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9 紫銀色 その四

 活気ある街を眺めながら進み、図書館に辿り着いた。


 「マグヌス、ありがとうございました。では五時頃に迎えの方をよろしくお願いいたします」

 「かしこまりました」


 礼をして館に戻るマグヌスの背を見送った後、アルメリアと図書館の中へと入ります。

 図書館は二階建てでかなり大きく、中も広々としていて、壁一面に本が並べられていました。

 中央に並んでいる机や本棚の側に置かれている椅子には、沢山の人が座り静かに本を読んでいた。


 入り口で職員の方に、利用するためのカードを貰い首からかけます。

 このカードは特殊な魔法が組み込まれている魔道具で、この図書館全体に掛けられている魔法と共鳴する仕組みらしいです。これを持っていないと本には触れることも出来ないとか。

 本はとても貴重なもの。だから盗難防止の魔道具は必須なのです。


 そう考えると我が家にある本の扱いは、なんてずさんなんでしょう。読まないのなら、国に寄贈などすればよろしいのに………



 魔道具についてはどうなっているのかは魔法の知識がないわたくしには、さっぱり分かりませんがいつかは理解したいですね。


 別に盗もうとか思っているわけではありません。純粋な興味ですわ。


 このカードは帰る際に、また返すそうです。



 わたくしは本を読んでいる方達の邪魔をせぬよう静かに動き、言葉を学ぶ為の本が置かれている棚を探します。

 右手前の棚に見つけ、運良くその前の机が空いていたので、アルメリアと向かい合って座ることにしました。


 「アルメリア、貴女も一緒に勉強しましょうね」

 「えっ⁉私も勉強するのですか?」

 「ええ、だって二人でした方が楽しいじゃない?それに貴女も勉強してくれたら、教え合いっこ出来るしね?」


 ふふふ、と笑いながら言えば、アルメリアはぎこちないけれど嬉しそうに笑ってくれた。




 この世界では語学習得率はとても低い。貴族なら必須だから必ず学ぶけれど、平民はよっぽど強く望むか余裕がなければ学ぼうとは思わない。その必要性がないからだ。

 貴族でも男爵以下の爵位では、家を継ぐ後継者以外は語学を学ぶなら別のことに時間を使う、という考えの家も多いそうだ。

 学びたいと思っても学べない子供もいる。


 アルメリアは男爵家の長女。アンシェシア侯爵家に行儀見習いとしてきた。でもそんな単純な理由ではない。純粋な行儀見習いではないことはもう分かっている。


 一言で言えば、売られたのだ。

 実の両親に、我が父へ。払えなくなった借金の形に。



 我がアンシェシア侯爵家は自国の国民のみならず、他国にもその名が知れ渡っているほど悪名高い。様々な意味で。

 そんな家に好き好んで、自分の子供の行儀見習い先に選ぶ親はいない。

 我が家で働いている貴族出の者は、全員似たような理由だ。

 帰ることは許されないから、どんなことをされても我が家で働くしかない。


 平民は更に悪い。何故なら全員が奴隷であるから。

 まともな扱いを受けている者はほぼいない。死ねばまた補充するだけ。そんな考えの両親と兄だから、人間の扱いをされないのだ。



 わたくしは両親と兄を責められない。

 わたくしは虐げることはせずとも、父達の行為を当たり前のように受け止めていた。

 止めることもせず、ただ見ていた。


 無知は時に罪になる。


 その言葉通り、わたくしの行為は罪だ。

 彼等に謝罪など出来ない。してはいけないことだろう。


 だからせめてこれからは彼等が傷付かぬよう、自分に出来ることをしよう。こんな子供では出来ることは限られてしまうけど、手を伸ばそう。


 彼等にとったら迷惑で烏滸がましい傲慢な考えかも知れないけれど、それがわたくしに出来るせめてものことだから。



 なにをするにも知識はあった方がいいから、沢山勉強しましょう。



 アルメリアと一緒に先ずはと、語学初心者向けの絵本のような本を手に取り、見ていく。わたくしはお復習(さらい)として、アルメリアは一から。

 見終わったわたくしはその本をアルメリアに渡し、次の本を探しに行く。基本的な読み書きは出来るけれど、難しい言葉や言い回しなどはほとんど分からないから、順々にやっていこう。


 分からないこと、知らないことを学ぶのはとても楽しい。


 幾つかの本を広げ、ひたすらにノートに書いていたらあっという間に時が過ぎた。




 この図書館は五時までだから、十分前に閉館の声がかかる。アルメリアと机に積み重ねていた本を急いで戻し、入り口で職員にカードを返却し外に出る。


 本当は本を家に持ち帰ってまだまだ勉強したいけれど、我慢するしかない。また明日来よう。


 入り口の横の壁に凭れるように背を預けたマグヌスがいた。


 「ごめんなさい、マグヌス。待たせてしまったわね」

 「いえ、大丈夫ですよ。今来たばかりですので」


 笑顔で告げるマグヌスに、わたくしは小さく礼をした。


 「では帰りましょう、アルメリア、マグヌス」

 「「はい」」


 二人を伴い、茜色に染まる通りをゆっくりと家まで歩いた。





 その日から、時間があればアルメリアと共に図書館に通った。何故かいつも護衛はマグヌスだった。

 一番の新人なら門番の仕事になるはずなのに、いいのかしら?

 不思議に思って隊長さんに聞いたら、「マグヌスの剣の腕は領騎士団の中でも上位で、しかもわたくしと年が近いから話しやすいかと」とのこと。

 成る程、と納得しました。まだ剣の腕は見たことないので分かりませんが、確かに話しやすいです。いつも穏やかに話をしてくれて、少なからず教養もあるようでちょっとした質問にも答えてくれた。これには本当に驚きました(顔には出しませんでしたが)。

 なによりわたくしの知らない外の世界の話は、とても興味深く面白い。

 だからマグヌスが護衛で良かったと思います。


 数日通い詰めて、なんとか粗方の言葉や単語を読み書き出来るようになったので、次はこの国の歴史について勉強しましょう。

 本当は魔法について学びたいけれど、一つ一つやりましょう。

 残念なことにわたくしは然程(さほど)頭がよろしくないのです。一遍に違うことを覚えるのは苦手です。ですので一つのことをある程度学んでからでないと、別の勉強へはゆけません。


 悲しいことですわね。ほほほ。



 はぁ……………





 あら、いけない。

 気を取り直して、歴史の本を探しましょう。


 先ずは建国の時から。



 歴史が載っている本を、分かりやすいものから細かく詳しく載っているものなどを広げ、自分で分かるようにノートに書いていたら隣からかたん、と音がした。

 音に反応しそちらを見ようとして、ぐっと我慢して本に意識を集中する。


 いけないいけない、駄目よ、ラティーニア。集中しなさい。



 気が削がれそうになったが、ここ数日の訓練の成果を発揮し勉強を続ける。


 直ぐに本に集中出来たけれど、今度は正面に座っていたアルメリアが小さく声を掛けてきた。


 「……………あ、あの、ラティーニア様」

 「どうしたの?アルメリア」


 わたくしも小声で返したけれど、アルメリアはそれには答えず、ちらりとわたくしの横を見た。

 わたくしは首を傾げて隣を見た。


 「………………………第三皇子殿下?」


 隣にはユリウス第三皇子殿下が微笑を浮かべてこちらを見ていた。









読んで頂いてありがとうございました。

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