第3話 リベンジ・the・冒険者
「…ぉ…さい、…さ…きて…」
う~ん、何か小さな声が俺を呼んでいる気がする。
もっとハッキリ言わないと分からないよ。
「…ご主人様」
おー、ご主人様か。
男なら一度は呼ばれてみたいと夢見るもんだ。最近はメイドカフェで叶ってしまうらしいけど俺は行ったことがないんだよな。
「ご主人様! 起きてください!」
「…んが?」
はっ、何か寝ぼけてた!?
あれ? 何か体の節々が痛い。ちゃんとベッドで寝ないから~。
「ご主人様! ちゃんとベッドで寝てください! シャラなんかをベッドで寝かせるなんていけません!」
「…あっ、シャラ」
起きてみると確かに俺は床で寝入っていた。まだ眠いけどシャラの目の具合を聞く必要もあるから二度寝はやめておこう。
「シャラ…目はどんな感じ?」
「…っ! 見えますっ! シャラの目は見えるようになっています!
それにこの腕も自由に動かせるんです!!」
シャラは俺がつけてあげた義手を見せながら声を震わせ、その目で俺を見つめる。義眼手術の過程で涙は流れないが表情でその感謝と喜びが伝わってくる。
「ありがとうございます! ありがとうございますご主人様! シャラはこの命尽きるまでご主人様に心から従います!!」
シャラは泣きそうな顔で何度も俺にお礼をいった。
あんまりにも感謝されてしまい途中から「ありがとう」を何回言っているか真剣に数えてしまった。
「シャラもういいよ。これからは俺の世話やおっぱい揉み揉みさせてくれたそれでいいから」
「はい! 一生懸命頑張ります!」
うんうん。おっぱい揉み揉みについてはツッコミがなくて驚いたな。これじゃあ俺が変態みたいじゃないか?
えっ? 手遅れ?
シャラの年齢は13歳だからこの世界での法律的には…セーフ。そもそも奴隷を主人がどうしようと自由なのだ!
それに俺がまだ10歳だからか3つ年上のシャラがとてもお姉さんに見えてしまう。
「シャラ…」
「ご主人様」
見つめ合う二人。何かいい空気が出来上がっている。
「冒険者ギルド行くぞ!」
「え? …はい!」
悪いが俺のマグナムはまだ出来上がってないんだよ。
奴隷とムフフもいいけどまだ純情でいこう!
俺はシャラを連れて家を出る。
へへ、シャラは13歳だから冒険者になれるし、何より自慢を兼ねて見せびらかしに行こう。
「んっ? シャラちょっと止まって」
「はい、どうかしたのですか?」
俺の【ソナー】に魔力反応を3つ感知した。
これはただの冒険者じゃなさそうだな。きっと街で目立った俺を捕らえようとやってきた盗賊かな?
「こっちの道から行こう」
「はい!」
シャラは素直に指示に従ってくれる。
進路変更をしたからあの盗賊たちと鉢合わせになることもないだろう。家にも結界の魔道具を置いてあるから見つかることはない。
この三年のサバイバル生活で敵を躱す術は身につけているからな。
問題なく街まで着いた俺は服屋でシャラと自分の服を購入。
着替えてから防具屋で簡単な装備をシャラに買い、冒険者ギルドへ向かった。
「あらお嬢ちゃんまた来たの?」
前回の茶髪三つ編みの受付嬢がいた。
「ええ、今回は僕の奴隷の冒険者に登録に来たんですよ」
「シャラといいます」
「年齢は13歳ですから何も問題ありませんよね?」
「…ええ」
受付嬢のお姉さんはやや呆れている感じだ。
まあ他人から見れば金持ちのボンボンが奴隷を冒険者にさせようとしているのだから当然か。
「冒険者登録には銀貨5枚が必要となります」
「はい」
勿論ここは俺が払う。
「はい。それでは紙に名前と年齢、得意な武器や魔法があればそちらも記入をお願いしますね」
シャラは文字が書けないので代わりに俺が書いてやる。
ちょっとしたおふざけで得意技にロケットパンチと書いておいた。本当に飛ぶんだぜ。
受付嬢のお姉さんにはスルーされたが。
「それではこちらがギルドカードになります。紛失等によるカードの再発行には銀貨25枚が必要になりますのでお気を付けください」
渡されたギルドカードは銀色で確かに高価そうだ。銀貨25枚は大金だから無くすのは避けないとな。
「それではギルドについて説明させていただきます。
ギルドでは依頼の受注と魔物の素材の買取り等が可能です。依頼にはランクがあり、自分と同ランクかそれ以下のランクの依頼しか受けることはできません。
冒険者ランクは下からG、F、E、D、C、B、A、Sとなっています。同ランクの依頼を二十回達成で昇格となります」
二十回も依頼受けないとランクが上がらないのかよ。メンドクセー。
「ランクが上がると何か特典はあるの?」
「上位の依頼を受けることができますので当然報酬が良くなります。それとBランク以上の冒険者になりますとギルドや街で優遇もされます」
優遇ね~。この世界でのサービスなんてたかが知れているからな。
「奴隷が依頼を受けるときは主人もついて行っていいの?」
「問題ありません。冒険者は基本自己責任ですので、ただしダンジョンに入るにはギルドカードが必要となります」
「ダンジョン?」
それは初耳だな。
受付のお姉さんに詳しく聞いてみると、【ダンジョン】は自然と出現する迷宮で、中には魔物や貴重な宝が色々あるらしい。
ダンジョンに入るには最低でも冒険者ランクがEになっている必要があり、ダンジョンでは倒した魔物の素材と魔石、希少なレアアイテムをギルドに売却することでランクが上がるらしい。
ダンジョンか…行ってみたいけど俺には当分無理な話だな。
その日はとりあえず薬草採取の依頼を受けてシャラと森に向かった。
長年暮らした森なので俺にとっては庭のようなものだ。ギルドで薬草の特徴を聞き簡単に集めることができた。
薬草の依頼報酬は全てシャラに渡すつもりだったが彼女は銅貨一枚も受け取ろうとはしなかった。少しは持ってないと不便だろうと説明しても一切受け取る気がない。
「私は十分にご主人様から頂いていますから」
完全に俺にベタ惚れですやん。
この世界の通貨は持ち運びが重くて嵩張るである意味荷物持ちを断られた気もするのだが…。まあ俺にはアイテムポーチに【アイテムルーム】の魔法があるからいいか。
「お嬢ちゃんたちちょっと止まりな」
家に帰ろうとすると三人組の男に呼び止められた。
全員悪人顔で服も薄汚い。
おそらく森で俺たちを探していた盗賊だろう。
「何の用ですか?」
「ご主人様!」
危険を察したシャラが俺の前に立つ。
用件は大体分かっているが一応聞いておく。
「げへへ、お嬢ちゃん随分金を持っているみたいだな。それにそのエルフはこの前まで目も腕もなかった奴だろ。どうやって治したのかちょっと教えてもらおうと思ってな」
「何のことでしょう?」
「げへへ、とぼけたっていいぜ。それならお嬢ちゃんたちを捕まえて売りさばくだけだ。勿論その前に楽しませてもらうがな」
男たちがジリジリと迫ってくる。
俺は男だと訂正したかったがこの美しさでは仕方あるまい。俺でも襲いたくなるほどの美貌だからな。男と分かったところで俺のケツが危ない。
ナルシスト? いいえ事実です。
「ご主人様! 逃げてください!」
「げへへ、無駄だ。俺たちからは逃げられねぇよ!」
「ご主人様! 早く!」
ここは町外れで人通りがない。助けは呼んでも無駄だろう。
「考え直すのなら今のうちですよ?」
「へっ! 何をだ?」
男の一人が襲いかかってくる。
シャラは俺をかばおうとしているが邪魔なのでお気持ちだけで十分です。
「なっ! 何だこのガキ!?」
シャラを躱して襲ってきた男を抑える。
男の手首を掴んで握っている状態だ。
大の大人と子供の力比べ。悪いが相手にならないぜ、俺の両腕は熊でも殴り殺せるパワーを持つ。
「少しは痛い目を見ろ!」
「なっ、放せ! ぐっ、ぎゃああああっ!」
ボキッと男の両手首の骨を折る。
軽く握ったつもりだがかなりのパワーだ。ついでに男の顎にも一発入れて眠らせてやる。
「何だこのガキ!?」
「ただのガキじゃねぇ! 魔法か!?」
半分正解。
せっかくだ。義手の性能をこいつらで試させてもらおう。
両腕の布を外してピンク色に透き通った篭手のような義手を顕にする。
「何だあの腕! 魔道具か?」
「構うな! いくぞ!」
「ご主人様!?」
そういえばシャラにも見せるのは初めてだな。
見るがいい! これが俺の!
「ジェットパンチ!」
襲ってきた二人目の男に拳を向けて肘を曲げる。肘から熱と風が吹き出し目に見えぬ速度で男に拳が飛んでいく。
俺のパンチを腹に食らった男は真後ろに吹き飛び意識を失った。
やべっ、死んだかな?
「て、テメェー!」
半狂乱になった最後の男が剣を抜いて振り回しながら襲ってきた。
「ソードチェンジ!」
右腕の一部を剣に変形させて長剣程の刃で応戦する。男の剣は簡単にへし折れて手加減した左拳で一発食らわせただけで意識を刈り取れた。
男どもは俺の義手の前に完全に敗北したのだ。
「ふぅ、両腕ともに問題なし。完璧だな!」
使用後のチェックも欠かせない。
両腕に損傷はなく自分の作った義手の性能に満足した。
盗賊たちは金目のものだけ頂いて兵士に通報しといた。
俺TUEEEEEE!!
義眼でも涙が流れるみたいだったので「手術過程で」ってことにしておきます。とりあえず涙は流れなくなってしまうということで…。




