表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/23

21.運命


 人生ってつまらないと思ってた。


 だって、私の人生は決められた道を歩いてきたから。

 私自身で選んできたものなんて何一つもなかった。

 心を殺しながら、向かってくる脅威を殺す。

 自分を殺しながら、日々を生きる。

 そのための才能を求められ、それがなければ蔑まれる。


 努力をして、何かをして、ただ戦うだけの人生。

 

 求められた才能、求められた役割、求められた実績。

 決められた今と決められた未来。

 目の前にある道をひたすらに歩く。

 

「でも……」

 

 それでも私はよかった。

 きっと、大切な人達から求められていることは幸福だったと思ってるから。

 人を守るっていう事は気持ちよかった。

 それしか幸せを知らなかった。

 そして、それは突然、自分の才能に奪われた。

 

 そして残ったのは、どうしようもない無力感とどうにもならない傷。

 そして、救われたという罪悪感と解放感だった。


「これは、末期かな……」


 なら今は?

 この日々はなんなの?

 私の人生は、この日々で意味を持つの?

 理由のない行動の積み重ねができる。

 このことはとても幸せだと思う。

 選びたくても選べない人、私は私を知っている。

 

「それでも、私は……」

 

 ただひたすらに何もない場所を4人で歩いて、何もしないことの言い訳に、旅なんて名前をつけてる。

 

 アルに会った後、何をしても残らない幸せな数ヶ月。

 ただの楽しい幸せな日々だった。

 誰かに語ることのない日々を過ごしてしまった。

 爆発的に色々あった後の空白期間。

 

 壁の街に行って、森に入って、魔物を狩って、いざこざを解決した気もするし、食べ物を美味しく食べて、一緒に寝て、一緒に起きて、一緒に幸せな旅をした。

 嫌なこともあったし、辛いことはゼロじゃなかったと思う。

 それでも、リンは頼りになって、ユズは強くなって、アルは優しかった。

 

 4人での日々はとても美しくて、かけがえのない日々。

 私はもっと彼女達が好きになった。

 その感情だけは確かなんだと思う。

 この日々に意味がなくても、それだけは知っていたい。

 

 幸せな日々を貰ってる。

 それでも、こうとも思う。

 

 偶然、ただ人を救った気になって何も考えてない。

 

 私自身は何も変えられてないのに、人には偉そうに変われなんて言って、リンとユズを欺いた。

 救った責任とか、そんなものを考えず、ただついてこいって言ってしまった。

 

 そして卑しい私は、徐々に故郷に近づいている。

 置いてきた過去に引っ張られる。

 彼女達はきっと気づいている。

 魔物と戦う回数は増えて、平和からは遠ざかってる。

 それでも一緒に来てくれる。


「ほんと、嫌になるね」


 彼女達は私の心を満たす装飾品じゃない。

 ましてや、復讐のための道具でもない。

 私を信じてくれる優しい娘達。

 あの娘達は自分で選んでここにいてくれる。

 

 彼女達は、友情はそれを空白を埋めてくれた。

 それでも、どうしても埋まらないものがある。

 恩知らずの私はこう思ってしまう。


 私はまだ、あの人達を大切に思ってる。


 何故かはわからない。

 わかりたくないのかもしれない。

 それでも体が、心が、大切だって伝えてる。

 私に何かを訴えている。

 きっと、私は頭がおかしいんだと思う。

 おかしくなってしまったんだ。


 それでも、あの2人が好きなんだ。

 

 それがなんなのかはわからない。

 多分、理解できていない。

 一生無理なのかもしれない。

 でも、向き合わなきゃならないことも知ってる。

 自分では気づいていないだけで、私はそうやって成長してきたと思うから。

 

 大切に捨てられた時、何かが欠落して、同時に何かを得られた気がした。

 そして、その何かに向き合う時は必ずくる。

 

 得られた自由には、きっと代償がある。

 欠落した何かには答えがある。

 人生はきっと過去の中にあって、未来に導いてくれた。

 あの別れは出会いを、あの苦しさは人を救える言葉を生み出した。

 だから、今があるんだと思う。

 人生は、運命はきっと繋がってる。

 

 そして、私の運命は突然告げる。

 出会ってから数ヶ月。

 アルとはもう随分と仲良くなった。

 なんでだろうね。


「シオン。お前の故郷で、妾の求めてる何かが起こる」

「そうなんだ」


 ただそう返す。

 こんな平和な世界では何も起きない。

 それに、そんなことだろうとは思ってた。

 そうじゃなきゃ、私である必要はない。

 目の前の特別が私を選ぶわけがない。

 やっとだ。

 これがきっとそうだ。

 

「それだけか? 何も聞かないの?」

「まぁね。私はアルを信用してる。それで十分」

「……ありがと」

 

 なんで私の故郷を知ってんの、とか色々言いたいことはあるけど、無駄なんだろうなと思う。

 まぁ、考えても仕方ないことは極力考えない。

 そう思ったとしても、頭では考えてしまうのが人間。

 だから、頭から少しでも離す。

 きっと、誰かを疑うことはとても寂しい。

 ただ明るいだけが取り柄の私はそれを知ってしまった。

 

「姫、どうしますか?」

「そうだね。どうしようかな」


 この反応。

 隠していたけど、リンに何か知られてるのかな。

 ただ勘がいいだけかもしれない。

 でも、確かなことはある。

 この気持ちが、この行動が彼女達を不安にさせている。


「ボクは君についていくよ」

「ありがとう、ユズ」


 多分、ユズも迷ってる。

 私の思いで迷わせてしまっている。


「……妾は強制しない」


 きっとこのままなら、こんな顔をさせてしまう。


「まぁ、いつかはやらなきゃいけないし」

「でも……!」

「ありがとう、リン」


 迷いは捨てよう。

 傷つく覚悟をしよう。

 何かを失う覚悟をしよう。

 幸せを歩むためには必要なことだと思うから。


「シオン……」

「そんな顔しないでよ。調子が狂う」

「でも!」

「いいよ。付き合ってあげる」


 こういうのは早ければ早い方がいい。

 それにこれは、私のためじゃない。

 アルのためだと思えば、少しは楽になる。

 過去に決着をつけて、私のあの時を取り戻そう。

 新しい私達を始めよう。

 過去に決着をつけて、今を進む。


「私は明るいことだけが取り柄だからね」

「そんなこと言わないで!」

「……ごめんね」


 リンに怒られる。

 でも、このままなら唯一の長所も失うかもしれない。

 折れた経験のない私は、想像以上に脆いと知った。

 

 時間を貰っても、時間が経っても、埋まることなんてない。

 向き合わなきゃ、得られるものなんてない。

 何かをしなきゃ、変われない。

 それに、今の私なら証明できるかもしれない。

 私を救ってくれたのは恩恵ではなかった。

 

 ――あなたの恩恵は「女に好かれる」です

 

 このままじゃ、そうやって思えなくなる。

 私はそうであると思いたいから。

 そして、アルは続ける。


「時間はまだある、と思う」

「そうなの? なら、ゆっくり向かおうか」

「……」

「そんな顔するなって。いったでしょ? 私はアルもほしいの。そのために必要なら、私はやるよ」

「……うん」

「いつも通り、ゆっくりしながら向かう。みんなはそれでいい?」


 みんなは曖昧な返事。

 きっと何か思うところはあるんだと思う。

 直前になったら、少しだけ私を話してもいいかもしれない。

 

「リン、ごめんって」

「……はい」

 

 これは話すべきだとも思うから。

 みんなには知ってほしいって気持ちもある。

 遅すぎって怒られるかな。


 あれは、私がはじめて経験した大きな挫折。

 きっと、人生ではじめて経験した大きな傷痕。

 結果を全て受け入れて、何もかもを形にして。

 人生ではじめてを乗り越えて、私はまた成長する。

 私は彼女達と歩いて行く。

 あの出来事を過去にする。


「さぁ、いこうか」


 精算するときは今なんだ。

 私が私になるために。


 過去を積み上げた先にある決まった道。

 人が運命と呼ぶそれに、向き合う時がきた。


ブックマークと☆を入れていただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ