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10 新しい靴


 次の日、宿を出たクルトたち聖騎士の一行は、夕方ごろに少し大きな町へとたどり着いた。

 道中は魔物の出現もなく非常に平和だった。平和すぎて、クルトは今日まだ一言も声を発していないくらいだ。

 

 この町は聖都からは距離があるものの、国内の交易点としてよく賑わっており、店の種類も数も豊富である。

 この日の宿に着いて一行が解散すると、クルトはまずこの町の靴屋を探しに宿を出た。


 町の人に聞きながら、品ぞろえの良い靴屋を探して歩き回る。

 果たしてクルトが見つけた靴屋は、若い女性向けの靴も種類豊富に取り揃えていた。


「いらっしゃいませ!どんなものをお探しですか?」


 愛想の良い女性店員がにこにこしながらクルトに話しかけた後、クルトの顔を見て顔を赤らめた。

 しかしクルトはそれには気付かず、マイペースに質問する。


「えっと……女性用の、歩きやすそうな靴を探してるんだけど、どんなものがいいのかな」


 女性用と聞いて内心舌打ちをしつつ、女性店員は笑みを崩さずにクルトに答えた。


「そうですね、それでしたらこちらはいかがですか?歩きやすいですよ」


 女性店員が出してくれたのは、ヒールのないサンダルのような靴だ。たしかに歩きやすそうではあるが、細い紐で作られた繊細なデザインはおしゃれ重視で少し脆そうに見えた。

 きっとエルクにはこういったものも良く似合うのだろう。それに彼女も本当はおしゃれをしたいかもしれない。それでも、今の彼女に必要な靴はおそらくこれではなかった。


「もっと丈夫なのはある?長く履けるような」

「ああ、なるほど。でしたら、こちらはどうでしょうか?」


 次に出てきたのは、エルクがもともと履いていたものにとても似ている靴だった。

 違うのは靴の側面に小さな花の模様が入っていることくらいで、あとは色も形もそっくりだ。

 唯一の違う点である側面に描かれた花がエルクに重なって見えて、クルトは小さく笑みを落としながら店員に告げた。


「これの14ディラのものをください」

「ありがとうございます」


 店員が靴を包むためにバックヤードへと消えるのを見ながらクルトは考える。


(これなら、失くしたものを見つけたのかもとエルクの親も騙されてくれるかもしれない。エルクがこれ以上悲しい思いをしないといいんだけど)


 クルトは包んでもらった靴を受け取り、代金を支払って店を出た。



 クルトが路地の角を曲がり見えなくなったところで、この店に入ってくる者がいた。


「おお、いい店があるじゃないか。すいませーん」

「はーい」


 女性店員は、今日は来客が多いなと思いながら店に入って来た人物を確認する。


(あら、わりといい男。さっきの人の方が顔はよかったけど、この服はもしかして聖騎士かしら?であれば出世株ね……)


 粉をかけてみようと思った女性店員の勢いが、その男性の後ろから現れたもう一人の人物を見て一気に削がれた。


「ふふ、本当にモーリッツが買ってくれるの?」

「もちろんですよ!カトリン様の好きなものをお選びください!」


(なんだ、女連れなのね)


 出会いに貪欲だが諦めも良い女性店員は、思考を切り替えて彼らに話しかける。


「いらっしゃいませ。どんな靴をお探しですか?」


 男は女性店員に気が付くと、横に立つ少女を視線で示して言った。


「彼女にぴったりの靴を探している。何か歩きやすくて良い靴はあるか?」


 女性店員は「そうですね……」と呟きながら、少女の足元に目をやった。


「正直、当店にあるものですと今お客様がお履きになっているものより良い靴はありませんね」


 女性店員の言葉に、少女は眉を顰める。


「えー、でもこれ、かわいくないんだもの。それに少し汚いし。もっとかわいいやつないですか?」


 たしかに少女の履いている靴は機能性重視で、色は無骨な焦げ茶だしシンプルだ。

 さっきの青年が買って行ったものと同じものを出してみたが、それもあまり見た目が変わらずかわいくない、と言って少女は受け入れなかった。


 悩んだ女性店員は、青年に最初に見せた靴を引っ張り出す。


「それでは、こちらはいかがでしょうか?丈夫さには欠けますが、歩きやすいですよ」


 少女は女性店員が出した靴を見て目を輝かせた。


「あら、素敵!ねえモーリッツ、わたくしこれがいいわ」

「たしかにこの靴はきっとカトリン様に良くお似合いですね。試しに履いてみては?」


 少女はにこにこしながら靴に足を通す。

 少女の白く細い足に、繊細なデザインが良く似合っていた。


「歩きやすいわ」

「そうですか。ではこれを」


 途中から女性店員に向き直り、男は代金を手渡した。ぴったり支払われたお金を受け取りながら、女性店員は尋ねる。


「もともと履いていた靴はどうされますか?」


 少女は悩むそぶりもなく、あっけらかんと笑って答えた。


「捨てておいて。もういらないから」


 そうして二人は楽しそうに連れ立って出て行く。

 外に出て二人を見送ってから、女性店員は大きなため息をついた。


(……もったいない。こっちの方がずっといい靴なのに)


 彼女は少女が残して行った靴を拾い上げると、バックヤードにあるごみ箱にどさっと投げ入れた。



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