書類攻め
その日の夜、カイルに内緒でリリアたちが集まっていた。
目的はもちろん、これからのことである。
「やはり想像以上に危険が多い地じゃ。魔物は倒しても倒してもきりがなかったぞ?」
「そうみたいだね。私も結界を張ったのだけど、それをすり抜けられるくらい強い魔物しかいないみたい」
「そうなるとカイルが言っていた水道管を設置するのも難しいかもしれないな」
三人は頭を悩ませていた。
「おそらくは魔物が湧くなにかがあるんじゃろうな」
「それなら明日からはそれを探ってくれないか? 危険は極力排除しておきたい」
「でも、魔物を討伐するのはどうしたら良いのじゃ?」
「それはちょうどいいトカゲがいるだろ?」
口には出さずとも、視線はクロが寝ている小屋へと向く。
「なるほど。確かに能力はあるからな。でも、言うことを聞くのか?」
「聞かなかったら晩ご飯にするだけだからね」
「なるほど、そう脅せば良いのか」
「別に脅してないよ? 本気だから」
リリアがにっこりと微笑む。
「ただ、あのトカゲを最近カイルは可愛がっておるのじゃ。いなくなったら悲しむんじゃないか?」
そこでリリアの笑顔が固まる。
「カイルくんが悲しむならダメ。食べるなんて恐ろしいことを言ったらダメだからね」
「妾は何も言っていないのじゃ」
「とりあえず対策は即急にしないとね」
「カイルも堀を掘る計画をしてたな」
「空を飛ぶトカゲが何匹もいるから魔法使いがたくさん必要かも」
「それはすでに手配済みだ。まもなく冒険者が来てくれる予定だ」
「それなら問題ないね。あとはカイルくんがふらっと出かけないようにしないと……」
それからこの秘密会議は夜遅くまで繰り広げられるのだった。
◇◆◇
翌朝目が覚めると目の前にリリアの顔があった。
「……何をしてるんだ?」
「カイルくんの顔を見てただけだよ?」
さも当たり前のことのように言ってのける。
思わずため息を吐くとおでこを弾く。
「痛っ」
「それで本当の理由はなんだ?」
「ご飯ができたから呼びに来ただけだよ」
「……わかった。今準備するから――」
「手伝うね?」
「出て行ってくれ」
「えーっ、なんで?」
「むしろなんでそこで手伝うになるんだよ!? とりあえず早く出て行ってくれ」
なんとかリリアを部屋から追い出すと俺は服を着替え始める。
◇◇◇
もっと特別な理由があるのかと思ったら、本当にみんなで食事をするだけだった。
「やっぱりご飯はみんなで食べないとね」
「まだ眠いのじゃ」
「俺も昨日飲んだ酒がまだ……」
「もう、みんなノリが悪いよ」
いや、どちらかといえば俺も皆と同じ気持ちなのだが。
「そういえば、昨日相談した水を流す件だが……」
マルスが額に手を当てながら言う。
「カイルの言うとおり、水道管を通すことになった。所々をリリアが結界を張ってくれることになったから、滅多に魔物が壊すなんてこともないと思うぞ」
「それならよかった。水があれば色々とできることが増えるからな。よし、それなら実際に工事しているところを見に――」
「待った待った。カイルには他にも色々と確認してもらいたいものがあるんだ」
「そうなのか?」
「当たり前だ。お前が領主なんだからな」
マルスにため息混じりに言われる。
思えばなんとかここを良くしようと考えるばかりで実際の領主の仕事がどういうものか、考えたこともなかったな。
「それで、領主ってどんな仕事をしたらいいんだ?」
「それは私がわかるから教えてあげるよ」
リリアが笑顔で頷く。
「もしかして、朝俺の部屋に来てたのも仕事を教えようとしてくれていたのか?」
「えっ、あっ、うん。そう。そうだよ」
どうやら朝の件はたまたまらしい。
「それで何をしたらいいんだ?」
「あっ、そうだったね。執務室に準備しておいたよ」
にっこりと微笑むリリア。
なんだか無性に嫌な予感がする。
今のうちに逃げるのが正しいんじゃないだろうか?
しかし退路は既にマルスたちによって断たれている。
「行くよ、カイルくん」
リリアに手を握られ、そのまま俺は執務室へと連行されるのだった――。
そこで見たものは天高くまで積み上げられた書類だった。
「さぁ、カイルくん。書類のチェックも大事な領主の仕事だよ」
「……さて、俺は外にでも――」
「ダメだよ。カイルくんは領主なんだからお仕事もしないとね」
にっこりと微笑むリリアが怖くて、俺は頷くことしか出来なかった。
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