21.運命
人生ってつまらないと思ってた。
だって、私の人生は決められた道を歩いてきたから。
私自身で選んできたものなんて何一つもなかった。
心を殺しながら、向かってくる脅威を殺す。
自分を殺しながら、日々を生きる。
そのための才能を求められ、それがなければ蔑まれる。
努力をして、何かをして、ただ戦うだけの人生。
求められた才能、求められた役割、求められた実績。
決められた今と決められた未来。
目の前にある道をひたすらに歩く。
「でも……」
それでも私はよかった。
きっと、大切な人達から求められていることは幸福だったと思ってるから。
人を守るっていう事は気持ちよかった。
それしか幸せを知らなかった。
そして、それは突然、自分の才能に奪われた。
そして残ったのは、どうしようもない無力感とどうにもならない傷。
そして、救われたという罪悪感と解放感だった。
「これは、末期かな……」
なら今は?
この日々はなんなの?
私の人生は、この日々で意味を持つの?
理由のない行動の積み重ねができる。
このことはとても幸せだと思う。
選びたくても選べない人、私は私を知っている。
「それでも、私は……」
ただひたすらに何もない場所を4人で歩いて、何もしないことの言い訳に、旅なんて名前をつけてる。
アルに会った後、何をしても残らない幸せな数ヶ月。
ただの楽しい幸せな日々だった。
誰かに語ることのない日々を過ごしてしまった。
爆発的に色々あった後の空白期間。
壁の街に行って、森に入って、魔物を狩って、いざこざを解決した気もするし、食べ物を美味しく食べて、一緒に寝て、一緒に起きて、一緒に幸せな旅をした。
嫌なこともあったし、辛いことはゼロじゃなかったと思う。
それでも、リンは頼りになって、ユズは強くなって、アルは優しかった。
4人での日々はとても美しくて、かけがえのない日々。
私はもっと彼女達が好きになった。
その感情だけは確かなんだと思う。
この日々に意味がなくても、それだけは知っていたい。
幸せな日々を貰ってる。
それでも、こうとも思う。
偶然、ただ人を救った気になって何も考えてない。
私自身は何も変えられてないのに、人には偉そうに変われなんて言って、リンとユズを欺いた。
救った責任とか、そんなものを考えず、ただついてこいって言ってしまった。
そして卑しい私は、徐々に故郷に近づいている。
置いてきた過去に引っ張られる。
彼女達はきっと気づいている。
魔物と戦う回数は増えて、平和からは遠ざかってる。
それでも一緒に来てくれる。
「ほんと、嫌になるね」
彼女達は私の心を満たす装飾品じゃない。
ましてや、復讐のための道具でもない。
私を信じてくれる優しい娘達。
あの娘達は自分で選んでここにいてくれる。
彼女達は、友情はそれを空白を埋めてくれた。
それでも、どうしても埋まらないものがある。
恩知らずの私はこう思ってしまう。
私はまだ、あの人達を大切に思ってる。
何故かはわからない。
わかりたくないのかもしれない。
それでも体が、心が、大切だって伝えてる。
私に何かを訴えている。
きっと、私は頭がおかしいんだと思う。
おかしくなってしまったんだ。
それでも、あの2人が好きなんだ。
それがなんなのかはわからない。
多分、理解できていない。
一生無理なのかもしれない。
でも、向き合わなきゃならないことも知ってる。
自分では気づいていないだけで、私はそうやって成長してきたと思うから。
大切に捨てられた時、何かが欠落して、同時に何かを得られた気がした。
そして、その何かに向き合う時は必ずくる。
得られた自由には、きっと代償がある。
欠落した何かには答えがある。
人生はきっと過去の中にあって、未来に導いてくれた。
あの別れは出会いを、あの苦しさは人を救える言葉を生み出した。
だから、今があるんだと思う。
人生は、運命はきっと繋がってる。
そして、私の運命は突然告げる。
出会ってから数ヶ月。
アルとはもう随分と仲良くなった。
なんでだろうね。
「シオン。お前の故郷で、妾の求めてる何かが起こる」
「そうなんだ」
ただそう返す。
こんな平和な世界では何も起きない。
それに、そんなことだろうとは思ってた。
そうじゃなきゃ、私である必要はない。
目の前の特別が私を選ぶわけがない。
やっとだ。
これがきっとそうだ。
「それだけか? 何も聞かないの?」
「まぁね。私はアルを信用してる。それで十分」
「……ありがと」
なんで私の故郷を知ってんの、とか色々言いたいことはあるけど、無駄なんだろうなと思う。
まぁ、考えても仕方ないことは極力考えない。
そう思ったとしても、頭では考えてしまうのが人間。
だから、頭から少しでも離す。
きっと、誰かを疑うことはとても寂しい。
ただ明るいだけが取り柄の私はそれを知ってしまった。
「姫、どうしますか?」
「そうだね。どうしようかな」
この反応。
隠していたけど、リンに何か知られてるのかな。
ただ勘がいいだけかもしれない。
でも、確かなことはある。
この気持ちが、この行動が彼女達を不安にさせている。
「ボクは君についていくよ」
「ありがとう、ユズ」
多分、ユズも迷ってる。
私の思いで迷わせてしまっている。
「……妾は強制しない」
きっとこのままなら、こんな顔をさせてしまう。
「まぁ、いつかはやらなきゃいけないし」
「でも……!」
「ありがとう、リン」
迷いは捨てよう。
傷つく覚悟をしよう。
何かを失う覚悟をしよう。
幸せを歩むためには必要なことだと思うから。
「シオン……」
「そんな顔しないでよ。調子が狂う」
「でも!」
「いいよ。付き合ってあげる」
こういうのは早ければ早い方がいい。
それにこれは、私のためじゃない。
アルのためだと思えば、少しは楽になる。
過去に決着をつけて、私のあの時を取り戻そう。
新しい私達を始めよう。
過去に決着をつけて、今を進む。
「私は明るいことだけが取り柄だからね」
「そんなこと言わないで!」
「……ごめんね」
リンに怒られる。
でも、このままなら唯一の長所も失うかもしれない。
折れた経験のない私は、想像以上に脆いと知った。
時間を貰っても、時間が経っても、埋まることなんてない。
向き合わなきゃ、得られるものなんてない。
何かをしなきゃ、変われない。
それに、今の私なら証明できるかもしれない。
私を救ってくれたのは恩恵ではなかった。
――あなたの恩恵は「女に好かれる」です
このままじゃ、そうやって思えなくなる。
私はそうであると思いたいから。
そして、アルは続ける。
「時間はまだある、と思う」
「そうなの? なら、ゆっくり向かおうか」
「……」
「そんな顔するなって。いったでしょ? 私はアルもほしいの。そのために必要なら、私はやるよ」
「……うん」
「いつも通り、ゆっくりしながら向かう。みんなはそれでいい?」
みんなは曖昧な返事。
きっと何か思うところはあるんだと思う。
直前になったら、少しだけ私を話してもいいかもしれない。
「リン、ごめんって」
「……はい」
これは話すべきだとも思うから。
みんなには知ってほしいって気持ちもある。
遅すぎって怒られるかな。
あれは、私がはじめて経験した大きな挫折。
きっと、人生ではじめて経験した大きな傷痕。
結果を全て受け入れて、何もかもを形にして。
人生ではじめてを乗り越えて、私はまた成長する。
私は彼女達と歩いて行く。
あの出来事を過去にする。
「さぁ、いこうか」
精算するときは今なんだ。
私が私になるために。
過去を積み上げた先にある決まった道。
人が運命と呼ぶそれに、向き合う時がきた。
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