空に浮かんだ老父の顔が奇声を上げる幻影だ。

 似たような幻影が間断なく空中に湧いてくる。

 こういうものに恐怖すると幻影はさらに恐ろしいものになる。


「ブッ殺すぞおらあああ!!」


 突然、ハーリオンが怒鳴り声を上げ、そばの大木の幹にロングソードを突き立てた。何かの幻影を見たのだろう。

 彼の激しい怒気が少しの間、陰気を払った。景色に火がつく。各人が強気で進んだ方が陰気は弱まる。


 やがて一行は少し開けた場所に出た。

 もう大分歩いた。最深部に来てもおかしくはないほどだ。


 しかし、ここに来るまでしばらく魔物の出現する気配がなかった。不気味なほど静かだった。


 何かが来る――。


 全員がそれを悟った。

 そしてその予感の通り、彼らの前にそれは姿を現わした。


「!?」


 最初に気づいたのはラインハルトだった。一人、上空を見上げ、叫んだ。


「避けろおおッ!!」


 上空からそれが降ってきた。


 爆音を立ててそれは地面に激突した。巨大な影がそこに立つ。


 先ほどのハーリオンの怒鳴り声も尾を引いており、全員が怯まずに積極的な精神状態でそれを迎え撃ったおかげだろう。場でネガティブな事象は起きなかった。誰も体を潰されなかった。


 土煙が上がり、巨体が目の前で揺れる。その姿に全員が驚愕する。

 そんなことはあり得ない。誰もが目を疑った。

 しかし、これは紛れもない現実だ。それを知っているものも知らないものも、その巨大な脅威に恐れずにはいられなかった。そこにいたのは――。


 伝説の魔物、巨竜アルビオンだった。


 二十年前に倒したはずの魔物が今、目の前に蘇った。


 恐ろしい威圧感を伴い、一行を睨みつける。


 こんな体で、何てジャンプ力だよ――。


 全員が心の中で悟った、おそらくこれが最後の試練だ。


 この辺りが最深部で間違いない。


 そう思ったのは、この巨竜のジャンプ力だ。

 こんな身の軽さは伝説でもそれを打ち破ったシオンコールたちの話でも聞いたことはない。重い巨体だったはずだ。

 ロディアスの大穴の力で変異した結果だ。ヤマネコの殺し屋のような気配。そして狼のゾンビのような耐久力。他の魔物たちもどれもこれまでのものとは違う。

 昔のアルビオンとは違うのだ。


 全員が覚悟を決めた。これを倒せばおそらく終わりだ。

 変異の元であるロディアスを、早く破壊しなければ。


 戦いが始まる。

 全員でやるしかない。


 ここでは、一対多数となる、あるいは雑魚戦向きの異能力は役に立たない。

 有効なのはリックやロンクなどの強化系の異能力だろう。


 それでもどこまで戦えるかはやってみなければわからない。

 この後、彼らはそのあまりにも凄惨な現実に絶望するのだった。


 それは途方もない、巨大な壁となるのだった。

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