表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/53

新たなる祭り

1-041


――新たなる祭り――


 小型の魔獣の移動に釣られて出てきたのであろう大型の魔獣は犬のような形をして炎の塊を吐き出すファイア・フェルと呼ばれる魔獣であった。

 体重はゆうに1トンを超え、攻撃してくる討伐隊員に炎の塊をぶつけてくる。

 隊員達は馬を降り片手に盾を持って魔獣に対抗する。

 人の頭ほどの炎の塊は盾に当たると燃え広がるがすぐに消える。

 器用に盾で炎の塊をブロックしながら魔獣に近づいていくが、遠くから獅子の咆哮と地響きを上げる足音が聞こえる。


「おい、来ちゃったよ。ゼルガイア隊長だ。」

「どうする?先にやっちゃうと後がうるさいし、このままだと周囲の魔獣が暴走を始めるぞ。」

 ファイア・フェルとゼルガイアの挟み撃ちである、隊員たちでも逃げ出したくなる。

「さっさとやっちゃおぜ?」

「これ以上の揉め事は御免だ、あとの始末はミレイネさんに任そう。」

 7,8人の討伐隊は魔獣を包囲すると一斉に槍を突き出す。


「グアアア~~~ッ。」

 咆哮を上げると大型の魔獣は地面に倒れ伏す、その上から更に止めの槍が突っ込まれた。

 ドドドドッと大きな足音と共にゼルガイアが魔獣の所に到着する、その後ろには累々と魔獣の死体が転がっていた。

「やっちゃったの?」

 ゼルガイアが情けなさそうな顔をする。


「隊長は村人達の警護をお願いします。」

「ここは我々だけで対処出来てますから。」

 口々に隊員たちに言われて立つ瀬の無いゼルガイアである。

「グオオオオォォ~~~ッ、この思いどこにぶつければ良いのだああ~~~っ。」

 大声を上げると魔獣の中に突っ込んでいくゼルガイアである。


 ゼルガイアに追われて逃げ惑う魔獣達の前にあわてて討伐隊が回り込み魔獣を倒していく。

 それを見て後ろから追いかけてきたナンナがゼルガイアの頭を槍の柄で思いっきりひっぱたいた。

「群れている魔獣をバラしてどうするんですか?」

「あたたたた。」

 女房に怒鳴られてうずくまるゼルガイアである。

「さ、あなた。子供たちが待っていますよ。」

 そう言ってゼルガイアを引きずっていくナンナである。


「いたたた、耳を引っ張るのはやめて。」

 流石は獅子族の女傑、見事な恐妻ぶりである。


 残った魔獣は四散して森に引き返していく、討伐隊も追うことはしない。懐嘯かいしょうは終わったのである。

 隊員達は近くの小川に行き魔獣の返り血を洗い流し槍に付いた油を拭う。


「少し歯をこぼしてしまったな。」

「クソッ爪で革の胸当てを削られてる。」

 自分たちの装備の点検も忘れない。


「おかえり、お父さん。」

 獅子族の子供がゼルガイアを迎える。

 体は大きいがまだ12歳と10歳の息子たちである。

「おお、ずいぶん解体したようだな。」

 やぐらから吊るされた魔獣達を数える。

 大物から小物まで革を剥がれ内蔵を抜かれてぶら下がっている。


 小物はこのまま塩水につける。

 大物は更にこれを半身に切り分けて塩を刷り込む。

 解体場のあちこちで簡易のテントが設けられ中で肉が燻されている。燻製を作るのである。

 内蔵も糞が詰まっている消化器を切り取って残りは洗って塩漬けにされる。


「さあさあみなさん汁をどうぞ。」

 あちこちでモツ汁が振る舞われている。

 モツは獣人族に取っては力の源である。大釜で煮られたモツはすごい匂いを出しているが獣人に取っては食欲をそそる匂いに感じられるのだ。

 もっともベジタリアンの兎耳族は早々に退散しているのだが。


 サキュアもこの匂いは嫌いなようで口に布を巻いている。

「終わったみたいね。」

「おお、キララ様今回は何事もなく無事終了したようでございます。」

「なんがすごい匂いが漂ってくるわ。」

「モツを煮込んでいる匂いですよユキさん。生の内臓は日持ちしませんので早々に食べてしまうのです。」


 ミレイネはガルドの横に控えていたが同じように口に布を巻き付けている。

「残りはどうするのかしら?」

「塩で揉んで保存食にします、薬になる部位も有りますし。消化器は中を洗っている時間が無いので穴を掘って埋めてしまいます。夜になると獣が来て掘り返して行きますがね。」

「作業が一段落したら焼き肉パーティですよ。ユキさんも食べていかれると良いでしょう。」

 狩りを行っていた人たちは道具の手入れをしたりモツを食べていたり馬の手入れをしてくつろいでいた。

 ゼルガイアも子供を達と一緒に解体を手伝っている。ナンナさんは慣れているのかやたらと手付きが良い。


 あちこちに剥がれた革が干されむせ返る様な血の匂いが漂っている。

 有る意味地獄絵図と言えなくも無いが、これがここの日常である。

 魔獣を狩りその肉を食べる。ここは魔獣と人間が共生をしている世界である。


 たまにそのバランスが崩れるのが懐嘯かいしょうである。

 小規模な物であれば人間に恵みがもたらされる、過ぎてしまえば暴走スタンビートを起こしで大きな被害が出る。

 それ故に暴走スタンビートを起こさないように狩猟隊が定期的に街の周辺における魔獣の狩猟と生息数の調査を行っているのである。

 明日は焼き肉パーティが行われるそうである。


 キララ達はガルドと共にゼルガイアの所に行く。

 ゼルガイアは楽しそうに子供たちと一緒に魔獣の解体を行っていた。

 キララ達が行くと子供たちが嬉しそうに寄ってくる。

「竜神様この子達に祝福を。」

 子供を抱いたお母さんがやってくる。

 キララとお兄ちゃんは子供たち一人ひとりを頭に手を置いて抱き上げると皆喜んでくれた。


「君は何になりたいの?」

「ボクは討伐隊に入って魔獣をやっつけるんだ。」

 猫耳族の子供が目を輝かせて答える。

「頑張ればきっといい狩人になれるよ。」

 お兄ちゃんは子供たちの未来の夢に祝福を上げる。


「キララ様すごくかわいい服を着てる。」

 兎耳族の子供がキララの前に来る。

「ありがとう、あなたは何になりたいの?」

「私は……いいお母さんになりたい。」

 少し口ごもって少女は言った。

「かわいい子供をたくさん産んでね。」


 キララは達の祝福は子供たちの未来への希望である。




「ゼルガイア殿~~っ、ゼルガイア殿はどこだ~~っ。」

 遠くの方から一人の兵士が馬に乗って走ってくる。

「何かしら何か急な要件でも有ったのかしら?」

 ミレイネがマスクの下からつぶやく、嫌な予感がするのだ。

「グオオオオォォ~~~ッ、ここである~~~っ!」

 耳をつんざく程の大声で吠えるゼルガイア、サキュアとミレイネは慌てて耳を押さえる。


 若い猫耳族の男は向きを変えるとドドドドッとゼルガイアの所に駆け寄ってきた。

「ダリル第13駐屯地狩猟部隊のヨルンドであります。ゼルガイア殿でありますな?」

 馬から飛び降りると挨拶もそこそこに用件を伝える。

「ダリルから?何があった?」

「シルアナ方面で推定2万の魔獣による暴走スタンビートが発生しております。」

「なんじゃと~!?」

 グオオオオォォ~ッという吠え声と共に声を上げる。


 周りは驚いて身をすくませるが伝令の男はびくともしない、流石警備軍は肝が座っている。

 こちらに気を取られているうちに反対側でもっと大きな事態の進行を見逃していたのだ。

「それで住民の避難はどうなっている?」

「各地に向けて伝令を走らせております。私も伝令からの伝聞でこちらに報告に参りました。」


 遠距離の通信方法の無いこの世界で最速の通信方法は早馬である。

 しかし何十キロも全力で走ることは出来ないので緊急時の伝令はリレーで行う事になる。

 各地の街や駐屯地では緊急時に馬を変えて長距離を全力で疾走するシステムを組んでいるのである。

「既に暴走スタンビートは街の外延部に到着しているのか?」

「遺跡調査団が発見しこちらに早馬をかけました、街の外縁部に到着するのにあと3時間くらいかと見積もられております。」

 ゼルガイアはすばやく馬の速度と距離の計算をする。


 今までの魔獣討伐で馬はかなり疲れている、他の隊員達の馬では現場までは走らせるのは無理だろう。

 しかし幸いな事にゼルガイアとナンナの馬だけは今日は仕事をしていない、二人だけならば早掛けが効く。

「全員騎乗!暴走スタンビートである。我々は住人の保護に向かう。子細は伝令に確認の事とする。」

 2万の魔獣の暴走スタンビートを止める手立てが有るわけではない、方向を変えられれば良いが相当な被害は免れない。

 人命を優先しての避難誘導が先決である、それは地元の狩猟隊が行うだろう。討伐隊が出来るのは暴走スタンビートについて来る大型魔獣の掃討である。

 遺跡調査団の事が頭をかすめるが今はもっと大事が迫っている。


「直ちに竜神様に伝令を出せ、大型魔獣の掃討を依頼するのだ。」

 規模の大きな暴走スタンビートには必ず大型魔獣も付いて来る、そんな物が同時に何頭も来られては狩猟隊だけでは対処の仕様が無い。

 討伐隊と違って狩猟隊には大型魔獣との戦闘を行える人間はいないのだ。

 幸い街と竜神との約定で大型魔獣だけは竜神が狩ってくれる事になっている。

 とはいえ殺到する魔獣の中に紛れる大型魔獣全てを狩れる訳もない。


「伝令を出せ!各駐屯地にワシとナンナのための早馬を用意させろ、ワシらは先行する、各部隊長は指揮を引き継げ!」

「お前はあれを使うつもりか?」

 ゼルガイアがゲルドの方に向き直る。

「『地獄の業火』《ヘル・ファイア》ならば向きを変えられるかも知れません。」

「お前では無理じゃ。」

 ゲルドが顔をしかめる、2万の魔獣の向きなどそう簡単に変わる物では無い。

「では師匠が早馬に乗られますか?」

 ゼルガイアの言葉にゲルドはぐっと言葉をつまらせる。


 この話を聞いていたゼルガイアの息子たちは父親を見上げる。

 ゼルガイアは子供たちの所に行くと二人を抱きしめた。

「ご武運を。」

 子供がゼルガイアを見上げる、暴走スタンビートから街を守るのは命がけの仕事になる事を皆知っているのだ。

「うむ、行ってくる。」

 ゼルガイアは力強く語りかける。

「母上も父上をお願いします。」

「大丈夫よ、お父さんは私が守るから。」

 気丈な女房である。


 体重の軽い猫耳族を乗せた早馬が先行して出発した。次の砦まで先に行き替えの馬の用意をさせて待つのである。

 ゼルガイアとナンナは自分の馬に乗りで次の砦を目指す。そこで馬を替えての全力疾走で現地を目指すのだ。

 街の本部では今頃は各地に伝令を走らせ住民の避難を進めているだろう。

 ここでも人々は魔獣の肉を置き去りにして早々に荷物を片付けると避難を始めた。


「お姉ちゃん何が起きているの?」

「街の反対側で暴走スタンビートが起きているの、他の討伐隊が間に合わないからゼルガイアさんが一人で向かったのよ。」

「私達はどうするの?」

「なにも……私達はこの事に関しては何も出来ないのお父さんたちは一緒に来る大型魔獣を狩るわ、でも小型魔獣は狩り切れないの。」

「なんで?すごく大変なことじゃないの?」

「ユキさん、竜神様は大型の魔獣を狩ることによって街の住人の安全を守っています。竜神様の行うことはそこまでです、それ以外のことは全て街の住人が行わなくてはなりません。」

 サキュアがキララに変わってユキに説明する、キララでは話しにくい事だと思ったのだ。


「なんでー?街の人が困っていても助けてあげないのー?」

「街の人を助ければ次も街の人は助けを期待するでしょう、そしてその次は助けてくれない竜神様を恨むようになるでしょう。」

 ひどく悲しい事を言うサキュアである。

「そんな人がいるのー?ケーキ屋のおばさんも洋服屋のおじさんもそうなの?」

「ユキちゃん、己のために竜神様の力を利用しようとする輩から竜神様を守るのがやしろの役目なのですよ。」

 ミレイネの耳が下に折れ下がっていた。


「さよう、竜神様の力は強大です、しかし我々の生活は我々自身が守らなくてはならないのです。それが竜神様と我々が関わる為の約定なのです。」

 悔しそうに答えるゲルドである。

 竜の助力を得られない事ではなくこの様な事態を予見し得なかった自分達の至らなさを悔いているのである。

 しかしゲルドは竜に向かって膝を付いた。

「控えなさいゲルド!」

 事態を察したサキュアがゲルドに向かって鋭い言葉を吐く。


「約定に反するは承知の上、そこを伏してお願いいたします。」

 サキュア向かって大きく頭を下げるゲルドである。

「だめです、竜神様のお力を貸すことは出来ません。」

 サキュアの後ろでキララ達が悲しそうな顔をしている、心の中では人間たちを助けてあげたいと思っているのだ。


「いえ、竜神様に魔獣を倒して欲しいとは申しません、私めを現場に運んでいただけるだけで結構でございます。」

 ゲルドは必死の形相でサキュア訴えかける。

「あなたが現場に行ってどうするつもりなのですか?」

懐嘯かいしょうが起きる都度私が立ち会っているのはそれなりの理由が有るからでございます。」

 ゲルドは頭を上げるとサキュアを見る。


「サキュアちゃん連れて行く位なら……。」

 キララがそう言うとサキュアが振り返る。

「私は母から受け継いだ巫女の使命を片時も忘れてはおりません、竜神様が必要以上に人々に尽くしては人間の為にならないのです。」

 そのサキュア耳も折れて下がっていた。


「いいよ、運ぶ位ならボクがやってあげるよ。」

 お兄ちゃんが声を上げる。

「背中に乗せて飛んでいけば良いんだろう、なあにボクとゲルドさんは友達だからユキちゃんを運ぶのと同じじゃないか。」

「おお、お兄さん感謝いたします。」

 ゲルドがお兄さんに向かって深々と頭を下げる。


「さっき何か有ったら力を貸すっていったでしょう。」

「む、それでは私も確認の為に同行いたします。」

「え?サキュアちゃんも一緒に乗るの~?」


 一瞬かぼちゃにしがみつく兎を連想するお兄ちゃんであった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ