01 初めての異世界【そもそもの始まり】
みなさん初めまして、もしくはお久しぶりです。
この作品は、同名の連載作品の改訂版です。
前の作品は初投稿だったこともあり、誤字脱字も多く、用語が統一されてなかったり、人物の名前が間違ってたり、キャラの喋り方が別人のようになってたり、説明が足りなかったり、書いたはずの伏線が編集ミスで消えていたりで、読んでいただいた方に、ちょっと申し訳ない作品でした。
私が今もってド素人であることは変わっておりませんが、今回は多少読みやすく努力したつもりです。
あぁ、でも、修正した部分に新たな誤字がある可能性が……。
誤字の指摘は歓迎します。間違いはどんどん指摘してください。
改訂版の内容については、多少手を加えてますが、本筋は変更有りません。
あ、今回は「薬草採取の護衛」という、世間一般のGランク冒険者の仕事を全否定するエピソードを追加してあります。
そして残念なことに、お色気皆無なのは今回も変わっていません。ううっ。しくしく。
第一部は月~金に更新、その後は月、水、金に更新できるように頑張ります。
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よろしくお願いします。
「ふぇ~~、暑い~~」
炎天下、広大な砂漠草原のただ中で、色白の日本人の少女が一人でとぼとぼと歩いていた。出立したときは早朝だったので肌寒いくらいだったが、陽が昇るとたちまち気温が上昇していた。
砂漠草原と言ってもいろいろあるが、ここは草が疎にしかない、ほぼ砂漠といって差し支えない土地であった。昼と夜の寒暖差が激しく、日中の気温は摂氏五十度近くにもなる。乾燥した空気により蒸し暑さはないのだが、汗を掻いても掻いたそばから乾いてしまうので、少女の顔にはうっすらと白く塩を吹いた跡が残っていた。
少女は、旅装束の服以外には小さなバッグしか身に着けていない。帽子は被らず、ムスリムの女性が使うヒシャブのような布を被って、強い陽射しと砂埃から身を守っている。彼女は、さっきまで杖を手にしていたのだが、砂地の草原では砂に刺さってしまって使いにくく、手ぶらよりも疲れるからと手放してしまっていた。
「まったく、どんだけ暑いのよ~!
いつまで歩かせる気!? 街まで遠すぎよ!
あの爺、少しは降ろす場所を選びなさいよ!」
少女が砂漠草原を目的地に向かって歩きながら、こんな場所に彼女を降ろした奴への悪態を吐いていた。ちなみに、街までの距離は既に把握していたので、『いつまで』というのは愚痴で言っただけだ。
そんなとき、ついさっきまで周囲三百六十度、僅かな草以外に何も無い砂漠草原の世界だったのに、遠くから砂煙を上げて、少女に向かって四頭の大きな獣が走り寄ってくるのが見えた。さすがにこの距離だと、走る音も聞こえない。だんだん近づいてくると、それが山猫のような獣で巨大な牙があることが分かる。どう見てもサーベルタイガーだ。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!
こっちにも心の準備ってものがあるでしょうがぁ!
なんでいきなり大型獣なのよ!
日本のロールプレイングゲームだったら、最初に遭遇する相手は弱っちい奴って決まってるでしょ!
ええっと、こんなときには、どうするんだっけ??」
そんなことをのんびり叫んで考え込んでいるものだから、既に獣は目の前に迫ってきていた。しかし、普通なら走ってきてそのまま襲い掛かるはずが、何かに警戒しているのか、少女を間近に等間隔に取り囲んで立ち止まった。
その獣の肩高は少女の胸あたりまであり、体長がその倍と言ったところか。少女は大型獣と言ったが、この世界では中型に分類される獣だ。
それを見ていた少女は、考えがまとまって気の抜けた言葉を吐く。
「ほいっ!」
だが、その声より一瞬早く、少女の近くの空中に四本の石槍が出現し、四頭のサーベルタイガーに向かって音もなく打ち出されていた。相手も黙ってやられるようなことはない。すぐに攻撃を避けて走り出していたが、追尾機能付きの石槍はその背後から獣たちの延髄を次々と貫いた。
ひゅんひゅんひゅんひゅん!
どすどすどすどす!
ぶしゅ~~~~!
獣たちが、それぞれ後頭部から血を噴き上げるも、体を傾けながら走り続け、少女の脇を走り抜ける。
「きゃぁーーー! なんで止まんないの~!
延髄は脊椎動物共通の急所じゃなかったの~!?
もうっ、血が掛かるじゃないの~~!」
少女が大声を出すと、その声に応えるように、獣たちは徐々に走る速度を緩め、やがて足を止めて地に臥していった。
「あ~~っ、しまった~~! 防護障壁張るの忘れてた!
それに石槍じゃ、体内に石が残るじゃないの!
使うなら氷の槍を使いなさいよ! 氷の槍を!
そもそもアイテムボックスに直接放り込めばよかったじゃないの!
私のバカ~~!」
これが、少女が異世界に来て、最初の戦闘だった。
まだ魔物にこそ出くわしてないが、サーベルタイガーなんて、少女が元いた世界では太古に絶滅している獣が存在している時点で、ここは少女にとって、とても異常な世界であった。
そして、この戦闘の様子で一目瞭然だが、少女は小説でよくある、チート能力持ちの異世界転移者だった。
少女の名前はユリ。本名は『糊鹼龥驪燐』なのだが、現代の日本では戸籍に登録できないような名前は、とっくの昔に封印していた。彼女は、ユリがダルシンと名付けた、見た目が達磨さんの神様のような存在によってこの世界に送り込まれた異世界転移者だ。
転移者ではあるが、今のユリの姿は、知人が見たら「ご親戚の方ですか?」と訊ねそうなぐらい、元の姿とは少しばかり、いや、かなり違う。明らかに理想的な姿。見るからに典型的な秋田美人。透き通るような、すべすべの白い肌。腰まで伸びた青みを帯びた艶のある黒髪。そしてまるで北欧人とのハーフのような顔立ち。
ただし非常に残念なことに、六等身のグラマラスな体形ではなかった。ダルシンは好きな姿にしてくれると言ってたのに、なぜか『権利関係で……』と拒否られてしまったからだ。ユリには意味が分からなかった。すったもんだしたあげく、最終的に将来に希望を託した少女体形にされてしまった結果が今の姿だ。
ユリは周囲に転がった獣の死体を眺めて、これをどうしようかと、独り言を呟きながら考える。
「えっと、この死体って街まで持って行った方がいいのかな?
放置すると魔物が寄ってきたりするのよね?
小説だとギルドで買い取ってくれたりするけど、これも売れる?
頭を残した毛皮の絨毯を喜んで使うような貴族や成金って、この世界にいるのかな。この魔物は牙が立派だから、牙だけは売れそうな気がするんだけど……。
折角アイテムボックス使えるんだし、丸ごと持ってきましょうか」
ユリは、一頭の死体の脇に移動して掛け声をかける。
「いよっと!」
すると、音もなく死体が消え、そこに風が吹き込んで砂が舞う。
「ゲホッ、ゲホッ。
あぁ、収納するだけじゃなくて、空気と交換するようにしなきゃいけないんだった。もっと実地訓練しないと駄目ね~」
ユリは軽く反省すると、次の死体の脇で同じことをする。
「はいよっと!」
音もなく死体が消えるが、今回は風が吹き込まない。
「良し! これからはこうしましょう」
そう言って、三体目の死体の死体も同様に収納し、四体目の死体の脇に移動したとき、それは現れた。
ぶゎさっ!
ばくんっ!
ず~~~ん!
「ふえっ?」
ユリが気づいたときには、事態を認識する前に全てが終わっていた。
ユリは最初、それを見たときに、大口を開けて海中から飛び出す鯨や鯱の姿を思い浮かべていた。
四体目の死体の真下から大口を開けて飛び出した巨大生物は、大量の砂を撒き散らしながら、砂と一緒に獣の死体を飲み込んで、地響きを立てて再び地中に姿を消した。地中に開いた穴には周囲の砂が流砂となって流れ込み、蟻地獄の巣のようになっていた。
「えええええ~~~。
何よ今の!
あんなのがいるなんて聞いてないわよ!
大体、なんで地面の下で水中みたいに動けるんですか~~!!」
ユリが叫ぶが、応えてくれる者は誰もいない。
「いや、別に答えを求めているわけじゃないからいいけどね」
ユリは、砂中を勢いよく進む巨大なワームなら、いろいろな映画(ほとんどがB級映画)で見た覚えがあったが、さっきのは鯨に近いフォルムだった。
「ま、いっか。後で考えよっ」
そう言うと、ユリは再び歩き始める。
「よし! 次行こう!」
* * *
その十日ほど前のこと、ユリは日本で普通の会社員生活をしていた。そしてこの日、彼女にしては珍しく、仕事終わりに同僚たちと一緒に居酒屋に来ていた。これまで短期間に何度も転職したユリだったが、この職場のことは、それほど嫌いではない。今年で25歳になるユリは、子供の頃は子供らしくないと言われ続けたのに、なぜかこの会社の同僚からは単純で子供っぽいと言われている。
この日の宴会は、部署で一丸となってやっていた今の仕事が一区切りついたことでの打ち上げだったのだが、呑兵衛にとっては飲む口実のひとつでしかなかったのかもしれない。ユリはこういう飲み会があまり好きではなかったが、毎回断るのも申し訳ないからと、今回はたまたま参加していた。
逆に今回たまたま欠席しているケイコは、平日の居酒屋では社内の機密情報をペラペラ喋る奴がいるからと、それを聞くのを楽しみにしてひとり酒してたりするようなのだが、趣味なのか実益なのか、変わった奴もいるもんだと思っていた。
そして今日はまさに平日。まだ週半ばの水曜日の夜だったが、この日は客の入りが多く、店はすぐに満席になり、ユリたちは、ガヤガヤと騒がしい中で、仕事の愚痴を言い合っていた。ユリがふと隣のテーブルに目を向けると、多分会社仲間なんだろう、自分たちと同じような老若男女のグループが乾杯していて、その中に一人、女優さんみたいな美女がいることに気づいた。グループの全員と仲良く会話する様子から、男連中だけでなく、女たちからも、煽てられるのでも嫉妬されるのでもなく、普通に好かれていることが見て取れる。
(すっごい人気者なのね。美人なのに女性からも好かれてるみたいだし、はっきり言って羨ましい。
こういうお客さんを、お店のひとはどう思ってるんだろう?)
ユリ自身、なんで急にそんなことを気にしたのか分からない。ただ、そう思って店の厨房に目を向けると、男性店員のひとりがじっと彼女を見つめて、下卑た感じでニヤついているのが見えてしまった。
(ありゃ~、嫌なもの見ちゃったなぁ。
やっぱり美人って、いいことばかりじゃないんだなぁ。
何もなければいいんだけど……)
残念ながらその思いは叶わず、そのすぐ後にちょっとしたトラブルが起きた。その厭らしい店員が、ユリたちが注文した品を間違って隣のテーブルに持って行って、隣で「注文していない」と言われたのだ。さっさと、他のテーブルで確認すればいいのに、強引にそのテーブルに置いていこうとして、さらに、ユリの同僚がそれをうちの注文だと指摘しても渡そうとせずに押し問答が続いた。結局、店長が出てきて収まったが、その騒ぎで周囲のテーブルの宴会気分は一気に冷めてしまったのだった。
(あの店員、結局何をしたかったんだ?)
問題を起こした店員は、店長が奥に引っ張って行ってしまった。なんであんなことをしたのか、その理由は店長が聞き出すだろうが、ユリたちは当分はこの店に来ることがないだろうから、この謎は永遠に謎のままになるのだろう。
少なくともそのときは、ユリはそう思っていた。
その後、同僚の一人がそろそろ終電に間に合わなくなるからと席を立ったのに合わせて打ち上げ会は終了となり、全員で店を出てそのまま解散となった。明日も仕事があるので二次会はなし。「朝までカラオケ行こうぜー」と叫んでた奴は上司に締められてた。ユリはそれほど飲んでいなかったので、一人で歩いて帰宅の道についたのだが、途中で猛烈な眠気に襲われて、歩くのも困難になり、公園のベンチに座って休んでいたら世界が一変した。




