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朝霧とは、実は一年の時も同じクラスだった。
スラリとした長身で、大人っぽくて整ったクールな風貌。
勉学、スポーツ共に万能。
そして、人を寄せ付けない雰囲気を纏っているのにも関わらず、教師、生徒共に人望が厚い。
ある意味、非のつけどころがない奴だ。
実琴もそんな彼を、初めの内は尊敬の眼差しで見ていた。
女子にも当然人気のあった彼は、いつだって噂や話題の中心にいて、皆がその彼の行動や立ち振る舞いに一喜一憂して色めき立っていた。
だが、次第に彼の本性が浮き彫りになっていく。
そのクールな風貌以上に冷たすぎる口調。
その口から語られる『毒』に皆がノックアウトされていったのだ。
そう、キツイのだ。言葉が。
本人は、そんなつもりはないのかも知れないが、そのあまりの毒舌ぶりに皆が恐れをなして一目置いている…今では、そんな感じだった。
実琴も同じクラス二年目ということもあり、わりと話せる方ではあるのだが、その分容赦ない毒も散々浴びて来た訳で…。
人の気持ちを何とも思っていないような、その冷酷極まりない振る舞いに好感なんぞ持てるはずもなかった。
さっきだって、そうだ。
一応、朝霧のお陰で収拾がついたので、HRの時間に席に戻る際、実琴は素直な気持ちで一言感謝の言葉を掛けた。
「さっきは、ありがと。アンタには助け船のつもりなんてなかったんだろうけど結果的に助かったから…」
すると、朝霧はチラリとこちらに視線を向けて口の端だけ上げると言ったのだ。
「お前の大口開けた怒鳴り顔を眺めていても面白かったんだが、流石に飽きた。それだけだ」
(ううぅ…思い出すだけで、ホントにムカつく!)
実琴は昇降口まで辿り着くと、上履きを脱いでそれを下駄箱に差し込むと、取り出した革靴を乱暴気味に足元へと落とした。
人気のない昇降口に僅かに音が響き渡る。
そうして靴を履き終えると、ゆっくりと外へと踏み出した。
もう門へと続く並木道に、殆ど人は見当たらなかった。
(それでも何だかんだ言って、皆を纏める力…持ってるんだよなぁ)
その統率力は嫌でも認めざるを得ない。
でも、逆にそれこそが実琴自身面白くないと感じている理由でもあった。
(ああいう奴こそ学級委員とかやってくれればいいのに…)
皆の上に立てる能力を持ってるくせに、変に面倒臭がりで『我関せず』な所が余計に嫌いだ。
実琴は不意に我に返ると、小さく溜息を吐いた。
嫌いな奴のことをいつまでも考えていても仕方ない。
余計に不快になるだけだ。
気を取り直して。
(さて。今日は部活もないし、さっさと帰ろうっと)
何だか雲行きが怪しい。雨が降ってくるかも知れない。
(にわか雨の可能性があるとかって天気予報で言ってたっけ)
一応折りたたみ傘は鞄に入ってはいるが、早く帰った方が良さそうだ。
実琴は僅かに足を早めると、校門へと向かった。
その時。
(…あれ…?)
何かが聞こえた気がして、不意に足を止める。
先程から僅かに風が吹き始め、ザワザワと揺れる木々の中、思わぬ声を聞いたような気がした。
門へと続く広い並木道の片側は、公園のように沢山の木々が植えられている。
(こっちの方から聞こえてきたような…)
実琴は、誘われるようにその木々の方へと足を向けた。
「~~~」
(あ…また…)
間違いない。こちらから聞こえてくる。
それはまるで、小さな子猫の鳴き声のような…。
(でも、いったいどこに…?)
周囲を見渡しながら、よく耳を澄ます。
すると…。
(いた…)
樹の上。
太めの枝の上に、小さな子猫がうずくまるようにして丸まっていた。




