第29話:エドワード様への思い
「私もきっと、お母様や奥様、エドワード様と過ごした時間が、一番幸せな時間だったのだと思います。でも…どうしても思い出せなくて…」
こんなにも優しい奥様とエドワード様と過ごした日々が、楽しくない訳がない。きっと幸せな日々だったのだろう。それに私にとってエドワード様は、大切な人だったはずだ。そうでなければ、大切なキャスの子供をエドワード様に託すわけがない。
でも…
どうしても思い出せないのだ。
「僕たちが最後に会ったのは、君がまだ3歳の時だ。覚えてなくても無理はない。それでも君は、“エドお兄ちゃん”と呼んでくれた。それが僕は嬉しくてたまらなかったんだよ。それにこれからは、未来を見ていきたいと思っているんだ。あの頃よりももっともっと楽しくて、素敵な未来を…」
そう言うと、空を見上げるエドワード様。そっとエドワード様の手を握った。
「私は…正直申しますと、今心の中で葛藤しておりますの。本当にこのままでいいのか、このままあの王妃様たちを野放しにしたままで、奥様とエドワード様に窮屈な生活をさせてしまっていていいのかと…それにお母様は、私の父に殺されたような気がしてならないのです。お母様の無念を、私がはらしたい、そんな気持ちも芽生えていて…」
「それでマリーは最近難しい顔をしていたのだね。僕はね、マリーが幸せなら、この地でずっと過ごせばいいと思っていた。でも、君はやっぱり夫人の子なのだね。曲がった事が嫌いで、たとえ危険を冒してでも真実を突き止めようとした夫人に…ねえ、マリー、今度は僕が質問してもいいかい?君は王都に戻りたいかい?」
真っすぐ私を見つめ、エドワード様が問いかけてくる。
「私は…正直今の王都には戻りたくはないです。でも…もしエドワード様が戻るのでしたら、その時は私も、共に戦いたいと考えておりますわ」
今の私に何が出来るのかと言われたら、きっと出来ないだろう。それでもエドワード様達の力になれるのならと思っている。
「ありがとう、マリー。それなら一度、僕たちの協力者に会ってみないかい?実は君の母上だけでなく、僕たちに協力してくれる貴族がいるのだよ。彼らは君の母上が亡くなった後も、僕たちが王都に戻れる様に色々と動いてくれていてね。きっと君の姿を見たら、喜ぶと思うよ」
そう言ってほほ笑んでくれるエドワード様。他の協力者か…
「キャンキャン」
いつの間にか戻って来ていたジャミン様が、自分も仲間に入れて欲しいと言わんばかりに、私たちの周りをまわりながら吠えていた。
「ジャミン様、ごめんなさい」
ジャミン様を抱きかかえると、ペロペロと顔を舐めてくれる。
「マリー、さっきの話の続きはまた後にして、せっかく来たのだから僕たちも思いっきり遊ぼうよ。そうだな、鬼ごっこでもするかい?昔公爵家で、キャスも一緒にやっていたんだよ」
「まあ、それは楽しそうですわね。私、結構走るのが早いのですわよ」
「キャンキャン」
「それじゃあ、まずは僕が鬼だ。ほら、皆逃げて」
「ジャミン様、逃げましょう」
ジャミン様を地面におろし、私も走り出した。それを見たジャミン様も、嬉しそうに走っている。その後、久しぶりに目いっぱい遊んだ。
「次はマリーが鬼だよ。さあジャミン、逃げよう」
嬉しそうにふたりが走り出す。
「待って下さい!」
急いで追いかけようとした時だった。
“エドおにいちゃんもキャスもはしるのがはやすぎるわ”
“ごめんね、マリー。ほら、泣かないで、あっちでお菓子を食べよう”
“おかし?ほんとう?エドおにいちゃん、だいすき”
あっ…
「マリー、どうしたんだい?」
私が動かないからか、心配そうにエドワード様がやって来た。
「私今、エドワード様との記憶が少し戻りましたわ。私はいつも足が遅くて、中々エドワード様とキャスを捕まえられなくて。すねる私を、いつもエドワード様が慰めてくれていたのでしたわね…私、そんなエドワード様が、大好きだったのですわ…」
そうだわ、どうして今まで思い出せなかったのだろう。あんなに頻繁に一緒にいたのに…あの頃の私は、本当に幸せだった。エドワード様が大好きで、これからもずっと一緒にいられると思っていた。いつかエドワード様のお嫁さんになりたいと思っていたのよね…
「マリー…僕もあの頃から、マリーの事が大好きだったよ…こうやって一緒に過ごしていくうちに、君の記憶が少しずつ戻っていくことが、僕は嬉しいよ」
「エドワード様…」
「さあ、そろそろ日が暮れるし、帰ろうか?」
「はい、ジャミン様も一緒に帰りましょう」
エドワード様と過ごしているうちに、少しずつだが子供の頃の記憶が蘇ってくる。あの時の気持ちと共に…
私はあの頃、エドワード様の事が大好きだった。いつも私の事を一番に考えてくれるエドワード様が。彼はあの時と全く変わっていない。あの時の私はまだ幼くて、エドワード様に我が儘を言っていただけだった。だけれど今は…
もしも叶うなら、私は彼と共に未来を歩んでいきたい。私達は13年前、無残にも引き裂かれてしまった。でも、13年の時を超えて、奇跡的に再開できたのだ。
そして忘れてしまっていた初恋を、もう一度思い出させてくれた。私はこの気持ちを大切にしたい。




