表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/8

愛の地獄(ループ) 一の神 二の神 三の神

 ~ 一の神 ~



『彼女が真実の愛を見つけ生き延びた時ループは止まり新たな扉が開かれる』


 若い男の声だった。

 だが長い時を生き過ぎて膿んだ者の声でもあった。


『僕はねとても退屈しているんだよ』


 若くて年寄りの神は言う。


『長く長くそれこそ那由他の時を生きてきた。退屈なんだ。だからさ~君にチャンスをあげるよ。君の真実の愛を見せてくれないか? 時を戻してあげるよ。まあ、正確にはこの世界の時はメビウスの輪のように300年ごとにグルグル回っていてね。初めも終わりもないんだよ。ここは煉獄なんだよ。地獄に落ちるには罪が足りなくて。天国に行くには善が足りなくて。ここはそんな中途半端な者共の集まり。振るいにかけるためだけに作られた世界』


「私達は咎人なのですか?」


『そうだよ。中途半端な罪人』


「ツェレも罪人?」


『彼女前世恋人にすてられて自殺したんだ。自殺も罪だよ』


 意味ありげに嗤う。


『兎に角僕を楽しませてくれ』


「彼女が私を愛していると真実の愛に気付いた時、私達は解放されるんですね」


『君の真実の愛と彼女の真実の愛は違うかもしれないけどね』


 若く年寄りの神は嗤う。

 愚か者を嗤う。



 ~ 二の神 ~



『貴女にチャンスをあげる』


 女神はニッコリ微笑んだ。

 女神は目隠しをして手には天秤を持っている。

 片手には剣を持っている。

 大理石で作られた神殿は何処か、パルテノン神殿と神社を融合させた様な空間だった。

 玉座に女神は座り、少女は御白州に座る罪人のように正座をして座らされていた。


「チャンス?」


 目の前の女神を前にぼんやりとその女は答えた。


『そうよ~。貴女は地獄落ちなの』


「私は何もしていないわ‼」


『まあ。記憶を奪衣婆に取られたのね。思い出しなさい』


 女神が手を振る。


 その男の記憶が蘇る。

 結婚式のその日に彼(刑事)は乗り込んできた。

 刑事は彼女が死んだと告げる。

 夫となる人は青い顔で震えている。

 昔の彼女に未練があるの?

 捨てた罪悪感で顔色が悪いの?

 何て臆病な男だろう。

 たかが元カノが自殺したぐらいで狼狽えるなんて。

 まあ自殺に追い込んだのは私だけれど。

 金で雇った男達がやりすぎたのね。

 全く。役立たずだわ。

 しかも私に頼まれたとベラベラ喋ったのね。

 これだから素人は嫌なのよ。プロとしての自覚が足りない。

 あの刑事わざと結婚式に乗り込んできたわね。

 あの男もたいがい性格が悪い。

 みんなの前で手錠をかけるなんて。

 ウェディングドレスに手錠は似合わないわ。

 ウエディングドレスで取調べ室に入るの?

 何処の刑事ドラマにも無かったわよね。


「……? 私……死んだの?」


 刑事に逮捕されて私死んだの?

 いつ死んだんだろう?

 死んだときの記憶がない。


「気づくのが遅い」


 女神はけたけたと嗤う。


『貴女は警察に行く途中で交通事故に遭いあの刑事と一緒に死んだのよ』


「あの嫌な男も死んだの?」


 女神はにたりと笑う。


「罰が当たったのね」


 それに答えず、女神はその女に提案をする。


『だから私とゲームをしない?』


「ゲームですか?」


『そうゲーム。108回見事二人の【真実の愛】を邪魔出来たら、前に居た国で美人で頭もいい金持ちの令嬢に生まれ変わらせてあげる』


「本当ですか?」


『ええ。私退屈なのあの二人の【真実の愛】がどれほどの物か見て見たいわ』


「私は悪役令嬢として生まれ変わるんですか?」


『ん~~~。表向きはヒロインかしら。貴女の得意な婚約者のいる王太子を奪う役割よ』


 好きでしょう貴女。人の者を奪うのが。と女神はにこりと笑う。


「断ればそのまま地獄行きですか? それなら断るという選択は無いですね。分かりました。受けます」


『そう。頑張ってね』


 女神は剣を振るうと女は光に包まれてあの世界に転生した。

 さあこれでしばらくは退屈しないわ。

 と女神は嗤った。



 ~ 三の神 ~




 その刑事だった男が気が付くと囲炉裏の前に座っていた。

 パチパチと木がはぜる。

 目の前に一人の老人が座っていた。


「ここは何処だ?」


 男はキョロキヨロと辺りを見渡す。

 何処かの民家の様だ。

 老人は男に酒をすすめる。

 男は言われるままに酒を飲む。

 暖かい酒が五臓六腑に染み渡る。


『彼女を救いたいか?』


 彼女ってだれだ?

 そう尋ねようとしてふと自殺をした女性の顔が思い浮かんだ。

 刑事は彼女を知っていた。

 彼女は学園の隠れアイドルだった。

 派手な容姿では無いが優しく温かな彼女の周りはいつも人が集まっていた。

 大人びた彼女はいつも相談役だった。

 それがいけなかったのだろう。

 彼女が助けを求めていることを誰も気が付かなかった。

 気付いた時には手遅れで。

 廃病院の屋上から彼女が飛び降りた後だった。

 赤い赤い曼珠沙華のようにあたりに血が飛び散っていた。


 大学に合格したら彼女に告白しようと思っていた。

 大学のキャンパスで彼女を見つけた。

 そして……彼女と腕を組む男。


「あ~~先輩憧れていたのに~~先を越されたわ」


「また地味な子ね」


「私の方が先輩にふさわしいのに~」


「あの二人2年前から付き合っていたんだって」


「同棲もしてるって」


「いい男は直ぐ売れるわね」


「いい女もね」


 二人の大学生はクスクス笑い、ちらりと木の陰から鬼の形相で恋人たちを睨み付ける女を見て。

 おお~~怖い怖いと去っていった。

 その時の俺は木の陰に居る女に気付かず。

 ショックで立ちすくんでいた。

 俺の恋は告白する前に終わった。

 それでも彼女が幸せなら良かった。

 あんなことになるなら、彼から彼女を奪えばよかったんだ。

 そうすれば彼女は不幸にならなかったし、自殺することも無かった。

 所詮はたらればだ。

 いくら嘆いても何も変わらない。

 死んだ彼女は戻らない。


『彼女を救いたいか?』


 再び声が聞こえた。

 ハッとして彼は答える。


「救いたい。たとえ地獄に落ちても」


『良かろう。行くがいい』


 老人は手を上げた。

 刑事の体は光に包まれて解けるように消えた。

 老人はよっこらせと立ち上がると、家の外に出る。

 何もない空間が広がっていた。


『何で【乙女ゲーム】の世界なの? ゾンビが徘徊する世界じゃないの?』


 女神が文句を言う。

 某ゾンビゲームが大好きな女神様は不満げだ。


『いや~世紀末で自分勝手に動く人間なんて即地獄行きだろ。普通は協力して困難に立ち向かうだろ』


 それじゃあつまんないよ、と子供の姿の神が言う。


『それに【乙女ゲーム】の裏世界は魔王が支配した世界だし。そこで人間は家畜だよ。彼らの恐怖と痛みと涙でこの世界は創られている』


 この世界は【乙女ゲーム】に似た世界が100年続き衰退期の次に魔王が現れて魔王が支配する【地獄】が100年あり、やがて地獄は消えまた【乙女ゲーム】の世界が現れる。

 始まりも無く、終わりも無く、グルグルグルグル回る世界。

 大概の魂は色んな躰に入れられる。

 例えばパン屋の主人の躰に入れられたとしよう。

 その体で善行を積んだのなら、人間として生まれ変わる事を許されるのだが。

 それとは別に悪行を積んだとすると、彼は【地獄】で永遠に家畜として生まれ変わるのだ。

 家畜として生きたまま食い殺される。

 地獄の恐ろしさは死ねないってことだ。

 殺されても殺されても体は再生(転生)する。

 狂う事も許されない。


 3柱の神の足元に水鏡が現れて三人の姿を写す。

 一人は皇太子で。

 一人は美しい貴族令嬢だ。

 最後の一人は騎士。


さあ真実の愛をめぐる神々のゲームが始まった。








 *************************************

 2019/9/12 『小説家になろう』 どんC

 *************************************

感想・評価・ブックマークありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ