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ライオン・ハート

1-045

 

――ライオン・ハート――

 

「隊長!助けに来てくれたんスか?」

 暴走スタンビートをやり過ごした馬車から次に顔を出したのはケアルであった。

「おお、お前も無事であったか。」

 力を出し切ったゼルガイアはぐてっとなって馬車にもたれかかっていた。

「ヘルファイアを使って俺たちを助けてくれたんスね、おれ感激っス。」

 ゼルガイアの手を握って涙ぐむケアル。

 

「それは良いとしてなんでお前こんなものに乗っているんだ?」

「いろいろありまして竜の子供達を連れて逃げて来たんス。」

 馬車の中からぞろぞろと竜の子供達が出てきた。

「な、なんじゃその竜の子供は?」

 座っていてもゼルガイアの割れがねの様な声は健在で有った。

 その声にびくっとなった子供達は寄り集まって抱き合っている。

 

『ライオンだ。』

『危ない、食べられちゃうよ。』

 子供達のひそひそ声にひどく魂を傷つけられるゼルガイアである。

 ミゲルが出て来て子供達の前に立つ。

『大丈夫よ見かけは怖いけど警備隊の隊長よ、捕って食べるのは魔獣だけだから。』

 なんか余計状況が悪くなるような説明である。

 

「安心して、お姉さんがみんなを守ってあげるから。」

 キララが目にハートのマークを浮かべて子供達の所にやって来る。

『竜の大人だ、すごい怖い顔してる。』

『見て見て、鳥を生きたまま食べようとしている。』

『懐に入っているのは人間かしら?ぐったりしてる、後で食べるつもりよ。』

 びきびきびきっとキララの額に♯マークが現れる。

 

「ちょ、ちょっと待ってね、今この子達を下ろすから。」

 キララは服の中のユキ達を下ろすと腰のロープを使ってクロをぐるぐる巻きにする。

「ユキちゃんの具合はどう?」

「魔力の枯渇かと、あれはやはり魔法力だった様です。」

 魔法力の枯渇であれば魔獣の肉を食べれば治るので問題は無い。

「やあ、君たち僕はお兄ちゃんて呼ばれているんだ、よろしく頼むよ。」

 相変わらず逆鏡にめげず明るいお兄ちゃんである。

 

『大人の竜だ。』

『良かった、そんなに大きくならないんだ。』

『僕たちもあの位になるのかな?すごく優しそうな顔をしている。』

『きっと僕達を助けてくれるよ。』

 さっきとは全然違う評価がキララの耳に届く。

「何でそうなるのよ!」

「くえええ~~~~っ!」

 力を入れすぎたらしいキララの手の中でクロが白目を向いていた。

 

「それで?その竜神様は一体どうしたんだ?」

 流石にゼルガイアも軍の警備隊長である、まずは竜達の処置について考える。

「はいゼルガイア隊長、私達が幽閉されていた同じ施設にいたのです。この子の親からこの子達を連れて逃げるように頼まれたので馬車を盗んでここまでやって来たのです。」

 ケアルと違ってちゃんと道筋を立てて説明の出来るミゲルである。

 

「ここはどこだ?」

「私にも解りません、ここでは人族が支配者のようです。」

「人族から逃げて来たのか、追手は掛っているのか?」

 ゼルガイアは遠くの上空を見あげると小さな点がいくつも見える。

「もしかしてあれが追手なのか?」

 実際は突如として現れた魔獣の暴走に対して鎮圧に現れた飛行機械であったが彼らはそんな事を知る由もない。

 

「はい、あれと同じ物に追跡された経験が有ります。」

 ゼルガイア達に取って竜は生活の根幹でありその存在は何よりも大切な物であるとされていた、当然のことながらその子供は如何なる理由であれ保護されるべき者で有ったのだ。

「馬がいない様だがその馬車は動くのか?」

「はい、この馬車は馬を必要としない様です、このままで走る事が出来ます。」

「それじゃ起こせば走れるのだな?」

 ゼルガイアが周りを見る。自分は動けない2柱の竜神とケアルだけで起こせるだろうか?

 

「な~に?ゼルガイアさん、この馬車を起こせばいいの?」

 屈託なくお兄さんがゼルガイアに問いかける、しかしこの人数では無理だろう子供達を竜神様に託しワシを置いて逃がす以外に方法は無いだろうと思った。

「ケアル、ワシと馬車を放棄して逃げろ竜神様の安全を第一に考えるのだ。」

「な、何をいうんスか?隊長は俺が担ぎますよ。」

 ケアルが牙をきらっと輝かせる。無理だろうとゼルガイアは思う、ゼルガイアの体重は150キロ近く有るのだ。

 

「な~に言ってんの?ちょっと待ってすぐに馬車を起こすからさ~。」

 お兄ちゃんは馬車の向こうに行く。

「みんなちょっと離れていて、馬車を起こすよ~。」

 手袋を外すとガツッと馬車に手を掛ける、爪が車体に食い込むのが見えた。

「うううう~~~ん。」

 お兄ちゃんが力を入れると上半身がぐわっと膨れ上がってぐぐぐっと馬車が持ち上がる。

 そのまま目の上まで持ち上げるとドスンと馬車が立ち上がった。

 

『凄いっ!』

『流石に大人の竜だ!』

『大丈夫だよ、おじさんが僕達を守ってくれるから。』

 お兄さんの株は急上昇、何故がキララの株は大暴落のままで有る。

「あっちの林の中に隠れましょう、あそこなら上から見えないから。」

 ふとミゲルはゼルガイアが倒した魔獣の群れを見る。

 

「竜神様、子供達の食事をお願いできませんか?」

 流石にミゲルは常に状況を掌握している、疲弊したゼルガイアには早急に魔獣の肉を食わせなくてはならない事も理解していた。

「うんわかったよ、少し持っていこうね。」

 ミゲルの指示で全員が急いで馬車に乗ると出発した。

 お兄ちゃんとキララが焦げた魔獣を足に掴んでその後を飛んでいく。

 

「あの~、私はどうなるのでしょうか?」

 グルグル巻きにされたクロが放置されていた。

「あ、忘れてた。」

 無事キララによって回収された模様である。

 

 装甲車はそのまま身を隠せる様な森の中に入っていく。

 奥の方まで入っていく。うっそうと茂っった木のおかげで上空からは殆ど見えなくなりしばらく行くと小川が見えた。

 装甲車を脇道に入れて藪の中に隠れる。

「僕が向こうの様子を見てくるよ。」

 お兄ちゃんが魔獣を下ろすとトコトコと来た道を戻って行った。

「それじゃ私がみんなの食事を作るわ、みんな食べるわよね。」

 キララが竜の子供達を見て聞くが、なぜかみんなげんなりした顔をしている。

 

 何しろ子供達は逃亡している間生肉を食わされて来たのである。

 挙げ句キララに掴まれていた血まみれのクロを見ているのである、きっと今日は鳥を頭から丸かじりさせられるのだと思っていた。

 どうしたのかしら?みんなお腹が空いていないのかしら?

 子供達の様子を見ていたキララはその原因が自分だとはつゆほども思っていない。

「あ、兎耳族さんはどうしよう。」

「大丈夫、私は私の食事が有りますから。」

 まだもらってきたニンジンも芋もある、サキュアと二人位は何とでもなる。

 遠くでなにか叩くようなタカタカタカという音が聞こえる。

 

「ミゲル、あれは何の音じゃ?」

「あれはヘリからの攻撃音です、多分魔獣を攻撃しているのでしょう、私達もあの攻撃を受けました。」

「あの飛行機械の名前か?飛行しながら地上を攻撃出来るのか、やっかいだな。」

 ゼルガイアは上空を見る。

「ミゲル、子供達を使って馬車の屋根に木の枝を乗せろ、このままじゃ上空からは丸見えだ。」

 動けないゼルガイアはしばらくこの場所に留まらざるを得ないと判断した様である。

 

 キララは近くに河原が有ったので石を持って来て積み上げると即席のオーブンにする。

 河原で料理をしようとしていたらゼルガイアに止められた上空から丸見えだからである。

 その間ケアルが魔獣を解体していた、皮はだいぶ焦げていたが中までは火が通ってはいない。

「隊長は、内臓を食べられますか?」

「すまんな、先に食わしてくれ。」

 解体した内蔵部分を先にゼルガイアに渡すと生のままガツガツと食い始める。

 血が口の周りを汚すが気にする様子もない。実は討伐任務ではこの様な事も珍しいことではないのだ。

 

 子供達は洗っていない内臓に何の躊躇も無く食らいつくゼルガイアを恐ろしいものを見るような目で見ていた。

 しかし内蔵には魔獣の魔素が多い、この状況ではとにかくその補給が第一であった、だから内蔵に有る魔獣器官を最初に食うのだ。

 石を積み上げただけのオーブンにキララがブレスを吹き込んで石を温める。

「触っちゃだめよ熱いからね。」

 解体した魔獣の肉を順に突っ込んで蓋をする。

 しばらくすると肉の焼ける匂いがし始める。

 

「さ、順番に食べるのよ。」

 焼けた肉を出して子供達に渡すと年長の子が小さな子供達に先に分ける。

 キララはその様子を見ながらニッコリとわらう。

「お姉ちゃんありがとう。」

「美味しいよ、お姉ちゃん。」

 久しぶりの焼き肉なのでみんな喜んでいた。キララの株も急上昇である。

 

 その調子で焼いていたらユキが匂いに釣られて起きてきた。

「おねーちゃん、お肉~~っ。」

 よだれを垂らしているので大きな肉の塊をユキに渡す。

「あちちっ。」

 熱くてユキには持てないようであった、他の竜族の子供達は平気で掴んでいるのでうっかりしていたがユキは竜族ではないのだ。

 

「ああ、待ってろ今串を作ってやるから。」

 ケアルが木の枝を削って串を作るとユキの肉に突き刺してくれた。

「ありがとう、お兄ちゃん。」

 美味しそうに肉にかぶりつくユキ。

「あの~、私にもいただけないでしょうか?」

 ぐるぐる巻にされたクロがケアルににじり寄る。

「あれ?クロちゃんこんな所で何縛られているの?またつまみ食いでもしたの?」

「ユキちゃ~んこの人達私のこといじめるんですよ~。」

 キララはユキが驚きもせずクロと自然に話をしているのを見てあれ?という感じを受けた。

 

「なんだお前何族だ?肉食だったのか。」

「その鳥には聞かなくちゃならない事が有るからそれまでは食べちゃだめよ。」

 キララの恐ろしげな発言にクロが悲鳴を上げる。

「びえええぇぇ~~~っ。」

「何言ってんだ?食わねえよ、何族か知らねえが人間なんだろう、人食いは禁忌だぜ。」

 ケアルは腰から短剣を抜く。

 

「いやいやいや、そんなこと言って安心させてその短剣でぶすりと行くつもりですか?」

「はあ?お前の口じゃ大きな肉は食えねえだろう。」

 ケアルは肉を小さく刻むとクロの前に並べて行ってやる。

「おおお~~~っ、あなたはなんて優しい人なのでしょう?」

 涙を流しながら置かれた肉を次々と食っていくクロ。

 そんなに感激して食う程の物じゃねえだろうと思うケアルである。

 結界の外にいる人間達はその外観が様々であり外観と言う物で人間を区別できない事を知っている。

 したがって言葉を話す知的生命体は全て人間なのであり殺すことは禁忌とされている。

「ぐえっぷ。」

 腹をぷくんと膨らませて横になるクロ、こんなのが重要な情報を知ってるのかといぶかるケアルである。

 

「ねえ君人族の子供だね、僕初めて見るよ。」

 竜の子供達が物珍しそうにユキの周りに集まって来る。

「むごっむごっ、(みんなは竜の子供なの?)」

 竜の子供に囲まれても肉を離さないユキである。

「どうして君は大人の竜と一緒にいるの?」

「アタシ結界の転移実験をしてたんだけど一緒にいたの大人はみんな死んじゃってお父さんに助けられたの。」

 

「転移実験?それじゃエルギオスの父さんが言っていた人族の転移者って君の事?」

「みんなのお父さん?エルギオスの父さんはユキのお父さんだよ~っ?」

 エルギオスが人族の転移能力者を育てている事も竜の子達も人づてには聞いていた。

「なんだ?それじゃ僕たちはみんな兄弟だったんだ。」

「え~っ?そうなるの~っ、お姉ちゃん、この子達アタシの兄弟なんだって~っ。」

 竜と暮らしてきたユキにはこの事を全く違和感なく受け入れる、どうやらエルギオスはこの辺の事はユキには伏せていたらしい。

「おやそうですか?それは僥倖です。皆さんは竜のお子さんですね、私は竜のお世話を賜っているやしろの巫女のサキュアと申します、今後お見知りおきの程を。」

 しっかり自己紹介をするサキュアである。

 

「外に出られたら皆さんの支援をしてくださる組織の代表者がその方がですよ。」

「うわあ、すっごく可愛い娘じゃない。」

 竜の中から声が上がる

「初めまして私は長女のエリアスです、お友達になってもらえます?」

 同じ年頃の女の子と知って早速友達に立候補するエリアスである、

「はい、もちろんです、私はやしろの巫女ですから。」

 にっこり笑うサキュア、年齢の割には大人である。

 

「君を助けたお父さんてあの二人の竜の事?」

「ううん、もっと大きいよあの二人はお兄ちゃんとキララお姉ちゃん、お父さんは大人の竜だよ。」

「げっ、やっぱり竜の大人はそんなに大きいの?」

「うーん、10メートル位。」

 その言葉を聞いて竜の子供達は少なからず衝撃を受けていた、知ってはいても目をそらしてきた事実を突き付けられたのである。

「やっぱり……そんなに大きくなっちゃうんだ。」

 

 そこへトコトコとお兄ちゃんが飛んで戻って来た。

「お兄さん向こうの状況はいかがでしょうか?」

「うん、ゼルガイアさん飛ぶ乗り物から礫のようなものを打ち出して魔獣を殺してた。それと犬の様な物を降ろしていたやつもいたよ。」

「ああ、それは犬の形をしたロボットだと言ってたやつっスね。」

「ロボットとはなんだ?」

「犬そっくりの人工の犬だそうでそいつに体育館みたいなところで追いかけっこをさせられまして。」

 

 その時キララが肉の塊を持って来る。

 向こうでは食事が終わった竜の子供達がよりそってうつらうつらしているのが見えた。

「ゼルガイアさん、内臓はもういいの?お肉も有るけどいかが?ケアルさんもまだなんでしょう。」

「おお、これはありがとうございます。お二人の分は?」

「今焼いていますから。はい、ケアルさんも。」

「ありがとうございます、竜神様。」

 ケアルもゼルガイアに並んで肉にかぶりつく。

 

 そこでゼルガイアがケアルから収容所の報告を受けた。

 人族が生き残っておりしかも失われた科学力をまだ温存している事に驚いていた。

「奴らの目的はなんだろうな?我々を征服でもするつもりか?」

「俺は頭悪いっスから良くは判んねえっス、ただとんでもなく弱い連中ですから、どうも魔獣から逃げて来てこんな所に閉じこもっているらしいんでさ。」

「そんなに弱い連中なのか?」

 あちらの方では魔獣の半身の丸焼きにかぶりつく竜神の兄妹がいた。

 

「まあ細かい事は我々を此処に連れて来た奴に聞いて見るとするか?」

 ゼルガイアはケアルの横でいびきをかいて寝ているペンギンを示す。

「それじゃあみんなのお食事も終わった事だしクロちゃんお話ししてくれる?」

 魔獣の半身を食い千切りながらキララがにっこり笑って話しかける。

 物凄く恐ろしい光景にそこにいた全員が引いていた。

「わかりましたから私を食べるのだけはご勘弁を。」

 

 目の前にキララの牙を見せられて一気に目の覚めたクロである。


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