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気象予報士 【第2.5部】  作者: 235
Ice Cream with My Sweetie
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Ice Cream with My Sweetie

「あつい、よぅ・・・」

 隣を歩いていた緋天が呟く。

 時刻は午後二時。雲ひとつない空と、強烈な日差しが、彼女の体力を容赦なく奪っていた。

「緋天!? 大丈夫か?」

 ベースに辿り着くまでの、わずかな道のり。炎天下の駐車場から、街中を通り抜けなければならない。信号待ちをしている間に眩暈に襲われたのか、目をつぶった緋天がふらりと自分の方へと傾く。こんな猛暑の中を歩いている人間は少なく、彼女の苦手な人混みでないことだけが救いだった。

「うん・・・アイス、食べたい・・・」

 スクランブルにする必要が本当にあったのか、無意味に思える交差点。

 ただ信号を待つ時間が長くなっただけではないか、と内心毒づきながら、最近舗装されたばかりの歩道を緋天の手を引いて歩く。

 ここ最近、全く食欲を示さない彼女が何かを食べたいと口にしたのは嬉しかった。

 緋天の母親も、家に送り届けた際に心配を言葉にする。何でもいいから、自分が何かを口に放り込めば食べられるのではないか、などと、少々冗談まじりに。

「・・・う~」

 泣きそうな顔をしながら、熱気を放つ道を進む彼女。ようやくアーケードへと入って緋天の表情も和らいでいた。

「緋天、ここで買ってくぞ」

「うん」

 途中でコンビニを指差すと、彼女が嬉しそうに微笑む。

 冷房の効いた店内で、少し元気を取り戻したらしい。

「どれがいいんだ?」

「えっとね、えーと・・・んー・・・」

 商品に目を移して、小さく首を左右に動かすその仕草が可愛い。などと、別のところから緋天を観察している自分に気付く。

「・・・これ! 蒼羽さんは?」

「ん、・・・ああ」

 緋天の中でどんな選択が行われていたかは分からないが、彼女の手にした小さなそれをカゴに入れる。微妙にパッケージの写真が異なる、同じ企業の同じシリーズだと思われるものも、全て放り込んで。

「え・・・? そんなに???・・・ありがとう」

 目を丸くする緋天を連れて、レジへと向かう。保冷剤を入れるかと聞いてくる店員と、のんびりとその横で商品を袋に入れる店員。夏季休暇中の学生の臨時店員だとおぼしき彼らが、緋天を品定めの目で見ていた。それに苛立ちを覚えて。

「緋天」

 レジの背面に貼られたポスターを眺める緋天の腰を引き寄せる。

「・・・戻ったら食べていい?」

「ああ」

 男の視線へと緋天を向けないように、こちらへ意識を向けさせると。

 小首を傾げてこちらを窺う。それに暑さではないところで眩暈を覚えた。今すぐ口付けたい程に。


 それを見られていなかっただろうか、と半ば妙な焦りに支配されながら、ようやく清算を済ませて店を出た。買ったばかりのその菓子が、楽しみで仕方ないのか、緋天の手を取ると嬉しそうに繋いだそこを揺らしている。

「お帰りー。緋天ちゃん、大丈夫?」

 ベースに入ると、ベリルが少々心配そうに寄ってきて。

 こくりと頷く彼女を確認する。冷やされた室内の温度は、緋天の動ける要素。

「あ、蒼羽それ何?」

 目敏く手元のビニール袋を取り上げたベリルが、その中身から消費者に気付いた。

「ふーん、蒼羽が買ってくれたのか・・・良かったね、緋天ちゃん」

「はい」

 にやにやと笑うそれから目を逸らして、緋天をソファへ。

「じゃあ、早速頂こうねー。緋天ちゃんはどれ?」

「イチゴのー」

「蒼羽はどれでも良くてー、お、よし、これにしよう」

 大量の似たようなパッケージから、素早く目的の品を取り出したベリル。スプーンと一緒に移動すると、緋天がこちらの手の中を興味深げにのぞきこむ。

「・・・蒼羽さんはアーモンド?」

 食べたがっていたその蓋を開けながら、緋天の首が傾く。

「どんな味???」

 興味の対象はそこか、と一瞬遅れて理解した。いただきます、と聞こえた後に、その唇に笑みが浮かぶ。どうやら選んだそれに満足したらしい。彼女がもうひと匙、口の中へとスプーンを運ぶ。

 にこにこしながら食べる緋天につられ、自分も味の違うそれを食べる。正直、嬉しそうな彼女を前にして、味などどうでも良かったけれど。

「・・・食べるか?」

 すくった薄茶のそれを、緋天の口元へと差し出した。

 どんな味だ、と聞かれたから、そうする事に疑問は覚えないだろう、と。

「ん」

 少しだけ恥ずかしそうにしながらも、素直に口を開けた緋天。

 その光景が、自分の差し出すスプーンをくわえる光景が、たまらなく脳を痺れさせた。

「・・・えっと、蒼羽さんもいる???」

 しばらく煩悩に囚われていると、緋天がこちらを見上げている。その手に、彼女のそれをすくったスプーンを持って。

「・・・、ああ」

 じっと見上げられて、何をどうしろと言うのだろう。断る理由などなかったから、口を開けた。

 頬を染める緋天のその唇に口付けたいのに、舌の上に広がったのは、また別の甘い味。

「うっわ、悪い事考えてるね~」

 行儀悪くソファまで歩きながら食べていたベリルが、上から余計な一言を放つ。

「うるさい」

「緋天ちゃん、私のも食べる? キャラメル味だよ~?」

「・・・う、あ、いいです」

 いちいち神経を逆撫でする行動を取るベリルを睨んで、ついでに、緋天に食べるなと目線を送る。彼女がこの自分の邪まな気持ちに気付いていないか、それも心配ではあったが。

「もう、しょうがないねぇ。ほら、これならいいでしょ?」

 ベリルのスプーンから、緋天の持つカップへと落とされたそれを見て。嬉しそうにした緋天を見逃さない。ただ単に違う味が食べたかっただけなのだろうが、何となく嫌だった。

「・・・緋天」

「んっ」

 半ば無理やり自分のそれを、緋天に食べさせる。

「・・・美味いか?」

「うん」

 嫌がらずに、笑みを浮かべるその表情。普段ならこの辺りで恥ずかしさに負け、涙を浮かべていたかもしれない。それなのに、こうして自分の手から食べるという事は。

「あ~、今日は食べられちゃうね」

「???」

 傍で彼女の様子を見ていたベリルが、またも余計な事を口走って。それに気付かず、緋天は口を開ける。スプーンを口に運ぶ。



 全てを食べ終わった後、洗い物をするベリルを横目に緋天を廊下へ連れ出して。


「んっ、っっ、ぁ」

「・・・甘いな」


 今夜の味見に緋天の口内を味わった。

 明日は平日だけれど、我慢がきくはずがない。あれだけの片鱗を見せられたら。


 暑さの苦手な彼女を、喜ばせるものを見つけた気がする。

 同時に、自分も楽しませる物体。


 アイスクリームと、緋天。

 また今夜も与えてみようか、とそう思った。


END.


エロしか頭にない、

暴走思春期状態な蒼羽を書きたかったんです(´A`。)

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