‐Ⅵ.自分探しの旅って言うけど旅なんか出なくてもお前はそこにいるんだぜ‐ 5
「天壌紅炎圏ッ『オーバーロード』! 赫々紅蓮王、八束獅子!」
変身したセラフは大技を繰り出した。呼び出された炎のライオンは、ヨキのすぐ後ろに控えて獰猛に喉を鳴らす。
前面に出たヨキは、まるで炎の化身を従えているようだった。
「一刀・二拌ッ、『不抜』!」
迫っていた化け物をヨキが力技で跳ね除け、セラフの呼んだ凶暴な獅子が豪快に薙ぎ払って適当に喰い散らかす。見えないはずの背後から駆けめぐる炎の攻撃をヨキはすらりと躱して、孤立した敵を素早く確実に、連続して叩いていく。
見事なまでに息の合った連係プレーだった。
セラフはもうダメージから立ち直っていた。見ればけねぁもすっかり回復していて、それを確認すると正義の味方はいよいよ戦場を縦横に駆けめぐった。
「まずはここの敵を一掃するぞ」
「さぁ~ポチ、行くわよぉっ!」
化け物は足の遅さが唯一にして最大の弱点だ。足さえ回復すれば捕まることはまずないだろう。けねぁは足手まといにならないように注意しながら、自分の足であとに続いた。
ともすればその公園は、冗長なほどの広さだった。それなのに、その端から端まで見るもおぞましい姿の化け物がところ狭しとひしめいている。
見ていて気持ちのいいものではなかったが、セラフとヨキの刃はいつになく冴え渡っていた。
「結構やるじゃない!」
「貴様のほうはどうやらBGMがないと本調子が出ないようだな」
「ぐっ、この。せっかく見直してやったのに、カワイクナイわね」
「悪の総統がかわいくなったら世も末よ」
「一理あるわ」
そのとき、公園からあふれた化け物が階段を降っているのに気づいた二人。
街が襲われたら一大事だ。わずかな目配せの後、ヨキはそちらへ転進して化け物を飛び越え、一群の前に立ちはだかった。
ほんの一瞬、足だけを残して完全に敵へ背を向けるような、居合いにしては深い構え。
長身が小さく見えるほど、極限まで引き絞った。
「一刀・八威、『弧月』!」
無風にして無音。鞘に刀を納める音だけが、刀を抜いた事実を語った。
刀を抜く挙動すら目に映らない超高速の絶技だ。
刀のリーチをはるかに超えた、十メートル近い間合いを剣閃の残光が走っていた。捉えられた敵は、一瞬の後には一刀両断に斬れ落ちる。
期待どおりやってのけた階下の男に、セラフは心の中で喝采をあげる。声にするより、自分の役目を果たすことで応えることを選んだ。
逆手に持ち替えた剣を地面に突き刺す。
「ロード、炎獄華蓮陣――」
地面に赤い光条が走った。中心から渦を巻く魔法陣のようなそれは、領域に踏み込んできた敵を火だるまにしてしまう。敵だけを焼く無慈悲な炎が飛び火するように燃え上がると、朝焼けよりも眩しく公園を照らし出した
「はぁぁぁっ……! マーゼラス=フレアぁっ!」
さらに闘気をこめると魔法陣は領域を拡大していく。
数秒もすると、見える範囲の敵はすべて炎に包まれていた。
「っかしいわねぇ。司令室にぜんぜん繋がんない」
息を切らして、やや苛立ちながらセラフは手首の通信端末を口から離す。
「で、あんたは何を知ってるわけ?」
戦いを通して打ち解けたように見えたセラフだったが、全く減った気がしない敵を前にして不満が再燃したようだった。汗を拭って剣を握りなおす。
ヨキは刀の切っ先を地面に向ける構えから微動だにせず、肩越しに振り返ることもしない。日が昇り始めた公園で彫像のように固まり、しかして鬼気迫る闘気を放って清冽とたたずむ。
その背中をけねぁが切実な目で見つめていた。
「ヨキ伯爵。あなたは異界の」
「けねぁ?」
敵で手一杯のセラフだったが、落ち着かない様子の仲間に気づいた。
けねぁはためらいがちに言葉を継ぐ。
「いえ、四次元の王――」
そう漏らす彼女を、セラフは訝しげに見る。そしてハッとなった。
「それって確か赫機関のデータベースにあった……!」
けねぁはためらいがちにうなずく。
「……」
沈黙が、重い。セラフは自分の予感が的中していたことを、嫌々ながらも認めるざるを得ないことを悟った。ヨキだけじゃない、けねぁもまた何か重大な秘密を抱えているのだと。言葉の意味を求めてけねぁの顔を見つめる。
けねぁは真実を話すことにどれだけ大きな覚悟を秘めているのか。それが感じられたセラフは、腹の中に起こった衝動をこらえて口を引き結んだ。目の前の敵を斬り捨ててから距離をとる。
「時間を渡ることができるから、伯爵は今日この街で何が起こるのかを知っていたのね」
「貴様はひとつ勘違いをしている。私は王ではない」




