第12話:藤吉郎の覚悟
濱嶺の家を後にした俺らはこのまま村に帰っても
特にすることもなかったので
どちらから言った訳ではないが
二人で町を歩いていた。
「刀が出来たら藤吉郎ともサヨナラだな」
「ああ・・・・そうだな」
気の入っていない言葉が少し寂しかった。
「あのさ・・・」
二人同時に発した言葉だった。
「何?」
「いやそっちこそ先言えよ」
と言った瞬間なんだかおかしくなった。
昔も日常においてやってること同じということが
こんなしょうもないことで実感している自分に
気付いたのが可笑しくて仕方なかった。
「あはははは・・・」
俺は大声で爆笑していた。
「何が面白いんだ?」
「わりぃ~わりぃ~何でもねぇ~んだ
昔を思い出してな、いやまだ来ていない時代だから
未来を思い出してか ・・・
そんなことより藤吉郎何か言いかけただろ?
なんだったんよ?」
「なぁ良、自分と一緒に何処かの君主に仕える気はないか?
お前となら、きっと時代を築ける気がするんだよ」
唐突な話ではあったが、俺も似たようなことを考えていた。
「どっかの君主ってあれだろ?殿さんのことだろ?
あてでもあんのか?
本当に強いかどうかわからないおっさんの命令なんて
俺は聞けんぜ」
「そんなこと言っても家系が良いわけでもない
はじめは武功を重ねてそのうち・・・」
「おいおい、藤吉郎、お前歴史に名を残すんじゃなかったのかよ
んな、ぬるい事言ってて大丈夫か?
どっかの君主を倒すってんなら力にもなるけ ど」
「二人でか??無茶をいうな到底無理な話だ」
「そりゃ、当然そうなるわな!
まぁ、さっきのは例えの話だよ
でも俺もお前とならなんかやれそうな気がするのは
一緒なんだ、ただ・・・そんな下っ端になった所で
名を残せるなんてのは考えられねぇ~よ
コイツになら命かけれるってヤツが
いるんであれば話は別だが・・・
そういうヤツがいるのか?」
「いや・・・・今は・・・・」
「だろ、だったらよ二人で商売でもしねぇ~か?
俺には勉強の知識はないにしろ、未来を生きてきた
経験があんだよ!絶対に稼げるし話題にもなるはず!
んで稼げるだけでなく色々な情報も手に入るだろ
俺は力には自 信あんだよ!どうせならこっちから
頼みに行くんじゃなくてよ
向こうからスカウトに来させよ~ぜ!」
「すかーと?」
「バカ、そりゃ女の子が穿くやつだろ!スカウトだ!
ようは向こうから俺たちに来てくれって頼みにくんだよ」
「そんな事が可能なのか?」
「だから、可能にするため頑張んだよ」
「何を頑張るんだ?」
「んぅ~???いろいろだよ!!」
「良の言う通りになるなら願ってもないな
こっちから頼むんで家来にしてもらうのと向こうから
頼まれて家来になるのでは確かに違うからな」
「いやいや、まぁ家来でもいいんだけどよ
まずはてっぺん目指そうぜ!
んで妥協ラインで家来って感じじゃなきゃ
やる気でないだろ?」
「おぉ・・・そうか・・・
恐れ多い気もせんでもないがそういうことにしとこうか」
「おっ!?その気になってきたか?」
「確かに良の言うことにも一理あると思っただけだ」
「だろ」
「不思議だな、未来人を差し引いて考えても
お前の言ってることは無茶苦茶なんだが
何故か、その気にさせられる。」
「褒めてる?バカにしてる?」
「いやいや褒めてるんだよ」
「そっか、ならいいや」
「そうと決まればまず何をする?」
嬉しそうに藤吉郎が尋ねてきたが
当然今の俺はノープラン!!
即答できずにしばらく考える。
さすがに強いヤツに喧嘩売っていくってのは駄目だ ろうしなぁ~
今の時代になくて・・・・未来にあったもの
未来で流行ったもの・・・・
名を轟かすことができるもの・・・
考えるよりも行動が先の俺に素敵なアイディア
が出るはずもなく
「やっぱりそのような都合のよい話はないかぁ~
何するかも決まってないんではのぉ~」
「!?そうか藤吉郎ナイスアイディア
何するか決まってないんだからなんでもやろうぜ!
トラブルシューター的な・・・」
「とらぶる・・・なに??」
「簡単にいうと何でも屋だな
犬探しから浮気調査までなんでもOKみたいな!」
「未来の人間は犬を探しているのか?」
不思議そうにしている藤吉郎を横目に
俺は一人で盛り上がってい た。
「そうと決まればまずは事務所だな
さすがに藤次郎の家では人も来ないし所詮村だからな
せめて事務所は町とは言わないまでも町の近くがいいな
うん、うん」
「なぁ良?一人で盛り上がってるとこ悪いんだけど
まったくついていけてないんだが・・・」
そんな藤吉郎の言葉などお構いなしに話を続ける。
「なぁ、藤吉郎お前、金いくらもってる??」
「いや・・・まったくないけど・・・
さっき見とったじゃろ濱嶺に全部渡したのを」
「そうだったな・・・ちょっともっかい濱嶺の所いってよ
半分くらい返してもらおうぜ!」
「一度出したものをそう簡単に引込められるか!」
「いやいや、藤吉郎ちゃんよぉ~
そんな肩に力入れて言わなくてもよ
ならさ、お前は濱嶺に刀代としてお金を渡した。」
「さよう」
「んで、俺が濱嶺から金を借りるってのでどうだ?」
「それならいいか・・・」
「よっし決まり、すぐ戻ろうぜ!」
俺たちは来た道をすぐさま引き換えし、再び濱嶺の家に行った。
事情を話すと濱嶺はすぐに金を出してくれ
さらに返さなくてもいいとまで言ってくれた。
どうやら藤吉郎が渡した金額は相当なものだったらしく
今度俺らが来たときに返そうと思っていたらしい。
それでも藤吉郎はそれを受け取らなった。
なのでありがたく俺がそのお金をもらったのである。
「なぁ、藤吉郎お前なんであんな大金持ってんだ?
それこそどっか から盗みでもやったか?」
「無礼な!あの金は家を含め家財道具一式全ての金だ」
「マジで??」
「ああ大マジだ」
「じゃあお前家とかはもう・・・」
「もうない、帰ることろも当然ない」
「な~んだ、結構な覚悟してんじゃん!
こりゃ何が何でも成功させねぇ~とな」
「当たり前だ!」
胸をはった藤吉郎がそう答えた。
コイツに初めて会ったときに感じたオーラはこういう
覚悟のものなんだと改めて思った。




