第16話 母親
第16話 母親
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その日の晩、何とか腹痛を乗り越えた俺は、気分転換に一人で散歩に出かけていた。
「うぇ、まだクレープが口に残ってる…」
クレープだけを食べるとこんなにも気持ち悪くなるものだとは思っていなかった。
「でもこの調子なら、いいクレープが作れそうだな…」
確かに失敗作ばかりだけれど、何個かは成功作はあった。あと何回か試して行けば、最高傑作を作れるのかもしれない。そんな期待に胸を膨らませていると、背後に何か嫌な気配を感じた。
「っ!?」
それに気づいた俺は、慌てて振り向くがそこには誰もいない。気のせいだろうか?
「気のせいだと思うかしら?」
「なっ!」
ほんの一瞬の出来事だった。俺な声に気づき再び振り返ろうとした瞬間、何かが俺に触れたのは…。
「こ、これは…」
俺の頬に触れたのは、優しい何か。触れられた瞬間、俺の身体中の力が一気に抜けた。
「ふふっ、あの子達の父親って聞いたから、どんなもんかと思ったら、この程度のものなのね」
「おまえ…は誰だ!」
力なく俺が叫ぶと、暗闇の中から一つの影が現れた。それを見た俺は驚きを隠せずにいた。何故なら…。
「何で…こんな所にエルフが…いるんだ?」
その人物が、ルシア達と同じエルフ族だったからだ。ルシア達がいるのも普通ではないが、他のエルフが俺達の世界にいるとは聞いた事がない。
「そんなの決まってるわよ。私はあの子達を追ってここに来たんだもの」
「ルシア達を…追ってだと? お前は一体何者なんだ!」
「私? 私はね…」
彼女は俺を見下ろしながら高らかに名を告げる。
「私はあの子達の母親、ルナよ」
「ルシア達の母親…だと」
「私はあの子達を連れ戻しにやってきた。この世界はあの子達には合わない。あなたが父親という事もね」
「連れ戻しにやって来たって…ルシア達は親の許可を得ずに来たの…か?」
「許可を得ないというよりは、勝手に出てったのよ」
「それってつまり…」
「そう。家出よ」
家出
世界をまたがった家出なんて普通はしない。という事は、大胆な家出をするのは何かしらの理由があるのかもしれない。それを連れ戻そうとする母親、二つの間に何かしらの確執があるという事か…。
「あの子達がどうして.あなたを父親として扱っているのかは分からないけど、本人に会えたなら話が早いわ。あの子達を私の元に返してくれないかしら? そうしたらそれなりのお礼はさせてもらうから。勿論返すつもりがないなら、この場で奪わせてもらうわ。あなたの命も、あの子達も」
弓矢を俺に向けながら言うルナ。
ルシア達を母親の元へ返す、いつかは来る運命とは分かっていたが、こんなにも早く来るとは…。
でもこんな無理矢理な形なら答えは決まっている。
「そんなの嫌に決まってるだろ」
「なっ! あなたはこんな状況でよく言えるわね」
「ルシア達は帰りたがっていない。なら無理矢理帰すという選択肢は間違ってる。そっちがその気なら、勿論俺もそれなりの対応させてもらう」
全身に残っている僅かな力を使って立ち上がる。
「な、何で立ち上がれるのよ」
「あいつらを奪う気なら、俺は命を張って守らせてもらおう」
続く




