第4話 貴族のお出まし
シャラの冒険者登録をして数日。
地道に依頼を受け続けたおかげでシャラのランクはEまで上がった。
討伐系の依頼は全て俺が担当していたのだがシャラは自分も戦闘に加わりたいと懇願してきた。シャラはエルフで弓の才能があるからそれを伸ばしていけばいいと思うのだが、主人である俺に前衛をさせるのが嫌なようだ。かといってシャラの腕を俺好みにカスタマイズすると派手に目立ってしまいそうだ。
仕方ないので俺直々に魔法を教えてやることにした。
幸いなことにシャラは盲目であったことと奴隷になり魔法に関わる機会がほとんどなかったため大した知識がない。俺の教える無詠唱無魔法陣のラウス流魔法術をスムーズに習得していった。
シャラの魔法色は平均的な緑色。適正属性『風』は弓との相性はいいので魔法を覚えたシャラは戦力アップした。
今はソロでも確実にCランク並みの実力を持っていると思う。
ただシャラが順調でも俺はまだ2年冒険者にはなれない。
「はぁ~」
ため息を吐きながら家で俺が器用に自分の髪を散髪しているとシャラが羨ましそうにこちらを見つめてくる。俺の腕は関節も自在に曲がるので鏡を見ながら一人散髪が余裕で出来てしまうのだ。
「何だよシャラ? 俺の男前ぶりに見惚れたのか?」
伸び放題だった髪を肩よりも少し上ぐらいまで切る。前髪は長目に残しておいて右目の隻眼が目立たないようにしておく。
鏡を見れば美少女から美少年に大分近づいた自分の姿が。
うん、キスしてやろう。
「ご主人様が素敵なのは当然のことです。私が羨ましいのはご主人様のように便利な腕にすればもっとお役に立てるのに…と」
「いや、シャラは女の子なんだからこんなゴツゴツした腕は嫌だろ?
それに今でも十分強いんだから気にしなくてもいいよ」
「そんなことありません! ご主人様の腕はとても素敵です! それに私はご主人様をお守りできれば…」
「俺が嫌だからダメ」
「う~」
シャラは諦めきれないのか切なそうな声を出す。だが俺はシャラを武装少女にするつもりはない。エルフで可愛くて魔法使えて弓も使えて、これにロボットアームとか世界観ぶち壊しだろ!
俺にはそんなことはできないぜ!
それからも俺が義手の便利機能を見せるたびにシャラが羨ましそうにするけど作らないからな?
シャラの視線は無視して今日も冒険者ギルドへ行く。
今のところはシャラのランクを上げてギルドや偉い人とコネを作り俺の冒険者登録をしてもらうぐらいしか思いつかないからな。
「ここにエルフの奴隷を連れた銀髪の少年がいると聞いたのだがいるかな?」
ギルドでいつものように依頼を選んでいると立派な服装の金髪爽やかイケメンが護衛の騎士二人を引き連れて現れた。
どっかの貴族かな?
面倒事の匂いがプンプンするので逃げ出したい気持ちになったがギルド内の全員の視線がすぐに俺とシャラへ向く。
見んなよ、気づかれるじゃん。
「君が噂の少年だね?」
金髪イケメンにそう聞かれても俺は噂とか知らないんだけど?
俺が首をかしげるとイケメンは自分の紹介をはじめる。
「僕はサルタビコ伯爵家の第一子、メルス・サルタビコだ」
「あ、はい。僕はラウスといいます。こちらは奴隷のシャラです」
偉い人に名乗られてこちらが名乗らないわけにも行かない。貴族相手にちゃんと敬語で話せるか不安だが仕方ない。
伯爵ってどれぐらい偉いんだっけ?
屋敷にいた時にインから習ったよな…。確か上から順に公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵…だっけか? このイケメンは伯爵だから貴族の中でも3番目ぐらいに偉い爵位ということになる。結構な大物が来たな。
そんな貴族様が俺になんの用だ? まさか不法入国がバレた!? もう3年もいるんですけど!
「そう警戒しないでくれ。僕は君に少し聞きたいことがあって会いに来たんだ」
「聞きたいことですか?」
「うん、ここで話すのもなんだから一緒に来てもらえるかな?」
えっー、行きたくねー。
牢屋に直行とかじゃねーよな?
「メルス様、このような子供を連れて参るのですか?」
護衛の騎士の一人が俺を怪しそうに見つめる。
何だ? やんのかコラ?
「大丈夫だよ。話をするだけさ」
メルスはイケメンスマイルを見せる。
俺の方がイケメンなので張り合ったりはしない。
「分かりました」
「ありがとう。助かるよ」
貴族相手に拒否とか無理だからな。
俺は仕方なく強制イベントに巻き込まれてやる。
ギルドの外には豪華な馬車が止まっており、それに乗せられてサルタビコ伯爵家の屋敷へ連行された。詳しい話は屋敷についてからということで移動の間に俺とシャラは無駄に不安にさせられた。
特に護衛とは言え同乗している騎士の威圧が鬱陶しかった。
屋敷に着くと豪華な客間に案内されて柔らかいソファに座った。
すぐに話をするのかと思えばメルスは黙ったままなのでどうしたのかと思えばメイドが紅茶の用意をするのを待っていただけだった。無駄に緊張させやがって! さっさと話をしろや!
「それじゃあ早速だけど聞いてもいいかな?」
「…どうぞ」
早速の割にはずいぶんのんびりしていたけどな。態度には出さず心の中でそうツッこんでおく。
「君が所有しているその奴隷が元は盲目で両腕が無かったというのは本当かな?」
「…」
やっぱりそれですか。
俺はいい意味でも目立つから遅くてもいつかは義手の情報が世間に知れ渡ると思っていたぜ。
「そうですよ」
シャラのことは調べればすぐにわかると思うので正直に話しておく。
「っ、それはどうやって治したのか君は知っているのかい?」
「ええ」
治した張本人ですから。
「その情報を教えて欲しい。勿論情報に見合う報酬を用意しよう」
メルスに少し焦りが見える。余程この情報が欲しいみたいだな。
けどどうするか? 俺の技術を教える対価はとんでもない金額になるだろうし、俺が治療するにしてもかなりの額を要求することになる。
一市民でガキの俺の話を信用するかも怪しい上に莫大な金額を払うかも分からない。ここは嘘の情報で誤魔化すか?
「答えろ小僧!」
騎士が俺に怒鳴ってくる。上から目線の横暴な態度が気に食わねー。
やっぱ適当に嘘言っとくか。
「どうか頼む!」
メルスの碧眼が俺を見据える。
何だよ? そんなに知りたいのか?
「一つ聞いてもよろしいでしょうか?」
「なんだい?」
「それは誰かの治療のために?」
俺がそう尋ねるとメルスは静かに頷いた。
誰の治療のためかは情報を教えなければ答えてくれないだろうな。
「金貨十枚です」
「それでそのエルフの少女を治療した方法を教えてくれるのかい?」
「いえ、治療した人物を紹介しましょう」
「なっ! 小僧ふざけるなよ!」
「いい、黙っていろ」
騎士の男は怒りで俺に掴みかかろうとする。
メルスがそれを止め騎士を下がらせるが男は俺を睨んだままだ。まあ気持ちは分からないでもないが…。
金貨十枚といえば日本円で百万円だ。情報料にしては高すぎるからな。
メルスは手元にある鈴を鳴らすとメイドがお盆の上に袋を乗せて部屋に入ってきた。メルスはそれを手に取ると中身も確認しないまま俺に差し出す。
確認してみると袋の中には金貨十枚が入ってあった。
一体どうやって意思の疎通をしたのか? この部屋での会話は外に丸聞こえなのだろうか?
「これでいいかい?」
イケメンスマイル。俺には価値0円だからな。
情報を教える前にあの騎士をどっか引っ込めて欲しいんだけど? うちのシャラが殺気立っているので暴れられると困る。
「はい。信じられないかもしれませんが斬りかかったりしないでくださいよ」
「ああ、君の情報に対してなんの罰も与えたりはしない。安心して話してくれ」
「分かりました。シャラの目と腕を治療したのは…僕です!」
イエス! アイアム!
両手を上げてY字体制を取るとメルスの後ろに控えている騎士は俺に切りかかろうとしている。メルスがそれを辛うじて止めている。
メルスは真偽を確かめるように俺を見つめている。その表情にあまり驚いた様子はないので大体察していたのだろう。
「それは証明できるのかい?」
「もちろんです」
自分の両腕に巻いている布を取りピンク色の透き通った篭手のような腕を見せる。それには後ろの騎士もメルスも目を見開いて驚く。
「そ、それは?」
「特殊な鉱石でできた義手です。シャラの腕や目もこれと同じような方法で治しました。あっ、それぞれ本人しか使えないようになっていますのであげることはできませんよ」
これは言っておかないと勘違いして取られそうだからな。
それでも解明のため奪おうとする輩が現れるだろうけど俺以外では量産は無理だろうな。
「そうか…エルフの少女の方は君と違い普通の腕に見えるが同じ鉱石で作られているのかい?」
「はい。それには少しだけ特殊な道具を使っていますけど」
「そ、そうなのか…素晴らしいな。まるで宝石の腕のようだ」
メルスや騎士は未だに信じられないといった感じで俺とシャラの腕を凝視している。
ふふ、褒められて悪い気はしないな。
「そっ、その義手は安全なものなのかい? 体に何か害はないのだろうか?」
「無いですよ。安全高性能に丈夫さを売りにしていますから」
俺の三年の集大成を舐めんなよ!
「信じられないな…その目も本当に作り物なのかい?」
「ええ、シャラの両目も僕の両腕と同じ素材ですよ」
メルスや騎士に両目を凝視されてもシャラは嫌がるどころか自慢気で嬉しそうにしている。
「これで僕の情報が本当だと信じてもらえましたか?」
「ああ、そうだな」
「では、本題をお伺いしましょうか?」




