ひまつぶし その1
「ふふふ、来たわね。少年!」
「女神様の召喚に応じ、参上仕りました」
「私が何を望んでいるのか……分かっているわね?」
「申し訳ございません。たった今この場に着いたばかりで現状の把握が遅れておりますゆえ、神聖なお言葉を頂きたく存じます」
「そう、それじゃあまず最初のお願いだけれど」
「はい」
「えっと……その……」
「はい」
「あのぉ……その気持ち悪い敬語、止めていただけませんでしょうか……?」
「こちとら高校のテスト期間だってのにテメェがいきなり呼び出すからだろぉが! どうせくだんねえ用件なんだからとっとと言いやがれこのクソ女神がああッ!」
「うわあああんっ! いきなり口悪くなりすぎぃぃぃ!?」
「いいからさっさと用件言えっつってんだろがこの貧しい胸女神っ」
「わざと理解するのに一瞬時間が掛かる言い方すんなあああ! はっきり貧乳って言えええええ!」
「ロリ女神っ」
「ぶっとばーす!」
「ほおお、良いのかあ?」
「な、何よ……思わせぶりな事言ったって許さないんだからね。わたしをロリ枠に組み込んだ罪は重いわっ」
「手土産に、某バーガー店のフライドポテトを持ってきていると言ってもか?」
「!?」
「ほれ、某バーガー店の新作『ギガントポテトGX』だ。『脳みそを破壊する味』をコンセプトに開発され、『本製品を口にした事による体調的な不具合の責任は一切取りません』って注意書きがある、ご禁制の品だよ」
「ぬぐぐぐ……!」
「さぁぁてぇぇ……せっかく持ってきたというのにそんな態度じゃあ……うっかりこいつを握りつぶしちまうかもなー」
「うぐぐぐぐぐ……!」
「んんん? どうしたぁ? 何か言いたい事があるんじゃあないのかぁ?」
「……――そ――――わけ――――んでし――」
「んー? 聞こえんなー」
「忙しい時期にお呼び立てして、申し訳ありませんでしたあっ!!」
「ふ、まあそのくらいで許してやろう」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
「ほれ」
「ひゃああああっっっっっっほおおおおおおおおおぉぉぉぉっ!!! これであと三日は元気に過ごせるぅぅぅぅ!!」
「みじけぇよ、涎垂らしてはあはあ言うんじゃない。……てかそれ、ホントにただのポテトなんだよな? 白い粉的なヤツじゃなくて」
「もぐもぐもぐ……あによ、疑うならあんたも食べてみる? とめどなく溢れ出るわよ」
「ナニがだよ!?」
「神様を信じられるようになるわ」
「神様はお前だろが!」
「あー何か食ったら眠くなってきちゃったわねぇ」
「本当に何の用事もなく俺を喚んだってんなら張り倒すぞ」
「じょじょじょ、冗談だってば! やーだもう、そんな怖い顔しちゃ……めっだぞ♪」
「ハン、歳考えろやババア」
「ブッコロス!」
「最新のゲームソフトガード」
「あああああずるい! それずっとプレイしたかったヤツ!」
「どうせ呼び付けた理由なんざ、前に貸してたゲームをやり切って暇つぶしがなくなったーとかそんなんだろが。俺はもうやり尽くしたから貸してやんよ、その代わりテスト終わるまで呼び出すなよ。もし呼び出したらオープニングからエンディングまで事細かにネタバレの刑な」
「ううう、どんどん扱いがぞんざいになってる。わたし神なのに……」
「アホの子だし」
「あ、アホじゃないしっ女神だしっ」
「ニートだし」
「にっニートじゃな――」
「人が持ってきたカタログ見て、ご立派なベッドや大型テレビや最新パソコンにゲーム機まで揃えやがって。ここまで神力の無駄遣いしといてよく言うわ」
「ううう……反論できない悔しさよ……」
「いっそ神様やめて人間になったら? そうすりゃいちいち俺がここに来る必要もなくなるし、お前は人間の娯楽を思う存分堪能できるし、良いことずくめだろ?」
「ええー? だって人間になっちゃったらお仕事見つけて働かなくちゃならないじゃない。面倒臭いからやーよ」
「お前と話す度にお前のダメさ加減を痛感して、もはや戦慄すら覚えるんだが」
「……? それってつまり、私の威光に畏怖しているって事?」
「ああ、お前は畏怖すべき存在だ」
「んんと……褒めてるのよね?」
「ああ、もちろんだ」
「おっしゃあああ!」
「さて、アホをからかったところで俺はそろそろ帰んぞ。ゲート開けてくれ」
「えええ、もう帰るのぉ……? どうせ外の時間は止まってるんだから、もうちょっと遊んでいけばいいじゃない」
「いらん、勉強したいんだよ。こうしている間にもせっかく暗記した教科書の文言がボロボロと抜け落ちていくんだ。分かったらさっさと戻せ」
「じゃ、じゃあ勉強道具持ってきてこっちで勉強すればいいじゃない! 教科書丸々暗記するまで勉強できるわよ」
「お前がゲームしないテレビ見ない漫画読まない笑い声上げない歩かない立ち上がらない動かない呼吸音をさせないんなら考えてもいいぞ」
「それ、遠回しにシネって言ってませんか……?」
「まさか、そんなわけないだろう」
「ほっ」
「帰りのゲートだけは開けてもらわなきゃ困るしな」
「送迎係!?」
「それ全部守れんなら、また来てやってもいいぞ」
「できるかあああああっ!」
「ならほれ、とっとと」
「うー……」
「……おい、なんだこの手は」
「ほ、本当に、ダメ……?」
「………………ふぅ」
「え? ん――――ッふぎゃあああ!?」
「年齢無視したあざとい上目遣いが腹立つわ」
「うあーんっ! 頭撫でてくれるのかと思ったのにいいい! ゲンコはないでしょおおおおお!?」
「その後ろ手に目薬持ってなかったら謝ってやんよ」
「うぐうっ!?」
「で? どうなん?」
「う、うううううううう~~っもう! 知らない!」
「あーあ、ったく……(ピー)歳がガキんちょ見てぇにふて腐れやがってまあ」
「年齢具体的に言うなああ! ほら、ゲート開けたからさっさと帰んなさいよっ」
「……」
「……(ちら、ちら)」
「……はあ(ごそごそ)」
「?」
「おっと、偶然ポケットに英単語帳が入ってた。こいつを暗記するくらいの時間だったら付き合ってやっても良いぞ」
「!!(ぱあ) じゃ、じゃあ、ゲームやりましょゲーム! こないだ借りた格ゲー極めたからねっ。今度は負けないんだから!」
――数分後。
「わああああん!! なんで片手コントローラーのヤツに勝てないのおおお!?」
「勝利はパーフェクト――おっと間違えた。ヴィクトリーだったな」
「むきぃぃぃぃぃ!!! 次はぜったい勝ってやるんだからあああ!」
十話以内には完結する、短めのお話です。