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(だが、そもそもコイツのやってること自体が非現実的な気さえするんだが…)
それでも、辻原に会いに来た以外にコイツがここまで来る意味や理由が見つからないのだから認めるしかない。
「わざわざこんな所までやってくるお前の原動力って、いったい何なんだろうな?」
子猫の瞳を覗き込むようにして話してはいるが、それは何処か朝霧の呟きのようだった。
疑問を口にしつつ、己の中で考えを巡らせる。
「辻原の傍へ行ったところで、いったい何があるっていうんだ…?」
それ以外に動機がないと思うのに。
その大本の部分がどうしても解らない。
(…あさぎり…)
理解しようと、してくれているんだろうか。
ミコの行動の意味を。
(それも、ミコが実琴に会いに来たことに気付いているなんて。それを分かっていて探しに来てくれたなんて…)
想像もしてなかった。
ずっと大人しく朝霧の言葉に耳を傾けているミコの様子に、朝霧は少しだけ表情を緩めると言った。
「お前、もしかして辻原の所に行こうと思っても出て行けなくて、ここで足止めを食らってたんじゃないのか?」
「にゃっ!?」
(あ…ある意味、的を得ていて怖いんですけどーっ!)
全て見透かされているようで、内心ヒヤヒヤしていると再び朝霧が口を開いた。
「一緒に連れて行ってやろうか?」
(……えっ?)
思いもよらぬ展開になった。
(朝霧は…いったい、どういうつもりなんだろう?)
朝霧のジャケットのポケットに収まりながら、実琴はそこから見える朝霧の顔をそっと見上げながら考えていた。
『一緒に連れて行ってやろうか?』
そう言った時の朝霧は、こちらを試すような探るような瞳をしていて、実琴はつい『朝霧…?どうして…』と、その意図を聞き返してしまったのだが、それが人の言葉として伝わる筈もなく、結果として「みゃあ」と、上手い具合に子猫が返事を返したような形になってしまった。
そのミコの返事に朝霧は、小さく「よし」と頷くと。
「お前の行動力に免じて付き合ってやる。但し俺が連れて行けるのは病室の前までだがな。お前が何をしたいのかは知らないが、騒ぎだけは起こすなよ」
そう言い聞かせるように言うと、自分のジャケットのポケットへとミコを忍ばせたのだ。
(朝霧はミコの行動をどう思ってるんだろう…)
何をしたいのかは知らないけれど、協力してくれる。その意図は何処にあるんだろう?
それも子猫を相手に。
『騒ぎだけは起こすな』
それを猫に言ったところで、普通ならば無理な話で。
(無理な話どろこじゃない。ある意味無茶苦茶だよ…)
それでも、朝霧は…。
ミコを信じているのだろうか?
(もしかして朝霧はミコが普通の子猫じゃないことに気付いてる…?)
『俺には分からない大切な理由が、お前にはあるんだろう?』
そう、言われている気がした。
実琴は、そっと周囲を伺ってみた。
朝霧は院内を把握しているのか、迷いなく先程武瑠が歩いて行った病棟の方へと足を向けた。
実琴の病室の位置も分かっているみたいだ。
(朝霧は…病室の前に行ったら私を下ろすんだろうか?)
一度見つかれば大騒ぎになり兼ねないのに。
何より…自分自身も病室へと行ったところで、実はどうしていいか分からなかった。
『手っ取り早いやり方は、同じことをしてみるのが一番』
守護霊さんが言っていた言葉。
(でも、眠っている今の状態では、そんなこと無理だし…)
だが、このチャンスを何とか生かして、少しでも良い方向へと持っていきたい。
(折角、朝霧がこんな風に協力してくれてるんだもん…)
そう、思った時だった。
ガシャー―――――ンッ!!
奥の方で、もの凄い音がした。
「キャーッ」という悲鳴と。
鳴り響くナースコールの呼び出し音。
そして、
「どうしたんですかッ?」
「何があったのっ!?」
慌てて駆け付ける看護師たちの声。
その間にも、ガタン、ガシャーーン等、物が落ちたりぶつかるような音が聞こえてくる。
(いったい、何が…?)
その騒ぎに一旦足を止めた朝霧と共に、その音の先を見つめる。
すると…。
「辻原さんっ!?どうしたんですかッ!?」
「落ち着いてッ!辻原さんッ!!」
看護師たちの慌てた声と。
「待ちなさいっ実琴っ!どこへ行くのッ?」
それは叫び声に近い…聞き覚えのある声。
その母の声を背後に。ガタガタと、よろめきながら『実琴』が病室から出て来るのが見えた。




