クロの話
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――クロの話――
かつて人間は真空エネルギーの研究をしていました。
そう言ってクロは話を始める
それを機械化する事には失敗したが生体内ではうまく動作する事が発見されたのです。
その器官はSQ器官と呼ばれ元素変換を行うSQ細胞を作り出す事の出来る器官であった。
機械化で失敗した夢のエネルギーが生体内で可能となるのは如何なる皮肉であろうか
その器官を組み込まれて作られた動物はそれこそ何でも食べて大きくなった。
何でもと言うのは土や石でも命を繋げる脅威の生物だと言う事である。
人間はこれを食肉事業に応用して大いなる成果を得る。
おりしも人口増加による食肉事情がひっ迫し始めた時期でもあったからだ。
食肉用動物の遺伝子を操作しSQ器官を持たせた物を飼育し始めと瞬く間に広まっていく。
そうやって作られた豚や牛の様な動物は飼育の手間やえさの調達に苦労することなく良質の肉を人間に提供した。
「それが現在の魔獣の先祖ということか?」
「いえ、正確には少し違います。実はこの魔獣を兵器として利用しようとする国が現れたのです。」
彼らは繁殖力の高い動物にSQ器官を持たせ、安全装置として個体密度が一定数を超えると自殺行動を起こすように本能付けました。
彼らは相手の国にそっと動物を持ち込むとそれらを放したのです。
数年後その動物は大繁殖を起こし暴走を起こしその国を食いつくして海に沈んだのです。
そこで魔獣の脅威は消滅する筈でした。
ところが驚く事に大繁殖したのは小型動物だけでは無く、いく種類もの動物が暴走に参加していたのです。
SQ器官を媒介する遺伝子操作用のウィルスが変異を起こし野生動物の何種類かに感染を起こして遺伝子の改変が行われていたのです。
そして魔獣に攻撃された国は亡びる直前にすべてを理解し敵国に向かって核ミサイルを発射しました。
「核ミサイルってなに?」
「悪魔の兵器です、すべてを焼き尽くし、その災禍のみならず消滅不能の毒を撒き散らしたのです。」
「その兵器に関しては社にも伝わっています、絶対に使用してはならない兵器だと。」
幼いながらも巫女としての教育を受けて来たサキュアはそれなりにこの状況を理解し始めていた。
戦争の後世界は核の冬に見舞われました。爆発によって巻き上げられた塵が世界を覆い日の光を遮断したのです。
皮肉にもその時人間を救ったのはSQ器官を持つ動物たちでした。
彼らは環境の変化に強くまた驚く事に放射性物質を体内に取り込み除染をしてくれたのです。
それはSQ器官に元素変換能力が有った事に由来していたからです。
全ては元に戻るかに見えたのですが、そこに思いもかけない罠が待っていました。
一旦は海に沈んで沈静化したと思われたSQ器官を持つ動物が徐々に復活し始めたのです。
それ自体は大した問題では無かった、当時の人間たちはそう思いました。
元の動物は家畜だったので無害な小動物が多く、状況を理解さえしていればそれ程の脅威では無いと考えられていました。
ところがそこには悪魔の仕掛けがなされていたのです。
その動物たちは人間を襲うように本能付けされていたのです。
国を滅ぼすために作られた兵器ですからそこには人間を殺すという明確な標的が示されていました、これが現在でも魔獣が人族を好んで襲う理由なのです。
彼らを作った学者や研究機関は核戦争で死滅していましたから既に詳細はわからなくなっています。
戦争によって大きく後退した人類の経済活動ではSQ器官の研究そのものが出来ないほど疲弊していたのです。
その間にも魔獣は増え続け農村地帯で人が襲われる事態が頻発するようになります。
ところが人類にな更に恐ろしい試練が与えられました、この魔獣をを食う魔獣が現れたのです。
元々が何を食っても良かった魔獣ですがやはりより美味しいものを好むわけで、死んだ仲間の肉は草よりも美味しかったのでしょう。
その結果仲間の肉を食った魔獣はSQ器官を外部から取り込み体内の器官を肥大化させることに成功したのです。
SQ器官の肥大はより多くの栄養の摂取を意味し自らの肉体がより大きく強くなった事に気づきました。
その結果より多くのSQ器官を求めて他の魔獣を襲うようになりました。
すると体形に変化が起き肉食獣としての機能まで獲得するようになったのです。
「あああ~っ、そのへんはワシらも経験則として気がついてはいたのだが、そういった背景が有ったのか。」
ゼルガイアがため息をつく、魔獣の驚くべき性質は獣人の間でも広く知られていたのだ。
「普通大型化した個体は狩猟など出来ない、素早く動く獲物を捕らえる事が出来ないからな、ところが大型化した魔獣はなぜか魔法を使うようになり遠くから素早い魔獣を殺して食うのだ。」
SQ器官が生み出すSQ細胞によって空間のエネルギー変換が可能となりました。
それは様々な形を取ったのですがその能力そのものが大型魔獣と呼ばれる怪物を生み出しその牙は人間にも向けられる様になりました。
その姿は正に悪魔の様でありその頃から人類は彼らを魔獣と呼ぶようになりました。
当初は人間も魔獣を近代兵器で駆逐していたのですが環境変化をものともしない魔獣達は人の少ない地域での繁殖を行なっていました。
何しろ核戦争により人間の勢力範囲は大きく縮小していたのですから。
魔獣は極寒のツンドラ地方や灼熱のアフリカの砂漠の真ん中で悠々と子孫を増やしていったのです。
なによりも魔獣にはその成り立ちから毒薬が効かず再生能力も高いうえ環境変化にも極端に強かったのです。
人々を襲うのは小型の魔獣も同じことで当初兵器としての有り方を素直に体現していたと言って良いでしょう。
徐々に追い詰められ更に生存圏を縮小していく人間たちでありました。
しかし驚く事に魔獣たちの浸食と共に世界は緑に覆われていく様子が各地で確認されて行きます。
魔獣たちが放射性物質を取り込み無害化して環境に放出すると共に、その排泄物によって土地は肥え砂漠ですら豊かな緑を蓄えるようになってきたのです。
その頃から世界各地で人類は自らの生存圏を壁で閉ざしその中への魔獣の侵入を阻止するようになりました。
それによって何とか人類は生き延びるかに見えました。
その時期になってようやくSQ器官の外部化に成功しエネルギー問題は過去の物となりました。
しかし既に人類の範図の大半は魔獣に奪われ人類の人口も大きく減少していたのです。
反転攻勢の為魔獣の弱点を研究した人類は人間と獣のキメラを思いつきます、それが獣人族の誕生です。
人間と獣のキメラは魔獣に取って人間とは見られずに攻撃の対象とはならなかったのです。
獣人には大型魔獣と同じSQ細胞を利用した真空エネルギー変換能力が付与されました。
それが獣人族が使える魔法能力の元となっています。
しかし獣人の魔獣化を恐れた人類は獣人にSQ器官を持たせない様にしました。
獣人は魔獣の持つSQ器官から作られるSQ細胞を取り込まなくてはならないのです。
その貯め込む肉体が大きいほど強力な魔法を使用できるというわけです。
当初は目覚ましい働きで魔獣達を次々と駆逐していきました、その成功に気を良くした人類は獣人を次々と開発していったのです。
獣人達は魔獣を倒しその肉を食うことによりより強力な戦力となっていくのです、誰しもこの成功を疑うものはいませんでした。
強力な肉体と強い魔力を持つ万能の戦士獅子族。
獅子族の成功に気を良くした人類はより大きな体と強い力を持つ熊族を開発しました。
ところが当初の期待と異なり性格が臆病で温和で有ったため戦闘には向かず補給要員として利用する事になります。
熊族の失敗に懲りた人類はより人類に近く、集団戦闘の出来る犬耳族を作りました
鋭い嗅覚と聴覚力を持つ犬耳族は集団戦の中核的存在になりました。
犬耳族の成功でその後は人間型を作る事になりました、この段階で不足していたのが情報要員でした。
単独で行動でき情報を集めて来れる種族が求められ猫耳族が作られました。
猫耳族はその素早さとしなやかな動きで斥候要員として非常な優秀さを見せました。。
しかし全体を束ねる頭脳がいなかった為兎耳族が作られました。
本来非常に臆病な兎耳族は戦闘力に頼ることなく戦略智謀を中心とした働きを示しました。
彼らは戦闘には関わらないものの彼の属する部隊員全員の安全を守る仕事を与えられました。
これが現在の獣人族の成り立ちです。
「ワシらはワシらの事を人間と呼び獣人とは呼ばん、その言い方はやはり人族は人間と獣人としての括りで考えておるようだな。」
「まあ、人族には造物主としてのプライドが有るのでは無いでしょうか?」
「ああ、そいつは俺もなんとなく感じていたな。まるでぺットでも扱うように話をしていたからな。」
しかし獣人による侵攻が進んでいくにつれ人間との間に空間的な距離が出来てきます。
すると獣人達の間に『何故自分たちは人間の為に戦わなくてはならないのか?』と言う疑問が生まれて来るのは必然でしょう。
やがて一部の獣人達が人類の影響圏から離れて来ると人類を捨て自らの力だけで生きるようになってきました。
そうなると他の獣人部隊も次々と離反を繰り返すようになってくるのです。
逆に追い詰められてきた人類は究極の獣人を作り上げる事にしました、エイジング遺伝子を除去したトカゲと人間のキメラです。
当初成功したのは一体だけでしたがその個体を元に遺伝子操作を繰り返し遂に竜族の開発に成功しました。
「もしかしてその当初の一体と言うのはまだ生きていてあの竜の子供達の親なのか?」
流石ゼルガイアさん、鋭いですね、私にとっても父であるエルギオスですよ。
「その竜があの子供達と共に俺達を逃がしてくれた奴ですよ……まあ変な取り巻き連中もいましたが。」
「なる程向こうさんもいろいろ有るようだな。」
SQ細胞によって口から高熱の炎を吐き空を飛んだ。姿勢制御のために小型の翼をもつその姿は正に伝説のドラゴンで有り強靭な外皮はあらゆる攻撃をはねつけた。
ドラゴンはその体を維持する為に魔獣を食い続けなくてはならず、また魔獣の様に増えてしまわないように雄だけを作って世界に放ったのです。
当時は竜族を促成栽培で10年程で大人にして放出していました。
成長を促すホルモンと大量の餌を与えたのです。
無論知的生命体としての知識もまた睡眠学習等で与える事にしていました。
少なくともお互いを知性体と認め合うほどには知能が高く無いと人間を襲う事になりかねなかったからです。
その結果精神的には子供で大人の肉体を持った竜が世界に放たれたのです。
ところがしばらくすると思いもかけない事が起こり始めました、不死身の筈の竜族が次々と死に始めたのです。
原因を調べるとどうやら自殺だったらしいのです。
子供の精神のままで送り出したが故に彼らは孤独に耐えられなかったのです。
「その当時の連中には家族がいなかったのか?どう考えても10歳の子供を放り出すなんざ正気じゃねえな。」
「それだけ当時の人族は獣人を動物としてしか見ていなかったと言う事の様ですね。」
次の世代はもう少し時間をかけて教育を施し群れを作って放出するようになったのです。
最初はうまくいったのですが群れの中での内紛が絶えず結局多くの竜が傷つき死んでいきました。
そこで最後の手段としてメスの竜を作りある程度の教育を施した後子供のまま雄の竜の所に届ける事にしたのです。
この竜のメスにはある特別な能力を授けました。生体副頭脳を装備させ別途に記憶を保存出来るようにしました。
「それはこの4500年分の記憶が残せると言う意味かしら?」
「全部では無い様です重要な部分を選択的に記憶出来ると聞いています。」
「すると竜神のお父さんは忘れちゃってる事も皆覚えているってこと?」
「そのほうが旦那をコントロールしやすいじゃないですか。」
「いや、男を立てながら尻に敷く女が最高の女房なのだ。」
ボソッと言った言葉に全員からジト目で見られていたことに気付いていないゼルガイアであった。
ご存知の様に竜は成人するまで本来であれば500年程かかります。
つまりそのメスを育てる500年間は子供が生まれないけれどその間は必死で魔獣を狩る事になるでしょう。
意外なほどにこの作戦は功を奏し雄の竜は子供の竜を大事に育てました。
その結果竜族の自殺率は大きく減少したのです。
いずれはゆっくりと数を増やして行くと思われました。
しかしやはり人類にはそれだけの時間的余裕は無かったのです。
長い研究の結果人類は自らの生存圏をこの地上から完全に隔離する事に致しました。




