第32話:お母様のお兄様がやって来ました
「随分遅くまで長居してしまったね。そろそろ帰るよ。それじゃあ、マリー、ルーマさん、僕はこれで」
「またいつでも遊びに来てくださいね。マリアナちゃんの事、よろしくお願いします」
ルーマさんが何度も何度もエドワード様に頭を下げている。そしてエドワード様の乗った馬車が見えなくなるまで、手を振っていた。
「メイド長に話しは聞いていたけれど、とても素敵な青年じゃないか。この街の男どもにはいないタイプだね。でもマリアナちゃんには、ああいった男性の方があうのだろう。マリアナちゃん、きっとあなたの亡くなったお母さんが、あなた達をめぐり合わせてくれたんだよ。だってそうとしか考えられないだろう?こんな国の端にある小さな街で、全く縁もゆかりもない2人が再会するだなんて。こりゃ小説になりそうだ」
そう言ってルーマさんが笑っている。
「もう、ルーマさんったら。ルーマさん、今日はエドワード様と会って話してくれて、ありがとうございました。大好きな2人がこうやって仲良くしてくれるのが、なんだか嬉しくて…」
「私もずっとお坊ちゃんの事が気になっていたからね。今日話が出来てよかったよ。ほら、明日も早いし、そろそろ寝よう。明日も屋敷に行くのだろう?」
「はい、そのつもりですわ」
「マリアナちゃん、私はいつでもあなたの味方だよ。だから、自分が思う様に進めばいいからね。私はあなたを応援しているから」
そう言うと、ルーマさんは笑顔で去って行った。
彼女は私がどこから来たのか、今までどう生きて来たのか根掘り葉掘り聞いてきたりはしない。そえでももしかしたら、何かを感じ取っているのかもしれない。そんな気がした。
翌日
私はお母様が亡くなって以降、初めてお母様から貰ったブローチを胸に付け、ネックレスを首から下げた。今まではお母様の死を、頭のどこかで受け入れられなかった自分がいた。でも昨日、エドワード様と一緒にお母様の残してくれた思い出の品を見たら、少しだけ心の整理がついたのだ。
これからは私がお母様の意思を受け継いでいきたい、そんな思いから、お母様が大切にしていたネックレスとブローチを付けたのだ。
そしていつもの様に、屋敷へと向かう。
「あら、マリアナちゃん。可愛らしいブローチとネックレスを付けているのね。素敵なデザインだわ」
一緒に乗っていた先輩メイドが声を掛けてくれる。
「はい、母の形見でして。急に付けたくなって、付けてみたのですが…」
「いいじゃない!とても素敵よ。やっぱり若い女の子はおしゃれしないとね」
そう言ってほほ笑んでくれている。本当にこの屋敷で働いている使用人たちは、いい人ばかりなのだ。思い返してみれば、もし公爵令嬢だった頃にこのブローチとネックレスを付けていたら、継母か王妃様に取り上げられていただろう。あの人たちは、私がアクセサリーを付ける事を、嫌がっていたから…
今思い返しても、本当に意地悪な人たちだったわ。あんな意地悪な人たちが、今後もこの国を引っ張っていくのかと思うと、やっぱりこの国の為にも良くない!
でも、この地にいたら、私は何も動く事が出来ない。いっその事、王都に戻って色々調べてみる?でも…
「マリアナちゃん、今度は深刻そうな顔をしてどうしたんだい?それにしても、お坊ちゃまは本当にマリアナちゃんの事が好きなんだね。門の前で待っているよ」
窓を見ながら先輩メイドが笑っていた。私も窓の外をみると、確かに門の外で、エドワード様が待ってくれていた。
本当にあの人は…
彼の姿を見たら、何だが笑いが込みあげてきた。
「おはよう、マリー。それに皆も、おはよう」
「おはようございます、エドワード様」
「おはようございます、お坊ちゃま。お坊ちゃまは本当にマリアナちゃんに夢中ですわね。マリアナちゃんの事、大切にしてあげて下さいね」
生温かい視線を送りながら、嬉しそうに去っていく先輩メイドたち。エドワード様が私に夢中だなんて。なんて事を言っていくのかしら?そう思ったのだが、当の本人はあまり気にしていない様だ。
「マリー、お腹が空いただろう。すぐに朝食にしよう。それから、昨日君から預かったオルゴールなのだが、母上にも話をしたよ。早速今日にでも、鍵師に開けられないか依頼するつもりだ」
「まあ、もう話をして下さったのですね。ありがとうございます。でも、何も入っていないかもしれませんわ」
「それならそれでいいじゃないか。それにマリーだって、中を開けないと落ち着かないだろう」
確かに中が気になる。鍵師が開けてくれるのなら、それに越したことはない。そう思って依頼をしたのだが
「この鍵穴は、とても特殊ですね。私も初めて見ましたよ」
そう言って一生懸命開けようとしてくれたが
「これは無理ですね。いっその事、壊して開けた方が…」
「それはダメだ。このオルゴールは、マリーの母の大切な形見なんだ。開けられないなら仕方がない。ありがとう」
どうやら鍵師にも開けられない様だ。
「ごめんね、マリー」
「どうしてエドワード様が謝るのですか?それよりも、ありがとうございます。このオルゴールを大切に思ってくれて」
「当たり前だろう。このオルゴールは、君の大切な物なのだから。誰にも傷つけさせないよ」
そう言ってほほ笑んでくれるエドワード様。その時、ふと昨日ルーマさんが言っていた言葉を思い出す。
“あなたの亡くなったお母さんが、あなた達をめぐり合わせてくれたんだよ”
確かにお母様が、私をエドワード様の元に導いてくれたのかもしれない。なんだか急にそんな気がしてきた。
その時だった。
「マリーちゃん、ちょっといいかしら?」
奥様が私たちの元にやって来たのだ。奥様の後ろには…
「マリー、やっぱりマリーではないか」
「伯父様!どうしてこちらに?」




