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おっさんとフレブル  作者: 水前寺鯉太郎
第3部 グランドサークル大縦走

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庄原〜府中

2029年7月10日


 庄原の街をあとにした俺たちは、府中市へ向けてジムニーを走らせていた。

 その途中、せっかくだから夏のマイナスイオンでも補給しようと、中国山地屈指の名勝・帝釈峡たいしゃくきょうへと寄り道をすることにした。

 帝釈峡といえば秋の紅葉が全国的に有名だが、今は初夏の深い緑に包まれている。駐車場にジムニーを停め、ボス、エルヴィス、こまの三匹にリードをつけて下ろすと、渓谷を吹き抜ける風が驚くほど涼しかった。下界の酷暑が嘘のような天然のクーラーに、三匹も嬉しそうに鼻をフゴフゴと鳴らしている。

 遊歩道を歩いていると、すれ違ったライダースジャケットのバイク乗りから声をかけられた。驚いたことに、その人も俺のSNSをチェックしてくれているフォロワーさんだった。

「いつも三匹のいびき動画、癒やされてます!」

 旅先でこうして立て続けに声をかけられるとは、本当に世間は狭い。それと同時に、組織の肩書を失ったただのおっさんと三匹の放浪を、これほど多くの人が見守ってくれていることが、無性に誇らしく、光栄に思えた。

 午後、俺たちは府中市へと到着し、「道の駅 びんご府中」に滑り込んだ。

 お昼時に美味そうな肉料理を注文すると、案の定、足元から血眼になった三匹の熱い視線と、床に滴る滝のようなよだれの圧が押し寄せてくる。「俺たちにもよこせ」という無言の抗議だ。

「だめだ。人間用に味付けされた肉をやるわけにはいかない。完全なコンプライアンス違反だ」

 俺の脳内監査室は今回も厳格だった。彼らの猛抗議をピシャリと撥ね退け、代わりに持参していた高級ジャーキーをちぎって口に放り込む。

 ジャーキーを咀嚼する三匹を見ながら、ふとジムニーのラゲッジスペースを確認した俺は、冷や汗をかいた。

 多めに買い込んできたはずの主食の「カリカリ(ドッグフード)」が、早くも底をつきかけていたのだ。三匹合計三十キロの鼻ペチャ大食漢たちの胃袋を、完全に甘く見ていた。

 やばいな。次の街でカリカリ買っとかないと、こいつらの飯がなくなる。

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