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桜子伝  作者: いかすみ
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第41話 日常の幸せ

日常の幸せ


桜子が警官に教えるうちに日は過ぎていく。

そして、里美が出産した。

可愛い女の子だ。

妹の面倒を見るのは嫌がった桜子だ。

けれども、今は違う。

年の離れらた妹が可愛くてしょうがない。

志郎からは『まるで母親以上だ』と馬鹿にされていた。


そんなある日、警察署の方から応援要請が来た。

なにかと思って顔を出す。

すると、重傷者が二人いる。

桜子の目から見ても瀕死だ。

『なぜ、病院に連れていかないか』と質問した。

それに対して同僚が答える。

『病院にいっても手遅れになる』という。

桜子には意味は判った。

内臓がやられているので事実だ。

桜子は治療を行う。


完治する二人。

だが、それを教えた同僚の警官は投獄だった。

緘口令2級だ。

その罪を被っても助けたかった二人。

桜子にはやりきれない思い。

署長に相談してもどうしようもなかった。

『例外無し』が原則だ。

なにより今後同じことが起こる可能性のほうが高い。

桜子の起こしたのは奇蹟だ。

『仲間を助けるためなら』と考えるものは必ずいる。

そんな時、桜子は必ず助けられるのか。

答えは否だった。


治療に要した魔法ではないもの。

それを補充するのに時間が掛かる。

今回、助けられた。

けれども、この状態で明日なら無理だ。

まして、他人と身内が同時だったとき。

その時、どうしたらいいのか。

治療に使う力がどうして貯まるのか?

どうやって貯めるのか?

それが判らない。

父親がいたときはほぼ一瞬で回復してくれた。

そんなとき、あらためて父親の存在を感じた。


桜子が、父親を思い出してぼんやりしている。

そのとき、桜が顔を出した。

「桜子、顔が悪いわよ」

相変わらずきつい母親だ。

桜子の心境を見抜いている。

事情を説明する桜子。

それを聞いた桜は説明する。

桜子の治療は『本来身内の大事な人を助けるものだ』ということ。

救世主ではない。

一般の人まで手を回せないのは当然だ。

まして、使用限度がある貴重な力。

桜の話は、『緘口令そのものをなくしてしまう』という。


『何を言っているのか』と思う桜子。

桜は通信機にいまの事情をいう。

返事は無い。

けれども、桜子には相手がわかった。

父親だ。

そして、切れた。

桜とのんびり過ごす午後の一時。

珍しく母親がすぐに帰らない。

昔を思い楽しい一時だ。

そこに通信機からの連絡が入る。

「終わった」

立った一言だ。

けれども、桜子にも聞こえた。

父親の声だ。

「お父さん!」

声を掛けた。

「体を大事にしろよ、二人だ」

訳のわからない返事。

母親はすごくうれしそう。

『名前を二つ考えないといけない』と呟いている。

桜にはすぐに意味が通じたようだ。

通信機は切れている。

『二人・・・』

ようやく意味がわかった。

子供が出来たということだ。

桜は『初孫が出来た』と大喜び。

桜子は実感のないままそんな母親を見ていた。

通信機越しに桜子の状態がわかる。

そのことにあきれる。

赤国のあの大臣が聞いていたら悔しがる技術。

それはとっくに完成していた。

ただ、忘れられていただけだ。

桜の訪問は『雅雄の訪問と同じ意味』とわかった桜子。



次の日、警察に顔出す。

歓迎される桜子。

署長と話をする。

あの投獄された警官について聞く。

すると、『なぜ投獄されていたかわからない』という。

さり気なく、誘拐団ボスの件を聞く。

逮捕して、今は能力を失い普通の受刑者だという。

緘口令についてきく。

『ここ五年ほどは出すような事件も無かった』という。

治療というキーワード出しても何の変化もない。

まるで、あの日の事件など無かったよう雰囲気だ。

父親が『終わった』と言う意味がわかった。


その後、医者に寄ると案の定、子供が出来ていた。

その知らせを持って家に帰る。

狼家のお抱え医師だった都合もある。

すでに連絡がみんなに行っていた。

家族みんなが喜んでくれる。

悟朗と里美、

忠志と杏、

雄吾と香織、

電話だが連絡を受けた姉妹達と弟、

そして志郎。

桜子は雅雄と桜の家族を失った。

けれども、新しい家族が出来たことを喜んだ。

そして、これから広がっていく『家族の輪』というものに楽しみができた。

『雅雄と桜』という両親。

二人も会えないだけで、桜子を守ってくれる。

その幸せを感じさせる出来事だった。



桜子はその後、狼家を継ぐ。

桜子の手腕は『人々を幸せに』という信念で発揮していく。

特に優れた功績は魔法を日常のものに取り入れたことだ。

それは、子供時代の数多くの経験から出されたものだった。

最初の頃は関係者が利益をもくろむために画策した。

そして、莫大な利益をあげようとする。

その事実を知らされた桜子。

桜子は、そんな大人を嫌った。

それらの魔法をを既得権を獲得しないまま一般に放出する。

ルートは『桜子のためなら命を惜しまない』という杏に託した。




桜子の作った魔法。

それは学生を介してほとんど同時に世界に広がった。

柔軟な若者の発想により応用改変されていく。

そして、より便利なものに替わっていった。

それは、魔法の概念が変わっていくきっかけとなる。

攻撃の手段だった魔法。

そこから、生活補助のための魔法だ。

それこそ、雅雄が願っていた本当の魔法の使い方だった。





後世の歴史家の寸評


魔法の中興の祖は狼家の桜子である。

彼女ほど魔法を一般生活に密着させた人物はいない。

彼女がいなければ魔法は単なる攻撃手段でしかなかった。

教育システムの黎明期に彼女が存在していた意義は大きい。

ある意味、救世主と言われる神話の人物より彼女の方が偉大だ。

彼女こそ救世主にふさわしい。

(魔法総合教育大学教科書 序文抜粋)




長い間、お付き合いありがとうございました。

今回の話を持ってこのシリーズは完結といたします。

雅雄記から始まった長い小説です。

皆さんの応援のおかげで最後まで書き上げることができました。

応援ありがとうございました。


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