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おっさんとフレブル  作者: 水前寺鯉太郎
第3部 グランドサークル大縦走

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真庭〜高梁

二〇二九年七月十二日


 真庭のコインパーキングで朝を迎えた俺は、ジムニーの進路を南へと変え、高梁市へと向かった。

 SNSのフォロワーからの書き込みの中に、どうしても気になる文言があったのだ。

『高梁市には、最高の雲海が見られる備中松山城があります。まるで空に浮かんでいるような城ですよ』

 天空の城、か。もし幻想的な雲海を狙うのであれば、明日の朝一番にアタックをかけるのが鉄則だろう。ならば、まずはルートを確認しておくべきだと、俺たちは日中のうちに下見を兼ねて一度登ってみることにした。

 ジムニーを中腹の駐車場に停め、ボス、エルヴィス、こまにリードをつけて歩き出す。だが、現存する天守の中で最も高い場所にあるという城山は、想像以上に険しかった。緑に囲まれた登城道は容赦のない急斜面が続く。

 木漏れ日の中を息を切らせて歩いていると、突然、足元に妙な重みを感じた。見ると、こまが俺のワークブーツの上にちょこんと前足を乗せ、縋るような目で見上げてきている。

(おっちゃん、もう無理。抱っこして)

 丸い瞳がそう訴えていた。

「……却下だ」

 俺は非情に言い放った。フレンチブルドッグもパグも、油断すればすぐに丸々と太る。日頃の運動不足をここで解消しろ。

 叱咤激励しながらなんとか山道を登りきり、山頂にそびえ立つ備中松山城の天守へとたどり着いた。白い漆喰の美しい城壁が青空に映えている。

 ふと足元を見つめると、ボスも、エルヴィスも、こまも、一歩も動けないといった様子で地面にへたり込んでいた。三匹とも長い舌をべろりと投げ出し、「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」と壊れたふいごのように激しく荒い息を吐き出している。

「おいおい、情けないぞ猛獣ども。本番は明日の朝だからな」

 そう声をかけたが、三匹はぴくりとも動かず、ただ恨めしそうな視線を俺に寄こすだけだった。

 なんとか下山を終え、高梁の街に夜が訪れた。

 コインパーキングに停めたジムニーの中で、俺はいつも通り、三匹の皿にカリカリのドッグフードを盛り付けた。

「ほら、飯だぞ。しっかり食え」

 だが、三匹は誰も皿に見向きもしなかった。

 いつもなら音速でがっつくボスも、食い意地の塊であるエルヴィスも、甘えん坊のこまもだ。

 三匹は並んだ皿を完全に無視し、代わりに給水器の水だけを、カチカチカチカチと信じられない勢いで貪り飲んでいる。よほど、昼間の山登りが身体に堪えたらしい。

 空っぽになった給水器に新しい水を足しながら、俺は横たわるバディたちの背中を見つめた。

 ――これ、本当に明日の朝、もう一回登れるのか?

 静まり返った車内、三匹のぐったりとした寝息を聞きながら、俺は明日の作戦に少しの不安を覚え始めていた。

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