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シャンプーとお肉

1ー032

 

――シャンプーとお肉――

 

 ロボット犬に舐められて落ち込んでいたミゲルもしばらく経つと元気を取り戻してきた。

 

 ザンザルドは毎日定期的に通信を行って来ると二人に様々な質問を行った。

 大抵の事は取るに足らないことであり、特に獣人達の生活の様子には非常に興味を持ったらしく子細に話を聞いてきた。

 竜神の庇護下にある獣人の世界には戦争という概念が乏しく何を話して何を話してはいけないかの判断があまり良くわからなかった。

 

 その点生活情報、例えば料理の仕方やスパイスの好み等どうでも良いと思える事の方にザンザルドはよく食いついてきた。

 一方で単細胞なケアルと違ってミゲルはザンザルドの話の中から的確に情報を拾っていった。

 その過程でわかった事は彼らは自らを人間と称し、ケアル達外部に住む人間を獣人と呼んでいると言う事である。

 それ以外にも多くの情報を手に入れる事が出来た。

 

 いまふたりがいる場所は彼らの住んでいた地域からは大きく隔絶されていると言う事。

 かなり長い間人族はこの場所から出ていないこと。

 ここには魔獣がおらず、たまに迷い込んできた魔獣はあの作り物の犬が殺していること。

 そして推測の域を出ないがこの人族こそ獣人達のルーツではないかという疑問であった。

 

 既に伝説と化しているが現在の5種類の人間と竜族そして魔獣を作り出したのが人族だと言われている、しかしそんな事を学校で教える訳でもなく物語の一説として残っているだけである。

 無論この二人が人族の事など知るわけも無かった。

 ザンザルドはかなりケアル達の仕事について詳しく尋ねた、魔獣の追い方、仕留め方、訓練方法等を何度も尋ねる。

 ケアルも調子に乗って自慢話を聞かせていた。

 

 それでも討伐隊の本当の実力に関わる部分を話しそうになると後ろからミゲルがケアルの尻尾を踏んづけた。

 話が竜の事に及んだ所では特に強く尻尾を踏んだ。

 竜は現在の街の成り立ちに関わっておりもっとも注意を要する話になるからだ。

 彼らの目的がどこに有るのかわからないうちに街の成り立ちとその中心に位置する竜の事について話す訳にもいかなかった。

 

 その点単細胞なケアルに比べてミゲルは用心深く思慮的であった。

 

 状況が判らない中でその辺は話さない方が良いと判断したミゲルは夜な夜なケアルと口裏を合わせていた。

 二人は内密な話をするときは周囲から手元を隠して狩人手話を行った。

 見られている可能性は有るがすぐに解析は出来ないだろう。

 

「そういや俺は寝ていたからわからないがここに来た時おまえは身体検査をされなかったのか?」

 ある日ケアルが気がついたようにミゲルに聞いた事があった。

「されたよ、体の寸法とか体重とか、針を刺されて血を抜かれたり、よくわからないことをたくさんされたよ。」

 ケアルの場合起きていれば暴れまわってそれどころでは無かったと思われる。

 確かに5人や10人ではケアルを抑えきれなかったかも知れない。

 

「何だってあんな弱っちい奴らが生き延びていられたんだろう?」

「魔獣がいないからじゃない?ここには竜神様もいないみたいだし。」

 神話によれば先祖の人間が魔獣の怒りを買った時、人類は自らの種族を7つに分けそのうちの一つの種族を魔獣に

差し出したと言われている。

 その結果残りの6種族は魔獣に襲われなくなったと言う物だった。

 

「差し出したんじゃなくって自分で引きこもっちゃったのね。暴走スタンビートが起きたら大変でしょうね。」

 あの犬たちが魔獣を狩っていると言っていたから魔獣が増える前に全部狩ってしまうのであろう。

「そういや俺達が捕まった場所は開けたところだったよな。此処に来る間はどんな感じだったんだ?」

 残念ながらそれもミゲルにはわからない、空を飛ぶ機械に乗せられてそのままここに連れて来られたからだ。

 

「それにしても此処はいったいどんな所なんだろうな?外に出ていないから周りがどんな状況か全然わからん。」

「あたし達が知っている様な普通の家の集落が有ったけど、山のように大きく高い建物のような物が集まった場所もあったわ。」

「山のように?北の岩山みたいに大きな建物か?」

「ううん、ロウソクの様に細長い建物がたくさん集まった様な場所よ。」

「アリ塚みたいにか?」

「そうそう、そんな感じの建物がたくさん並び立っていた。」

「まさかな、そんな所に住んでたら息が詰まるだろうに。」

 ミゲル達が下ろされたのは周りに何もない場所だった事だけは窓から見て取れた。

 

「この世界に来たときはおめえはどんな感じだった?」

「訳もわからずに一瞬で連れて来られたみたい。」

「そんな事あり得るのかよ?魔法でもそんな魔法聞いた事ねえぞ。」

「それより一瞬でここに来た割には乗り物でここまで連れて来られたのよね。」

 

 そんな話をしている最中に蝶のマスクをした女性がスクリーンに現れた、どうやら私達に顔を見られるのが怖いみたいだ。

 確かに素手で人族の男を十人近く叩きのめしたとなれば怖がるのも当たり前かもしれない。

 女は二人によく判らない話をしていて、かなり変わった人間の様な印象を受けた。

 ただ、ザンザルドのように単に仕事上の発言と言う感じではなくいささかズレている様な感じも有った。

 いくつかのやり取りが終わった後もミゲルはいささか女の発言が気になっていた。

 ケアルのお陰て中断されてしまっていたが、しゃんぷーとはいったい何だろう?

 

 通信が終わってからもしばらくは悶々として過ごした。

 気が付くと画面の片隅に赤と青の蝶々のマークがついているのが見える。

 あの話しぶりからするとどうやらしゃんぷーと言うのは何か耳の状態を良くする物のように思える。

 どうしようか?何かの罠かもしれない。

 

「なんだ、おめえなにか気になる事でも有るのか?」

 そんな事を考えていると気が付いたのかケアルが聞いてくる。

「い、いやなんでも無いわよ。」

「そうかおめえ結構あのスクリーンの事チラチラと何度もみてるからよ、何か気になっているのかと思ってよ。」

 

 コイツ脳筋のくせに結構見てやがる。

 

「い、いや。あの人たち何か困ったらあの印を押せって言ってたから……。」

「やっぱその事が?体の具合でも悪いのか?メシがまずいとか。」

「いえ、食事は大丈夫よ、いいからほっといてよ。」

「じゃあこっちか。遠慮なんかすんなよ俺達の面倒を見るのがあいつの仕事な何だろう。」

 ケアルはためらいも無く赤い蝶の印を押す。

 

「あ、ちょ、ちょっとケアルったら。」

 しばらくするとスクリーンにガルディの姿が映し出される。

「ああ~らミゲルさん!やっぱりしゃんぷーが欲しいのかしら?」

 

 なんでいきなりその話になるのよ。

 

「何でいきなりアタシの方に話を振るのよ、印を押したのはコイツの方なんだから。

「ケアルさんもシャンプーで頭を洗いたいの?いいわよ~っ、山ほど用意して上げるから。」

 やたら嬉しそうに話を続けるガルディ。

 

「ちょっと待て!いきなり話をまとめるな。」

「今度のお食事と一緒に差し入れますからね~っ、ああそうそう一度蓋を外して中の紙を剥がさないと中身が出ませんからね~、使ったら感想を教えてくださいね~っ。」

「おい、勝手に盛り上がってるんじゃねえよ。」

 そのまま通信が切れる。

 

「おいミゲル、お前の要件は言わなくて良かったのか?」

「あ……ああ、そうねもういいわ……。」

「あいつ一体何をやりたかったんだろう?」

 

 ケアルの頭からクエスチョン・マークがいくつも浮かんでいた。

 

「ふううう~~~っ。」

 スクリーンの前でガルディは蝶のマスクを外して緊張の糸が切れたようにがっくりなっていた。

「どうだったうまくいった?」

「大丈夫、ばっちりよ、ちゃんとシャンプーを送る様に交渉をしておいたから。」

 

 いや、かなり強引に押し付けているように見えたのだが。

 

「それじゃ私は食事の方にも仕込んでおくわね。」

「あいつ、食べちゃわないかな?」

 言われて初めて気が付いたような顔をするリフリ。

 

「あの狼男だとちょっと危ないわね。」

「まあいいんじゃない?食事なら何度でもチャンスがあるし。」

「兎耳ちゃんはベジタリアンだからな~、気にせず食べちゃうだろうしな~っ。」

 ふたりだけの生活支援室の事務室のモニターの前で話す二人。

 

 ケアル達の部屋のモニターに蝶の印のショートカットを張り付けたのはこの部屋からの通信をする為である。

 いくら何でも集中管制室からの通信は出来ない、周りに人が多すぎる。

 

「いや~っ、この間は驚いちゃったわね~っ。まさか全部エルギオス先生にばれていたとは思わなかったわ。」

「あの先生も伊達に5000年も生きて来ていないわね、あたし達の歴史全体を見て来たんだものね。」

「竜の子供を作らされた時から明るくて人気者だった先生がずっと暗い顔をしていたんだもの。」

 

 あの日彼女たちの秘密の部屋を訪れたエルギオスは彼女たちに自分の計画を打ち明けたのだ。

 

 彼女たちはエルギオスの指示によりケアル達を逃がす為の段取りを始めたのである。

 エルギオス自身はあまりこの収容所に来ることは無く、通信によるコンタクトは情報漏洩の危険が有った。

 前回エルギオスが収容所を訪れた時に彼女たちの秘密の部屋を訪れていたのだ。

 

 そこで3人はエルギオスの計画を聞かされた。

 

 現在捕獲中の獣人達を利用して竜の子供達を外部に連れて逃げてもらうと言う物であった。

 3人にとっては信じられないような話であったが彼らの持つ超人的な能力を知るにつけそれが可能な事かもしれないと思うようになってきた。

 3人に取って可愛がってきた子供達と別れるのは断腸の思いであった。

 しかしこのまま看過すれば数年以内に子供達はいくつかの方法で処分される事は明らかであった。

 

 余り余裕があるとも思えない状況の中で監視されている獣人と連絡を取り計画を実行しなくてはならない。

 しかしここで一番確認しなくてはならないのは獣人達の意志である。

 彼らが果たして竜の子供を助けてくれるだろうか?

 

 此処から逃がす代償として子供を外で育ててくれるのだろうか?

 それに関してはエルギオスが彼らと直接会って話をしてみると言っていた。

 全体的な計画は竜の教師であるエルメラスが作る事になった。

 子供達のスケジュールを管理しているのが彼女だったからだ。

 

 ただ彼らもそう簡単にこちらの脱走計画を信用はしないだろう。

 次にここを訪れる時に彼らと直接話をすると言っていた。

 

 次の日食事と一緒にシャンプーのボトルが送られてきた。

「これがしゃんぷーとか言う物か、食えるのかな?」

「やめた方がいいと思うけど。」

 シャンプーのボトルには使用方法が書いてあったので使い方は判った。

 

「ふ~ん、これはこうやって使うんだ、するとこれとは別にコンディショナーと言う物も有るようね。」

 ミゲルは熱心に添付された説明書を見ていた

「それより先に飯を食っちまおうぜ。」

 ケアルは出て来た食事をテーブルに並べた。

 

 

 

「熱心にボトルに描いてある文字を読んでいるわね。」

 ガルディとリフリは事務室のモニターから彼らの室内の様子を見ていた。

 ミゲルの予想通り彼らは四六時中見張られていたのだ。

 

「あ、食事を始めたわ。」

「アンタどこにメモを隠したの?」

「狼男の食事時の肉の間。」

「気が付かないで食べちゃわないかしら?」

 

 モニターの中のケアルが肉を食べた後変な顔をした。

「あ、気が付いたみたい、吐き出したわ、メモと気が付くかしら?」

「なんか吐き出した後じっと見ているわよ。」

「あ、また口に入れて噛んでる、やっぱり肉のスジか何かと思ったのかな~?」

 しばらく食べていたが食事が終わると二人とも食器を戻してきた。

 

 

「食事の方は失敗ね、シャンプーの方はどうしたの?」

「一応蓋の裏にメモを入れておいたけど……。」

 

 

「トイレ行ってくらあ。」

「後でアタシもシャワー浴びるから。」

「しゃんぷーとやらを試してみるか?具合良かったら俺にも使わせてくれ。」

 

 ケアルがトイレに行くとミゲルは早速ボトルを取って蓋を開けてみる。

 中のシールをつんつんといじっていたがすぐにまた蓋を閉める。

 

 

「どう思う?見つけたかしら?」

「蓋の裏に入れておいたから開けただけじゃ落ちないけど、どうかしらねえ。」

 ケアルがトイレから出てくると入れ違いにミゲルがシャワーを浴びに行く。

 その間ケアルはベッドに寝そべっていた。

 やがてミゲルがシャワーから上がって来るとタオルで念入りに頭と耳の水分を落としている。

 

 

「しゃんぷーの具合はどうだった?」

 ケアルはそう言いながら何やら手をわしゃわしゃと動かしている。

「そうねえ、石鹸よりはましだけど此処で毎日頭を洗っているとどちらもあまり変わらないわね。」

 ミゲルも体の陰に隠して手を動かしている。

「確かにな、こんなにサービスのいい収容所じゃ隊に戻るよりよっぽど快適だからな。」

 ミゲルがケアルのベッドに座るとケアルはベッドの横にずれる。

 するとミゲルがカーテンを引いてベッドを隠す。

 

 

「あれって、もしかしてこれかしら?」

「当然アレでしょうね。」

 ベッドの有る部分に監視カメラは付いていない。

 しかし部屋の監視カメにラは赤外線感知が出来るので人物のシルエットは浮かび上がる。

 つまりナニをやっているのかは見ていれば判るのだ。

 二人はしばらく何もしないで一緒にベッドに横になっていた。

 

「ヤらないのかしら?」

「さあ?一応恋人同士という話だったけど?」

 突然ケアルがベッドから蹴り出されるとミゲルは自分のベッドに戻ってカーテンを閉めてしまった。。

「コウショウ決裂かしら?」

「狼男と兎ポンじゃ女の方が主導権有るのかしら?」

「兎ポンって何よ?」

 

 ケアルはゴソゴソと自分のベッドに戻ると一人寂しく寝てしまった。



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