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竜の始祖

1-033

 

――竜の始祖――

 

 実際の所ケアルとミゲルは二人とも送られてきたメモには気付いていた。

 

 食事の中に入っていたメモは素知らぬ顔で再び口の中に隠して食後にトイレに行き中で開いて見た。

『エルギオスに会え。』の一言で有った。

「なんじゃ、これは?」

 罠にしてももうちっとそれらしい文言を選べないのだろうか?

「一体何が言いたいのかさっぱりわからん。」

 

 こういった時はミゲルに相談するのが一番いい。

 荒事はケアルの仕事だが頭を使うのはミゲルの領分だ。うん、適材適所だ。

 そう思ったがトイレから出るとすぐにミゲルはシャワーに行ってしまった。

 シャワーから出て来たミゲルに手話で要件を伝える。

 ミゲルも何か見つけたようだ。

 

 そこで二人でベッドにもぐりこみ手話で情報を交換する。

 メモの中身はふたり共同じだった様だ。どうやらこのエルギオスと言う人物に会うように言っているのだろう。

『それにしてもこちらにわざわざあれだけ不自然なやり方で連絡を取って来た二人の本当の狙いは何だろうか?』

『さあ?いずれにせよ何かしらの打開策にはつながると思うけど?』 

『ホントはただオレとヤりたいだけなのかもしれないけどな。』

『アンタ本当にヤりたいの?』

『おいおい、冗談だよ、俺が犬耳族以外の女に興味を示す訳ネエだろう。』

 そこまで手話を続けた所でいきなりミゲルに蹴り出された。

 

 オレ何かまずい事言ったか?理不尽だ。

 

 

 あれ以来食事に異物は混入されておらず毎日何という事も無く過ぎて行った。

 ところが数日後思わぬ訪問者がふたりの元に訪れる。

 竜の頭をした身長2メートル位の人間であった。

 

「初めまして、私の名はエルギオス。君たちとは直接話をしたいと思っていたのですよ。」

 

「りゅ、竜神さまああ~~?」

 ミゲルが素っ頓狂な声を出す。しかしケアル達にとってはさほど異形と言う物では無い。

 獅子族の顔が竜に変わっただけと思えばそれだけの事に過ぎない。

 ただ顔が竜という所が問題であった、竜は彼らにとって文字通りの守護神であったからだ。

 ただこの男の姿が竜人族と異なり人間の体をしておりケアルの知っている竜神と同じ種族かどうかは判断がつかなかった。

 

「あんたは竜神族なのか?」

「君たちが考えている竜神族とは違うと思います。」

「待って、ケアル。」

 何か聞こうとしたケアルをミゲルが止める。多分これも見張られているだろうことは予想がついていたからだ。

 

「あなたはその大きさが成体なのですか?」

「そうです私はこの体で5000年以上生きて来ました。」

 ふたりは顔を見合わせる。竜神族であればさして驚く事では無い、むしろそれこそがケアル達にとって竜神族の常識であったからだ。

「ああ、大丈夫ですよ今この部屋は見られていませんその様な仕掛けをしておきましたから。」

「そんな事を信用すると思っているのか?」

「今まで皆さんに直接会った人間はいないと思います。あなた方の能力からすれば私を人質にして逃げる事も可能なのですよ。」

 二人は顔を見合わせる、そこまで言われては仕方がない、まずは要件を聞いてからの話であろうとミゲルは思った。

 

「それだけのリスクを冒して来た目的は何かしら?」

「あなた達を元の世界に返して差し上げたい。」

 この竜族はケアル達の味方でと言っている様だ、もっともおいそれと信用する訳にもいかないだが。

「それで?」

「立ち話もなんですから座りましょう。」

 3人は備え付けのソファーに座った。

 

「あなた方を帰す時に一緒に連れて行って欲しい者がいます。」

「そうすればあんたは俺達を此処から逃がしてくれるんだな?」

「あまり時間が有りません、私を信用してもらう為にこちらの情報をあなた方に提供いたしましょう。」

「するとあなたはもしかして?」

 ここまで聞いたミゲルにはピンと来るものが有った。

 

「そうです私は全ての竜族のプロトタイプとして作られた竜族の始祖なのです。」

 

「竜神族は人族によって作られた種族と言う訳か。」

「いえ、正確には人と動物の遺伝子を使って人工的に作られた種族が竜人を含む獣人族と言う訳です。」

「俺達は竜神を除く俺達全ての種族の事を人間と呼んでいる。」

 ケアルはいささかの不快さを込めて断言した。

 

「ああ、これは失礼しました。しかしこんな事はあなた方にとってはいささかショックかも知れませんね。」

「いや、別に。種族が誰に作られようと俺は俺だ、俺を生んだのは俺の両親で俺が今俺で有るのは俺の意志だ。」

 余りにも脳筋らしくないケアルの発言にミゲルは意味が判って言っているのだろうかと首をひねった。

 

「すばらしい、あなたは真の意味で人間なのですね。」

「おおよ、俺は討伐隊ナンバーワンを目指すミゲル様だぜ、俺の前に立つ奴は誰れあろうと蹴り倒す。」

 やっぱり意味が判って言っていないなと思ったミゲルである。

 

「あなた方が作られた訳は文字通り人族の盾となってもらう為でした、何しろ魔獣は人間を襲いますが獣は襲いません。そこで獣と人間の合成人間を作ったのです。」

 

 エルギオスによれば計画は成功し魔獣は獣人族を襲わなかったらしい。

 そこで人族の居住地域の外周に獣人族を住まわせ人族の盾とした。

 しかし魔獣には恐るべき性質が有って魔獣を食った魔獣は超魔獣へと変化したと言うのだ。

 すなわちケアル達の言う大型魔獣グリックの事である。

 そこで大型魔獣を駆逐するために竜族を作る事にしたのだがその時プロトタイプとして作られたのがこのエルギオスだったそうである。

 竜族はその強力すぎる力と不死性により種族の増加を抑えるためにオスだけを作って世界に放ったのだ。

 万一死なない竜族が子孫を残せば無制限に竜が増えて行き逆に人族を窮地に陥れる事になっただろう。

 

「だけど待って、竜族は雄しか作らなかったと言ったわねそれおかしいわよ。」

「はい、確かにそう言いましたがなにか?」

「今はメスだっているし子供だって出来ているのよ。」

「おお、そうでしたか、それは良かった。本当に良かった。」

 エルギオスは本当にうれしそうな顔をして言った。

 

「実は雄だけ放ったのは良いのですが不可侵と思っていた竜が次々と死んで行ったのです。」

「それはまたどうしてでしょうか?

「メスがおらず獣人の仲間にもなれなかったドラゴン達が孤独の中で自殺するようになってきたのですよ。」

「…………。」

 

「考えて見りゃあアンタらひでえ事やって来たんだな。」

 

「竜族もまた人類の一員だったと言う事ですよ。」

「それじゃその後……。」

「はい、500年後メスを作って送り出しました。しかし結局は魔獣の脅威は無くならず人類はこの世界と縁を切る決定をしました。人のいない場所で増えすぎた魔獣を完全に駆逐することは不可能と考えるようになった訳です。」

 

「それじゃここはいったいどこなんだ?」

「どこでも有りません、あなた方の隣に私達はいるのです。」

「当時真空エネルギーの実用化に成功してエネルギー問題は解決していましたのでね、その応用技術として空間転移技術を開発していました。」

 

「おい、小難しい事言うんじゃねえ。わかる様に話せ。」

 エルギオスはベッドの周りのカーテンの所に行くとカーテンを掴む。

「今カーテンは閉まっています、しかしこうやってカーテンを開ければ隣の部屋に行かれます。

 しかしもしこのカーテンが2枚有ってその間に隙間が有ったとします。

 2枚のカーテンを同時に開ければその間にある隙間は見えなくなります。

 私達は大きなカーテンの様な物を作りそこから離れた場所にあるカーテンが同時に開くようにしました。

 するとカーテンとカーテンの間に私達の世界が有る事に気付かずに通り過ぎてしまうのです。」

 

「それじゃあそこに有った遺跡と言うのはそのカーテンの関係の物なのね?」

「その為の装置だと思います。私達は対になった二つのカーテンで土地を囲みました。」

「どの位の大きさが有るの?」

 ミゲルは言っている事を理解いた様だ、しかしケアルは頭に?マークがたくさん出ている。

 

「直径約1000キロです。」

「1000キロ!?そんな大きな土地が消えているのですか?」

「ちょ、済まねえそっちの言っている事が良く判んねえ。」

「つまりこっちから入ったと思ったら真ん中の1000キロを飛ばして向こうに行ってるって事でしょう。」

「端的に言えばそうなります。」

 

「あたし達はそのカーテンを抜けて来たと言う訳ね。」

「よく判んねえけどすっげえ魔法だな、それで?いったいどうやったら俺達は帰れるんだ?」

「そこが問題でしてね、実はこの4000年間でその技術が失われちゃったんですよ。」

「「はあああ~~~~っ?」」

 あきれた事に隠した鍵の置き場所まで忘れたらしい。

 

「それって鍵かけて中に入ったら鍵を失くして出られないとか?」

「そう言う事です。ああ、無論我々も色々古い文献を調べましてね、その結果どうも制御装置の一つが外に出ていたらしいのですよ。」

「もしかしてそれがあの遺跡とか?」

「判りませんがその様な物が外に有ればその可能性は有りますね。」

 何とも言い難いような間抜けな話である。あのザンザルドも偉そうな物言いをしていたが要は間抜けの仲間という事だ。

 

 魔獣から隠れて住むことにした人族はそれでも魔獣の侵入に悩まされていた。それでも結界に囲まれた内部だけで有れば対処は簡単で有った。見つけた魔獣を全て殺せばいいのだ。

 しかし魔獣がその持つSQ細胞から作り出す空間歪曲能力で様々な魔法を使う事は判っていました、ある程度の大型になった魔獣はその力で結界を抜けて来たらしいのだ。

 それと相まって結界を張った後も何度か竜の目撃記録があり竜族は結界を超える能力が有ると考えられていた。

 その結果竜族の復活となったそうである。

 

「ちょっと待て、するってえとここには竜神様がいるって事なのか?」

「はい、5歳から12歳の竜の幼体が10人。」

「その子たちは結界を超えられるの?」

「いえ、実際にその様な能力は現れず他の動物とのキメラを試していきました。その中には無論人間も含まれていました。」

「そいつらはどうなった?」

「失敗作は全て処分されました、まあ人間型だけは孤児院に引き取られましたが。」

 

「竜族は?」

「私が全力で止めていました、しかしそれももう難しい時期に来ているのです。」

「このまま放って置いたら処分されるって事?」

 エルギオスは黙ってうなずいた。

「結局成功したのは人型の女の子、2名と鳥型の獣人一羽でした。」

「おめえら本当に禄でも無い奴らだな。」

 ケアルが吐き捨てるように言う、確かに禄でもない。

「如何とも申し上げようも有りません。すべては物事を先送りし続けて来た人類がその付けを他人の犠牲に押し付けている訳ですから。」

 

 大きなエルギオスがうなだれていた。

 

 どうやらこの竜にしても5000年間の記憶を持っている訳では無いらしい。

「やはり時間が経てば忘れるんですよ、さすがに5000年は長いですね。」

 結局文献などを調べて記憶を補強して来たらしいがやはり年月はどうしようもない。

「昔の記憶は殆どありませんし同僚も何代も代わっていますから。」

「それで安定した精神を保っているだけでスゲーと思うぜ。」

 

 先程の子供の一人が結解を通過できるほどの大きさの穴を作れることが判り護衛と共に外に出たらしい。

「まてよ、さっき魔獣は人間を襲うって言ってなかったか?」

「はい。」

「お前ら相当なバカなんじゃないのか?」

「はい、結果はあなた方が見て来たとおりです。」

 

 第一次探検隊が修理に出たところを魔獣に襲われて音信不通になったのでその妹に探査を行わせたらしい。

 何でもその子は結解の向こうの情報を探査できる能力が有ったと言う事だ。

 その結果ケアル達を見つけたようで、獣人達に捕まったと考えて獣人の転送者の一人をカプセルに入れて送り込んだそうだ。

「それじゃあの卵に人間が入っていた訳だ。」

 最初に接触した人間をこちらに送り込む手はずになっていたらしい。

 

「それに引っかかったのが俺達か。」

「待ってそれじゃ今結解を抜けられるのはその妹って言う子供一人だけじゃない。」

「その通りです。」

「その子を使って私達を結界の向こうに送り返してくれるのね。」

「はい、ただし条件が有ります。先程話した竜の子供達を一緒に連れて行って欲しいのです。」

 

「しかし俺達じゃ結界は超えられねえぜ。」

「人間はあなた達と竜の子供の本当の能力を知りません。あなた方が逃げ出してくれれば私が皆さんを外部に送り届ける様上層部を説得します。」

「出来なきゃ俺たち共々竜の子供達を殺される事になるな。」

「私はこの5000年間ここにいて人間達を助けて来ました、私が命を捨てる覚悟を見せれば説得は出来るでしょう。むしろ問題は子供達です。」

「なんだよ、何か問題が有るのか?」

 

「いや、あの子たちがあなた方獣人の間でうまく生きていかれるのか心配でしてね、何しろあの子たちはずっとここの施設で過ごしてきたものですから。」

「ああ、そうか狩りが出来るか心配してんだな。」

「はい、暖かい料理とフワフワのベッドしか知らない子供達でして。」

 ケアル自身もこの施設の居心地の良さに慣れすぎたら帰った時に苦労するかもしれないとは感じていた。

 

「それとあなた方の社会があの子達を受け入れてくれるかどうか?」

「ああ、そいつは心配ない。竜の子供達にはやしろと言う組織が有って必ず面倒を見てくれる。断言は出来ないが竜の夫婦も協力してくれるだろうし街も大事に保護してくれる。」

「おお、やしろがまだ存続しているのですか?ではあなた方は竜族とうまくやっているのですね。」

「竜族は竜神様と呼ばれて敬愛されております、私達は竜族との共生をうまく行っております。どうぞご心配なく。」

「そうですか。」

 

 エルギオスは安心した様に微笑んだ。

 

 

 それからしばらくの間シャンプーや食事を使っての情報のやり取りをした。

 ケアルの装具の場所や逃走時の乗り物の手配など地図と共に送られてきた。

 決行のタイミングは向こうで指示する事になっている、警備の薄く子供達が全員集まっている時を狙って決行することになっている。

 送られてきた構内の地図をケアル達は何度も見直して頭に叩き込んだ。

 

 そして遂にその時が来た。


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