第30話:私にできる事は…
楽しい時間を過ごした後、いつもの様に奥様を交え、3人で夕食を頂く。こうやって3人で食事をするのも、私にとってはとても幸せな時間だ。
「マリーちゃん、今日は楽しかった?」
「はい、とても楽しかったですわ。皆で鬼ごっこをしたのです。まだ奥様達が王都にいらした頃、よく私はエドワード様とキャスと一緒に鬼ごっこをしていたでしょう。その時の記憶が蘇りましたわ」
「まあ、あの日々を思い出したの?そう、確かエドワードとキャスちゃんの足が速すぎて、マリーちゃんがいつも怒っていたわよね。あの時のマリーちゃん、とても可愛かったわ」
そう言って笑っている奥様。そうだわ、私たちが遊んでいる近くで、いつも笑顔で見守っていてくれていたのよね。あんな穏やかな日々を私たちから奪ったのは、間違いなく王妃様だ…
王妃様に対する怒りが、増々強くなっていく。やっぱりこのままではダメだわ。私は無力だと思っていたけれど、やる前から諦める訳にはいかない。
「エドワード様、奥様。今日は少し早く家に帰りたいのですが、よろしいですか?」
「ああ、構わないけれど…一体どうしたのだい?」
「ちょっと家で調べ物をしたくて…」
「もしかして、今日話してくれた事と関係があるのかい?」
「エドワード、今日話した事とは一体何なの?マリーちゃんは何かしようとしているの?お願い、危険な事はしないで。あなたにもしもの事があったら、マリオネット様に顔向けできないわ」
「マリー、僕も今日はマリーに付いて行ってもいいかな?君がどんな家に住んでいるのか、ずっと興味があったんだ。それに、マリーは1人で抱え込む癖があるからね。きっと今まで、たった1人で生きてこなければいけなかった状況が、君をそうさせているのだろう。でも、もう君は1人ではない。どうか僕に頼って欲しい」
エドワード様…
「ありがとうございます、分かりましたわ。それでは一緒に我が家に参りましょう。と言っても、おもてなしできるほどの家ではありませんが」
食後、少し早いがエドワード様と一緒に馬車に乗り込み、我が家を目指す。
「ここが私の住んでいるお家です。どうぞ中へ」
「可愛らしいお家だね。それにとても綺麗にしている。朝から晩までメイドの仕事をしているのに、しっかり掃除もしているだなんて、さすがマリーだ。でも、あまり無理は良くないよ」
「ありがとうございます。でも私は、はっきり言ってメイドの仕事はほとんどしておりませんし…」
私が公爵令嬢と知られてから…というよりもそれ以前から、なぜか皆が
“マリアナちゃんはお坊ちゃまとジャミン様のお相手をするのが仕事だよ”
そう言って本来のメイドの仕事をあまりさせてもらえなくなったのだ。私としては、掃除や洗濯も好きなのだが…
「それで、急に家に帰りたいとの事だが、一体どうしたのだい?」
そうだったわ。
「はい、実は私なりに考えたのです。母の性格上、きっと今までに集めた重要な情報などを、どこかに隠していると思うのです。それに、奥様宛に書かれていた手紙に、私にこの地に来る様に伝えてあると書いてあったでしょう?でも、私はその様な事を言われた記憶がないのです。それでもしかして、私が持っているお母様から貰った物の中に、何かヒントになる物があるのではないかと思いまして…」
お母様の事だ。もしかしたら、私に何か託しているかもしれないと思ったのだ。
「なるほど、それでそれらを確認するために、帰って来たという訳だね。早速確認してみよう」
クローゼットの奥にしまってあったカバンの1つを取り出す。ここにお母様の思い出の品を閉まってあるのだ。
「これが私の7歳の誕生日の時にお母様から貰ったオルゴール。こっちはお母様から譲り受けたブローチとネックレスですわ。他にこれらも、お母様から貰った品々です」
机の上に並べると、結構な量だ。それにしても公爵家から出るときに、よくお母様の形見をとっさにカバンに入れたものだわ。やっぱり普段から、大切な物をまとめておいてよかった…て、今はそんな事はどうでもいいわね。
「う~ん、パッと見た感じ、何か仕込まれている様なものはなさそうだなね…」
「そうですわね。でも、これらを見ているとなんだか懐かしい気持ちになりますわ。正直お母様の形見を見ると、お母様の事を思い出して辛かったのです。でも…なぜでしょう、エドワード様が一緒にいて下さるお陰か、これらの品々を見ても悲しくはないですわ」
お母様がいなくなってから、本当に辛い日々を送っていた。お母様の形見を見ると、辛くて悲しくて、お母様の元にいきたいと考えてしまう事もあった。だからこそ、あえて見ない様にしていたのだ。
でも今は、毎日幸せに過ごしているお陰か、お母様の形見の品を見ても辛くはない。きっとエドワード様のお陰ね。
そっとオルゴールを手に取った。このオルゴールは、お母様が亡くなる寸前、私の7歳の誕生日に贈ってくれたのだ。可愛い女の子が、宝石が散りばめられた立派な箱の上に乗っている。
このねじを回すと、女の子がゆっくりと動くのだ。実際に回してみる。すると、可愛らしい音楽と共に、ゆっくりと女の子が回り出したのだ。
「可愛いオルゴールだね。…待って、このオルゴール」
オルゴールを手に取ると、箱の真ん中に付いている大きな宝石に触れたエドワード様。そして、ゆっくりとその宝石を引っ張る。すると、パコリと宝石が外れたのだ。そこには、何と鍵穴が…
これはまさか!




