‐Ⅰ.魔王は勇者がいなくてもなれるけど勇者は魔王がいないとなれない‐ 6
セラフはマニアックなわけの分からないやり取りには取り合わないようだ。
「法には引っかからないけど毎度通報されるアンタには嫌気が差してたの。警察の職務質問をのらりくらりとかわすようなやりとりも今日でおしまいよ」
年の割には引き合いに出した例が通好みだが、言いえて妙な喩えだった。
「こちらも週に一度のペースで因縁をつけられるのはそろそろ終わらせたいと思っていたところだ。毎度通報されると言っておきながら、出てくるのは日曜日ばかりではないか。サボタージュを自ら白状するなど墓穴を掘ったな」
「こっちは学生よ! 部活動だって忙しいの! アンタみたいな無職と一緒にしないでくれる!? ってか土日だけ大人しくするのはやめて!」
「フッ、私を無職と言うか? 失礼な言い草だな。無限会社イクナイ並びに秘密結社イグナイトの活動資金は皆様の善意によって賄われております」
「何でNPOぶってるのよ。無職でしょ無職」
「ご寄付のお振り込みやお問い合わせはご覧の――」
「出るか!」
胸の辺りに出るはずの見えないテロップを指差したつもりのヨキだったが、にじり寄るセラフに早々に否定されて気分を害した。
「そろそろ戦い始めないと、時間的に終われないわよ」
「番組の尺の話は置いとけ。さはされども、だ。後ろの者たちは何のために現れたんだ」
「さぁ。番組改編を乗り切ったから、てこ入れじゃない? よく知んないけど」
とんでもないことを言い出す彼女は、きっとどこまで内情を知ってもあまり興味を持たないのではないだろうか。
「……スポンサーの意向もありそうだな」
うまく誘導すれば知っていることを全て暴露するような気がして、洗いざらい吐き出させようか、などとどうでもいい計画がヨキの頭をよぎった。
だが今はとにかく窮地を脱するのが先決だ。彼は大きく息を吸い込むと、再度わざとらしく驚愕の声を上げた。
「ふぅっ……あぁっ!? あんなところにミッ○ーが!」
「はいはい」
セラフはもう微塵の動揺もせず、気にせず剣を構える。しかし、
「ゆ、遊園地にミッ○ーが!? 敵地で息抜きなんて、命取りになりますわよ!?」
最初に現れた白髪の一番小さな少女が一人だけ反応していた。
「あっ、ダメ!」
「フハハハッ! 油断したな!」
セラフが叫ぶがもう遅い。
ヨキはよそ見をする少女の背中側を疾風のように駆け抜け、そのまま逃走した。
「ハッハッハッ! 貴様ら、首を洗ってヨキ伯爵の次回作にご期待ください!」
「それこそ終われるかー!」
懸命に追いすがるセラフだったが、ぐんぐん距離が離れていく。逃げ足が一級品なのは間違いなさそうだ。
「くっ、なんて足の速さなの! 待ちなさいって――言ってるでしょッ!」
彼女は急ブレーキと同時に剣を両手に握りなおし、横に寝かせて水平に振りぬく。
「天壌紅炎圏ッ『オーバーロード』!」
「ッ」
十メートル以上離れているのに肌の焼けるような熱さを感じたヨキは、走りながら振り返った。そして死ぬほど後悔した。
汗が滝のように流れるのに、悪寒に背筋がざわめく。
「え?」
「赫々紅蓮王、八束獅子!」
セラフがライオンをかたどった超巨大な炎の塊を従えていたのだ。見上げるほどの大きさのそれは、ちょうど隣にあったメリーゴーランドと同じくらいの背の高さだった。
「え?」
思わず足が止まる。
世界がスローモーションになった気がした。すぐにまた駆け出したはずが、一向に前へ進めないのだ。
ゆっくりと時が流れる世界で、セラフの言葉だけやけに明瞭快活に聞こえた。
「よくもまぁここまでコケにしてくれちゃって。あなたにもご褒美をあげなきゃね。 ポチ、存分に喰らい尽くしなさい!」
それはまさに、死の宣告だった。




