大転移
1-044
――大転移――
「ななな、何この鳥?空を飛んでる~~っ!」
飛んでいるクロを見て悲鳴を上げるサキュア。
「失礼な、鳥ですから空くらい飛びます。」
空中に立ち止まってすっくと胸を張るペンギンである。
「あなたは魔獣だったの?」
さすがに空を飛ぶ竜である、キララは鳥が空中で立ち止まっても全く驚くことは無い。
「いえいえ、カテゴリー的に言えば魔獣器官を持ちませんので獣人に当たります。そこのユキちゃんとは小さい頃から一緒に遊んだ中です。」
「え?あたしクロちゃんのこと知っていたの?」
「はい、あなたを探してここまでやってきたのです、それなのにユキちゃんは私のことを忘れてしまっていたなんて。」
空中でヨヨヨと泣き崩れるクロ。
やはりコイツは怪しいアホだったのか、クロを見るサキュアの目が冷たい。
「それで?あんたこんな時に正体を明かしてどうするつもりなの?」
「ハイ、魔獣の氾濫に皆さんがお困りだろうと思いまして……実はユキちゃんにしか出来ない決定的な策があるのですよ。」
「え、なに?あたしになにかできるの?」
「聞いてはいけませんよユキちゃん。」
サキュアが冷たく突き放す、どうもこのペンギンは信用がならないと直感が告げている。
「そうですか~~?この危機を乗り越えられるのはユキちゃんだけなんですがね~~。」
もみ手をする、あからさまに怪しいペンギンである。
「キララ様、少し鬱陶しいのでちょっとあっちに跳ね飛ばしちゃってください。」
「なにかいい方法があるの?あったら教えて。」
ペンギンの発言に食いつくキララである、基本的に竜神族は人が良すぎる傾向が有るのだろうか?
「キララ様話を聞いてはいけません、コイツは私達の身近にいながら言葉が通じない獣のふりをしていたんですよ。」
「おやおや、獣とは酷い言い方、私もあなたも同じ獣人の仲間じゃありませんか?」
「獣人?」サキュアが問い直す。
ここに住む人々は自らの事を人間と呼ぶ、獣人と言う呼び方をすることは無いのだ。
「クロちゃん教えて、私どうすればいいの?どうすればみんなを助けられるの?」
「あなたの力を使うのですよ。」
「力ってあのボールのこと?だけどあんなの爆発してもこの群れには大したことないよ。」
「大丈夫ですよ、あなたはあなたの力を制御出来ていないだけですから。それは私がサポートします。さあ上に上がっていらっしゃい。」
「うん、わかった。」
ユキはキララをよじ登って行こうとする。
「いけません、危ないです。」
「サキュアお姉ちゃん、あたし魔獣に襲わてたところをお姉ちゃんに助けられたの。その後ケーキ屋のおばさんやゲルドさんやみんなのお世話になったの、だからあたしに出来ることがあったらやってみたいの。」
「そうです、皆さんへの恩返しです、あの魔獣の群れをやっつけましょう。」
「わかった、ユキ頑張る~。」
そう言ってユキはキララの服の中から這い出していく。
「き、気をつけてユキちゃん。」
キララがユキに手を貸して頭の上に上げるとユキはキララの肩の上に立ち上がるとキララがその足を抑える。
「さあ、ユキちゃんボールをイメージして。」
「ん。」
ユキが両手を上げるとその先にボールが出来る。
「いいですよ、そのまま大きくして行くのです。」
「こうかな?」
「目を閉じて大きく、ボールが大きくなることをイメージするのです。」
「うん。」
ユキはそのまま目を閉じてイメージをボールに集中させる。
「いいですよ、どんどん大きくしてください、こちらでたくさん魔獣の肉を食べましたからそれをすべてボールに変えるのです。」
「なんですって?」
サキュアが聞き咎める、まさかユキまでが魔獣だとでも言うのか?
「素晴らしい、さすがにゲルドさんは一流の魔術師だけではなく大した教育者です。」
ボールはどんどん大きくなり既に50メートル以上になっていた。
「なんじゃあ?ありゃああっ。」
ユキの作ったボールを見てゼルガイアが驚愕の声を上げる。
「ありゃああ……こりゃ危ない、ゼルガイアさんキララの所に行くよ。」
その間もどんどんボールは膨れて行き今や直径100メートル近くなっていた。
「ユキちゃん目を開けて、魔獣のいる当たりをめがけてボールを投げつけるんです。」
ユキが目を開けるともう魔獣の群れは真下に来ていた。
「んしょっ。」
どんなに大きくなってもボールは重さを持っていないようでふわふわと飛びながら魔獣の群れに向かっていく。
「なんじゃあ?何が起きておるっ!」
キララの元に来たゼルガイアが怒鳴る。
ふわふわと漂うように魔獣の群れの中に落ちていってボールはスーッと地面に吸い込まれるかに見えた。
突然グワッと強烈な光が現れると大きく広がってくる。
「な、何が起きたの?」
「うおおおお~~っ、なんじゃこりゃああ~~っ。」
「ま、まぶしいい~っ。」
キララとお兄ちゃんが大きく膨れ上がっら光に飲み込まれる。
「だ、だめっ何も見えない。ユキちゃんあたしの頭にしがみついて!」
「お姉ちゃ~ん!」
「やった成功だ!これで帰れる。」
クロの声が響いた。
「な、なんじゃろうあのボールは?」
「だめよ、お父さん今は近づいちゃ危ないわ。」
近くまでやってきたお父さんはユキの作ったボールを見て近寄ろうとしたがお母さんに止められる。
「母さん、あれで何をするつもりなんじゃろう?」
「たぶんあれで魔獣を攻撃するつもりのようね。」
「無理じゃろう、いくら爆発したってあんな程度の物ではブレスとさして変わらんじゃろ。」
ユキのボールが爆発するところを見ていたお父さんである。
そもそもユキの身体ではそれ程多くの魔獣細胞を貯めきれない、爆発してもたかが知れる事になるのだ。
「もしかしたらあれはそんなものじゃなさそうに思えるのよ。」
「母さんなんか知っているのかい?」
その時ユキの手を離れたボールが魔獣の群れの中に落ちた途端に強烈な光を発した。
熱も爆風もなく光は大きく広がったときと同じように突然に消えた。
その後には空を飛んでいたキララとお兄ちゃん、そして地上の魔獣も消えていた。
「な、何があった?キララ!お兄ちゃん!どこに行ったんだ!」
お父さんはキララのいた場所に全力で飛行していく。
「キララ、キララ!どこだ~っ、キララ~~っ!」
必死になってキララが消えた周囲を飛び回り、空中にいないとわかると今度は地上に降りてキララの名前を呼び始める。
「キララ~っどこだ~っ、返事をしてくれ~っ。」
キララのいた場所の上空を何度も飛び回るお父さん、既に涙目である。
「お父さん、落ち着いてくださいな。」
「これが落ち着いていられるか~っ、キララがいなくなってしまったんじゃぞ~っ!」
最愛の娘が目の前で消滅してしまったのである、その動揺は計り知れないものが有るのだろう。
「だからお父さんてば~、ああらどこにいくの?」
「ゲルドの奴だ、あいつならこの事を知っているに違いない!」
ゲルドはまともに動けないまま隊員に引きずられて避難を始めている最中であった、そこに怒りで口から炎を漏らしながらお父さんが降りてきた。
憤怒の表情を浮かべたお父さんの目からは文字通り滝のような涙が流れ出している。
「キララを、キララをどうした~っ、ゲルド~!」
「わ、解りません竜神殿。此度の現象は私の全く知らぬ現象でありまして……。」
「あなた、落ち着いて、ゲルドさんが困っているじゃない。」
「キララをキララを返せ~っ。」
大きく開けたお父さんの口の中で炎が渦巻いている。
それを見た周囲の人は逃げ始める、ゲルドを抱いた人達も恐怖に満ちた目を見開きそれでも引きずりながら後退をする。
「お、お待ちください竜神様、この現象は私も知らなかった事とはいえ責めは私ひとりに、ここにいる者たちを巻き添えにするのだけは何卒ご容赦を!」
「問答無用!キララの仇その身を持って償う……。」
ゴツンッ
「……………。」
何かすごい音がすると白目を向いたお父さんがゲルドに向かって倒れかかってきた。
両側にいた人は慌ててゲルドを引きずって逃げたのでかろうじてお父さんの下敷きにならずにすんだ。
「ああ~ら、うちの主人が皆さんを脅かしちゃったみたいで……おほほほほ、ごめんなさいね~。」
愛想笑いを浮かべて丁寧に頭を下げるお母さん。
「さ、あなた行くわよ。」
お母さんはお父さんの首根っこを捕まえるとズルズルと引きずっていく。
最強の竜神より強いお母さんがいた……。
(((竜神のお母さんマジ怖え~~~っ。)))
周囲にいた人達は全員竜のお母さんに向かって平伏していた。
「き、君いま本気で殴ったよね……。」
「お父さんが皆さんに向かってブレスなんか打とうとするからよ。」
「お母さん思いっきり殴ったよね……思いっきり……。」
「ああでもしないとお父さん止まらなかったでしょ。」
「痛かったんだよ、ものすごく痛かったんだから~。」
お父さんの頭の上にぷくっとコブが膨らんできている。
「竜神なんだから簡単に泣き言を言わないの。」
「い、いや、だけどキララが……。」
「最強の竜神がそう簡単に死ぬわけ無いでしょう。」
いや、今一瞬死ぬかと思ったんですけど。
「キララ達だけじゃ帰り方がわからないでしょうから迎えに行くわよ。」
「なに?キララ達がどうなったのか知っているの?」
「当たり前よこれでも4500年も生きているんですからね。」
いや……ワシの方が長いと思うけど、なんも知らないよ。
「それじゃお父さんついてきて。」
そう言うとお母さんは飛び上がる。
「お母さん、いったいどこに行くの?」
一緒に飛び上がったお父さんはお母さんの後について飛行を始める。
「上よ。」
お母さんはその爪を上に向けて指さした。
「上?上に行くとなにかあるのかい?」
上空には何もない、たまにアンニョイな気分になったとき空高くまで飛んで上がった事は有るがそれも若い頃の話だ。
雲を抜けた上空には太陽と星が有るだけで後は何もない場所だと言うことはお父さんも知っていた。
「何も無いからそこを通り抜けられるのよ。」
お母さんはニコニコ笑いながら答えた。
◆
「わわわ、何が起きた?」ゼルガイアが叫んだ。
「暴れないでよ、暴れると落っこちちゃうよ。」背中からお兄さんが叫ぶ。
そのすぐ側にはキララ達も浮いていた。眩しかったのかキララは目をこすっている。
周囲の様子を見るとさっきとは風景が全く違っていた。
展開していたはずの警備部隊の姿はなくゲルドの立っていた岩山も姿を消していた。
周りは所々に林の様な木が生えている他は一面の草原であった。
しかし魔獣だけは変わらずゼルガイアの足の下で暴走を続けていた。
キララの背中に乗っていたユキの力が抜けたように倒れていく。
「うわわわっ、ユキちゃん危ない落ちちゃうよーっ!」
慌ててペンギンがユキの手を掴んでユキを支える。キララも落ちかけたユキの体の下に手を入れる。
「サキュアちゃんお願い。」
キララはユキの体を支えるとサキュアの方に引っ張ってくる、サキュアはユキの体をキララのドレスの中に引きずり込んだ。
「フウッ、危なかった。」
クロちゃんが額の汗を拭う。
いきなりそのクロを鷲掴みにするキララ。
ものすごい目つきでクロを睨むと口を開けて牙を剥き出した。
「あんた一体何をしたの、ちゃんと答えないと噛み殺しちゃうわよ。」
クロの体がすっぽり入りそうな口を開けてそこにクロの頭を突っ込む。
「びぎぇぇぇぇ~~~っ!」
クロが涙目になって必死で首を振る。
「おお~い、一体何が有ったんじゃ~?」
「あ、ゼルガイアさんとお兄ちゃん。」
「光ったと思ったら変な所に連れて来られたような気がするんだよね。」
「今コイツに説明させますから。」
キララは牙をクロの頭に当てたまま答えた。
「いや…少し牙が食い込んでいますが…。」
その時お兄ちゃんがこちらに向かってくる地上の乗り物を発見した。
「あれ、馬車かな?馬に逃げられたのかな、暴走に巻き込まれそうだよ。」
「なんじゃと~っ?」
馬車が暴走に気がついたのか急に方向を変えたのでひっくり返るのが見える。
「いかん!このままではあの馬車が巻き込まれてしまう。」
なぜいきなり周囲の景色が変わったのかはわからないが少なくとも暴走が続いていることだけは確かであった。
住人を守るのが警備軍の仕事であるなら助けない訳にはいかない。
「お兄さんあの馬車の前に降ろして下され。ワシがなんとかしますから。」
「ゼルガイアさん、もしかして喜んでない?」
ゼルガイアの表情を見てふとお兄ちゃんはそんな事を考えた。
馬車の前に降り立つとお兄ちゃんはゼルガイアの後ろから支えるように頼まれる。
「あ~っ、やっぱりこうなるのね。」
ドドドドッという魔獣の地響きが伝わってくる。
その時馬車の扉が開いて兎耳族の女性が顔が見えた。
「ゼ、ゼルガイア隊長!」
「なに?」
振り向くとそこにいたのはゼルガイアの目の前で消えた兎耳族のミゲルであった。
「お前はミゲル?無事だったのかーっ?」
「ゼルガイアさん、それより魔獣は目の前だよー。」
よそ見をしている暇はない、馬車は暴走の右翼に巻き込まれる寸前であった。
「そ、そうであった。ミゲル、頭を引っ込めておれ!」
「はいっ!」
慌てて馬車の中に頭を引っ込めるミゲル。
「いくぞ!魔獣共!往生せいやーっ!」
ゼルガイアが大きな口を開けると口の中に光の粒が集まっていく。
グオオオオーーーーッと白い光の奔流が魔獣の群れに向かって走る。
ぐぐぐっという反動がゼルガイアを通してお兄ちゃんに伝わってくる。
光に跳ね飛ばされた魔獣達が空中をくるくる回り後から来た魔獣たちに踏み潰された。
真っ白な光に包まれた魔獣が次々と火を吹いて燃え上がる。
魔獣の群れの馬車に向かって走ってきた部分がきれいに消滅して行った。
シュウウゥゥ~~ッと音を立て光が消えていくとゼルガイアがズルズルと崩れ落ちる。
残った魔獣が馬車の横を通り過ぎていく。
「もう大丈夫だよゼルガイアさん馬車は無事だよ。」
「そ、そうかそれは良かった。」
「あの~、お話しますからそろそろ頭を口から離していただけないでしょうか?」
キララの口の中で頭から血を流しながらクロが涙目になっていた。




