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カワイイ子猫のつくり方  作者: 龍野ゆうき
樹の上の子猫
1/73

1-1

キーンコーンカーンコーン…



放課後のチャイムが鳴り響く校舎内。


どのクラスも随分と前にHRホームルームを終え、部活動で残っている生徒達以外、教室内に残っている生徒は殆ど見当たらない。


廊下を歩く生徒達も、まばらだ。



そんな中、二年B組の教室に一人残って作業をしていた実琴みことは、一つだけ溜息を吐くと机の上に広げていた書類をまとめて立ち上がった。


(あとは、これを職員室に出して行けば終わりだ)


帰る準備をして、書類を片手に教室を後にする。



昇降口へと向かう途中にある職員室の前で足を止めると、開いたままの扉から職員室内を覗いてみる。


すると、クラス担任が席に座って他の教師と話をしているのが見えた。



「先生、これ…お願いします」


実琴は傍まで行くと手にしていた書類を差し出した。


「おう、辻原つじはらか。お疲れさんっ!…すんなり決まったか?」


担任は受け取った書類に目を通しながら聞いて来る。


「いえ、全然です。女子はまだ良かったんですけど、男子は話し合いにもならなくて…。最悪でした」


不快感を隠すことなく言った。


そんな実琴の様子に担任は苦笑を浮かべると、同情するように言った。


「まぁなぁ…長嶋は、男子全体を纏め切れてないからなぁ」


実琴と共にクラスの学級委員をしている男子生徒の名前を出して、先生はワザとらしく溜息を吐いた。


「まぁ相棒は頼りない部分はあるかも知れないが、辻原がしっかりしてくれてて助かるよ。これからも、お前がその調子でB組を引っ張ってってくれなっ」


「…はぁ」


そう何だかんだと上手く煽てられて話を終えると、実琴は職員室を後にした。



(…しっかりなんか、全然してないのにな)



先生に掛けられた言葉が、僅かに心に引っ掛かっていた。



先程提出した書類は、来月開催される体育祭のクラスメイトの種目別リストだ。


今日の学活で学級委員である実琴達が中心となって、それぞれの希望を取りながら各種目の参加者を決めていたのだが、クラスの纏まりがなく、なかなか話が進んで行かなかった。


男子の学級委員は長嶋という男で、クラスの人気者ではあるのだがこいつが超!が付くほどのお調子者で。


例の如く、他の生徒達と一緒になってふざけてしまっていた。


女子はまだ協力してくれて、始めの方は「静かにしなよ」など声を上げてくれている子もいたのだが、担任が席を外していたこともあり、次第にそれぞれが別の話題で盛り上がってしまっていた。


実琴が一人、前で声を上げようと、結局は皆が勝手なことをしていてなかなか進行出来ない状況。



(駄目だこりゃ…。やってらんないわ…)



実琴は自分の力量不足を感じずにはいられなかった。


自分は、わりと男子でも女子でも分け隔てなく誰とでも話が出来る方だ。


だが、その分威厳などは持ち合わせていないので、逆になめられてしまっているのかも知れないと思う。



途方に暮れて。


(ああ…学級委員なんて、頼まれても引き受けなきゃ良かったなー…)


遠い目をして、思わず現実逃避をしかけた時だった。



後ろの席の方でバンッ…という、机を叩く大きな音が聞こえた。


途端にクラス中が水を打ったように静まり返る。


今までの騒がしさが嘘のようだ。


そんな中、音を出した張本人は皆の注目を一身に浴びながらも、平然と頬杖をついていた。



サラサラの僅かに斜めに分けた前髪と、銀縁の眼鏡のその奥で強い光を放つ切れ長の眼が、つまらなそうに前を見据えている。


その少年の鋭く冷たい瞳に、教室中が凍りついてしまったかのように皆動きを止めていた。


少年は一つ小さく溜息を吐くと、静かに口を開いた。


「いい加減、無駄な時間を費やすのは止めないか?これが長引けば、放課後の居残りは決定、間違いなしだ。俺は、そんなのに付き合わされるのは御免だからな」



一見正論のようではある。だが、実際は自己中心的なだけなのかも知れない。


それでも、この一言でクラスの皆が協力的に動いた。


結局、その後はすんなりと進行していき、決定事項も全て纏まったのである。



(…朝霧は凄いよ…。あれで皆を動かしちゃうんだもん)



朝霧伊織あさぎり いおり


彼のオーラは半端ない。皆に有無を言わせない威厳がある。


悔しいけど、それは認める。


でも…。



(相変わらず、ムカつく奴!!)



実琴は、朝霧というこの男があまり好きではなかった。


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