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夜明けの貴公子は行き遅れの太陽に恋焦がれる(旧題:引きこもり令息は行き遅れ令嬢を追いかけたい)  作者: 鶏冠 勇真
2.5章

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コミカライズ記念② アンブラー三兄弟会議

2025年12月25日本日よりwebコミック誌『マグカン』様にてコミカライズスタートです!よろしくお願いします!


以下番外編、本編終了後ある日の三兄弟の会議の様子です。

「将来、僕らに子供が産まれたときの話だが」

「ごっふぅおあっ」

「うおっ汚いぞルクシオ早く拭け」

 アンブラー家の三男にして跡取り、ルクシオの自室兼アトリエ。つい先程誰かが持ち上げて叩きつけるところだったテーブルをもう一度囲み直したところ、次男ディオルクが突然そんなことを言った。

「えっ、あ、お、おおおお俺はっ!結婚するまではそんなことは!」

「もちろん結婚してからの話だ弟よ。僕たちが結婚してから一年、お前も上手くいけば近いうちに……いや遠からず……いやいつかはもしかして遠い未来に実現しないとも限らなくはな」

「どんどん遠ざかってくんじゃねーよ!」

「そうだぞディオルク、世の中には奇跡というものがあるんだ」

「うるせぇ絶対起こしてみせるからなその奇跡!」

 吹きこぼしたコーヒーを布巾で拭いながらルクシオが叫ぶ。

「まあとりあえず今はその奇跡が起こったと仮定して話を戻そう。将来僕達に子供ができたとして……」

「お、ぅあ、お、う、おお」

「オットセイかお前は」

 ユーミアとの間に子供。考えたことがないわけではない。むしろ結婚生活を妄想するにあたって既に何十回も考えている。勿論こういったことは授かり物であるしユーミアの負担になっては嫌だしユーミアさえいればどちらでも構わないしもし女の子だったら今から嫁に出すのが辛いけども!

「もし、もしだぞ……全員男児だったらどうする」

「え?」

 と、妄想の世界に突入しかけたルクシオだったが、ディオルクの言葉で現実の世界に戻ってきた。

「僕と、兄さんと、ルクシオ、三人のところに同時期に、男児が産まれたらどうする……」

「それは……お祝いは妻子との肖像画でいいか?」

「いやそれは嬉しいけど!そうじゃなくて!」

「俺の方も頼むぞルクシオ」

 見目の良い兄達の子である。きっと良いモデルになるだろう。いつも憎まれ口を叩いてはいるが、ルクシオはこの二人の兄の絵を描くのも嫌いではなかった。

「金も出そう、いくらだ?」

「いらねぇって祝いなんだから」

「いや定期的に頼みたいからな。知ってる画家でお前が一番腕が良い」

「……ああそう。まあいいけどぉ」

 なんだかんだ言って昔から仲の良い兄達だ。そりゃあ誰の嫁が世界一かで血みどろの争いになることもあるがまあそれは男兄弟として避けて通れない道である。今のところ本当に兄弟の縁が切れたことはない。今のところは。

「それなら僕も同じく頼みた……って違う!話を戻すぞ!」

 しかし話が家族の肖像画の相場、兄弟割引適用に移っていったところでディオルクがテーブルを叩く。

「僕ら三人のところに同時期に男児が産まれて!……同じ運命に出会ったらどうするって言ってるんだ!」

「はあ?何だよ同じ運命……って……」

 そこまで言ってルクシオも気づいた。兄二人と自分、アンブラーの血をしっかり受け継いだこの三人のところに、同年代の男児が産まれた場合起こり得る悲劇に。

「……あり得ないことではないな」

 長男エミーディオも片手で口元を押さえて唸る。

 同じ運命に出会う。つまり、子供達の運命の相手が被ってしまった場合である。

「それは……」

 アンブラーの血を引く男達が、同じ女性に恋をしてしまったら。

「血を……血を見るだけならいい方だ……」

 一瞬で最悪の想像をし、真っ青になったルクシオが呟く。見れば二人の兄の顔も同じく青かった。

 アンブラー家の家訓第一条。同族間で恋敵になることなかれ。

 家訓に、しかも第一条にわざわざこんなことが掲げられているのだ。過去にどんな悲劇があったかは語るまでもない。

「思えば僕らは被らなくて良かったなあ」

「まあ三人共行動範囲が違ったというか、ルクシオに至っては殆ど家から出てなかったから被りようがなかったしな」

「で、でもどうすればいいんだ?上から順に運命を見つけるまで家から出さないとか?」

「それはそれで問題だろうよ」

 アンブラーの血は伊達ではない。偶然で済ませるにはちょっと無理があるくらい、親兄弟親族皆が皆恋に狂ってきた。これから産まれてくる子供達も例外ではないだろう。

「早いうちに魅力的な女の子に会わせて恋をさせるとか……いや、でもすぐに運命だとわかるくらい魅力的な女の子なんて」

「駄目だユーミア嬢しか思い浮かばない……!我が子と争いたくない!」

「くそ、ミリアムしかいないじゃないか……親子間でそんな争いをするわけには!」

「僕だってたとえ息子でもリジーは渡さないぞ!」

 いつもであればここでそれぞれの最愛が世界一だと叫んで乱闘に入るところであったが、今回ばかりはそんな場合ではなかった。事前に母から釘を刺されたこともあるが、エミーディオとディオルクにとっては現在の、ルクシオにとっては将来の幸せな結婚生活の危機である。

「そもそも出会いをセッティングされたからって恋をするとは限らない。俺はミリアムの前に他にどんな女性と出会おうと恋はしなかった」

「僕だって!リジーじゃなければどんな女の子との出会いでも意味ないさ」

「……ならやっぱりこっちが何か操作できるようなことじゃあないな……」

 ルクシオとて母親以外にまともに会話をした女性はユーミアが初めてであるが、ではユーミアと出会う前に他の女性を紹介されていたらその人を好きになったかと問われれば、それは絶対に無いと断言できる。だってユーミアが世界一の女性であるのは自明の理なのだから。

「世界一輝くユーミア嬢がいたらどうしたって他は霞むだろうし」

「ミリアムというこの世の天使がいて他に目がいくわけがないし」

「リジー以上なんているわけないんだから他にうつつを抜かすわけがないし」

 ピシリと部屋の空気に緊張が走る。まるで大乱闘が始まる直前のような一瞬の静けさ。

「……いや待て、落ち着け、母さんの言葉を思い出せ二人共、それに今の議題はどうやって未来の我が子の幸せを守るかだろう!?」

 しかしティースプーンがカランと傾く音が開戦のゴングになるか否かのところで長男エミーディオが待ったをかけた。ここで大乱闘になってはいつまで経っても話が進まない。

「そもそも、一人の女性が世界一だと意見が一致した場合に起きる悲劇について対策しようとしていたわけだろう?俺達が悲劇に陥ってどうする!」

「た、たしかに」

 エミーディオの言うことは尤もであった。ルクシオとてユーミアが世界一の女性であることは動かしようのない純然たる事実、兄二人は分かってない……と思っていたが、では兄二人がいざその事実を分かっていた場合どうなっていたか。

「もしエミ兄とディオ兄がミリアム嬢達より先にユーミア嬢と出会ってたら……」

 アンブラーの男は初恋以外の恋はできない。だから兄二人が今からユーミアに恋をするのはあり得ない。しかし、それぞれの最愛と出会う前に、ユーミアと出会って、そして恋に落ちていたとしたら。

「ミリアムはよく俺を王子様みたいだと言うし……王子ならディオルクの方が理想に近いかもしれない……子供好きだからルクシオの方が母性をくすぐるところもある……」

「リジーは面食いなところ以外は商売の役に立つ男が好きだと言ってたから……エミ兄はこの一年で婚家を立て直したくらいのやり手だし……ルクシオの記憶力はそりゃあ役に立つだろうな……」

「ユーミア嬢は面倒見がいいから長子同士エミ兄と話が合いそうだし……美人だからディオ兄の方が隣に並んで見劣りしないだろうし……」

 兄達の方が見目が良い。年も近い。なんだかんだ言って頼り甲斐がある。そしてこれは全員に共通することだが、恋の成就のためならなりふり構わず何でもする。

 もしこの兄達が先にユーミアと出会っていた場合、引きこもりだったルクシオとユーミアの出会いは兄の婚約者として顔合わせの場だったという可能性も。

「うわあああああ!」

 エミーディオやディオルクの隣に立ちその腕に手を添えるユーミアを想像し、ルクシオはそのあまりの勝ち目の無さに多大なダメージを受けた。

 駄目だ、これは駄目だ。ここから逆転できる道が何一つ見えてこない。そしてルクシオが何もできずにいるうちに二人は結婚し、家を継ぎ、いつまでも仲睦まじく——そんな幸せな光景をただ見ていることしかできない引きこもりの自分。

「ふっ……ぐっ……駄目だ、こんな苦しみを我が子に負わせるわけには……」

「その通りだルクシオ、こんなの生きていけるわけがない……」

「想像だけで寿命が縮んだよ……」

 どうやら兄二人も同じような想像をしたらしい。いつのまにか兄弟三人共がテーブルに突っ伏して呻いていた。

「行動範囲を無理矢理制限はできないだろうけど……なるべく被らないように誘導くらいは」

 そこからなんとか起き上がりつつ、ルクシオが意見を述べた。

 ハタから聞けばなんて馬鹿な会議だと思うかもしれない。まだ産まれてもいない子供同士、好きな女の子が被らないようにしようなんて。

「情報の共有も必須だ。誰かが運命に出会ったことが判明したら即連絡」

 ルクシオの案を受け、エミーディオも真剣な目で答える。

 初恋は実らないもの、失恋の苦い思い出も大人になれば懐かしく思うものだと世間一般では言うだろう。

 だがしかし。アンブラーの血を引く男にとって、初恋が実らなければそれは即ち人生の終わりだ。失恋は苦い思い出なんてものじゃあ済まされない。

「その誰かの運命の相手にまだ初恋前の他の子が会ってしまうのは全力で阻止だな」

 ディオルクのまとめに三人全員で頷く。

 我が子の初恋応援という議題の微笑ましさとは裏腹に、会議の空気はこれ以上ない程に重い。

「ところで産まれたのが女の子だったらここまで心配しなくていいのか……?」

「まあ狂うのは何故か男ばかりだからな」

「ただ家系図を遡る限りうちは圧倒的に男児が産まれやすいけど……」

 そして議題から少し逸れ、アンブラー家の歴史にも踏み入っていき。

「家系図より前はどうだったんだろうな?一応父さんとか爺ちゃんから話は聞いたことはあったけど……エミ兄もディオ兄も何か聞いてるか?」

「ああ……曽祖父より前ははっきりとはしないがまあ、俺も父さん達から逸話はそれなりに聞いた」

「僕も色々話は聞いてる。この血筋はどこから始まったのかは少し気になるよな」

 男はもれなくどうしようもないくらい恋に狂うアンブラーの血。いったいどこからスタートしたのかというのは謎に包まれている。

「遺伝だとしてこれだけ強い遺伝は他にないよなぁ」

「何代重ねても薄まらないんだから相当だ」

「案外、あの話も本当かもしれないぞ。曽祖父が先代から受け継いだっていうあの悪魔召喚に関する蔵書」

 先程までの重い空気を和らげるためか、少し茶化すようにしてディオルクが言う。

「うちの祖先が恋愛成就のために悪魔と契約して、未来永劫続く呪いを受けたってさ!」

 それはアンブラー家の成り立ちについて、正式なものの他にちょっとした笑い話として伝わっている話。曽祖父の蔵書がいかにも怪しげなものだからと誰かが冗談で言い出したこと。

「まああり得ない話じゃあないな?そのおかげで今の俺があるなら呪いだろうとなんだろうと大歓迎だ」

「そうだな、悪魔の呪いどころかむしろ女神の祝福と言っていい」

「どんなに降りかかろうが痛くも痒くもないね」

 笑い話である。悪魔だの何だの非現実的な、ただの与太話。

 よくもまあこんな御伽話が代々続いたものだと三人の笑い声が響く。


 ただしこの話をした時に、ユーミアは、ミリアムは、リジーは、まったく笑ってくれなかったなとそれぞれ思い出していた。


アンブラー家ジョークは女性陣にはあまりウケがよろしくなかったりする( ・∇・)


コミカライズめちゃくちゃ素敵に描いていただけたので是非見てほしいです…!

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― 新着の感想 ―
笑い事じゃないし有り得そうって思いかけて 恋愛成就のために悪魔と契約してる時点で、それは……やっぱり呪いではなく血なのでは?と気づいてしまった。 メリークリスマス、そしてコミカライズおめでとうござい…
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