【小話1後編】(オリビエの)嫉妬渦巻く親善試合
リリィと別れた後、オリビエは足早にアーサーの元へ向かう。親善試合の事は聞いていたし、今回は観戦側に回ろうと思っていたのだが、リリィが出場するとなれば話は別だった。
「アーサー君、ちょっと良いかな?」
平静を装って声色は穏やかだったが、どこか棘のある言い方だった。
「あれ?オリビエじゃん、どうしたん?」
そんな空気など意にも介さず、アーサーは気さくに振り返る。
「リリィを親善試合に誘ったんだって?」
オリビエは爽やかに微笑んだ。しかし、その目だけは笑っていない。
「折角だから私も出ても良いかな?」
「おぉう、どうした急に?」
じわりと滲む圧に、アーサーは思わず後ずさる。
「君も覚えているだろう?私は交流戦で副将を務めていたんだ。その私を誘わないというのは、どうなのかな?」
有無を言わせぬ笑顔に、アーサーはあっさり白旗を上げた。
「お、おぉう。わ、分かった」
その一部始終を遠くから眺めていたエリオットは腹を抱えて笑いそうなのをグッと堪えていた。
「リリィと一緒に居たいからって・・・」
――
そして迎えた親善試合当日。
出場メンバーは、アーサー、グレッグ、アリア、オリビエ、そしてリリィの五人。形式は交流戦と同じで、対戦相手も、あの交流戦と同じ面々だった。
「オリビエも参加するんだね。オリビエ強いから、安心だね」
屈託のない笑顔を向けるリリィに、オリビエは爽やかに答える。
「ああ、やはり私の力が必要みたいだからね」
(それに、リリィにカッコいい所を見せたいし)
不純な動機は、しっかり胸の内にしまっておいた。
先鋒を務めたのはアリアだった。華麗な身のこなしと水魔法で相手を翻弄し、見事に勝利を収める。
「アリアさん凄い!水魔法を、自分の手足みたいに扱ってる」
リリィは目を輝かせて感心しきりだった。
続く次鋒はグレッグ。交流戦では意表を突かれて敗れた彼だったが、今回は堅実な戦い方に罠を仕掛ける搦め手を加え、きっちりと勝利をもぎ取った。
「ほよ〜、グレッグさん。前と戦い方が変わった!」
嬉しそうに笑うリリィに、グレッグも少し照れくさそうに頭を下げる。
中堅はアーサー。怒涛の攻撃魔法で相手を防戦一方に追い込んだかに見えたが、攻め続けた末に魔力が尽きてしまう。その隙を突かれて一撃を受け、敗北となった。
「ほよ、アーサーさん。残念だったね」
肩を落として見送るリリィの横で、アーサーは「ガス欠だぁ・・・」と頭を抱えていた。
そして副将戦、オリビエの出番だ。
「少し、本気を出してリリィにカッコいい所を見せよう」
小さく呟くと、オリビエは氷魔法で試合場全体を覆い、相手の動きを封じ込める。そのまま氷の槍を放ち、鮮やかに勝利を決めた。
「ほよ〜、流石オリビエだね!」
拍手をしながら駆け寄るリリィ。
「カッコよかったよ」
満面の笑みでそう言われた瞬間、オリビエの心臓が大きく跳ねた。
「あ、ああ。ありがとう。君にカッコ悪い所を見せたくなかったからね」
平常心を装って答えながらも、内心は穏やかではなかった。
――
そして大将戦。
リリィの前に立ったのは、本来であれば交流戦で戦うはずだった相手、メルジオだった。
「先日の交流戦では、大変申し訳なかった」
メルジオは紳士的に頭を下げる。
「まさか、私になりすまして貴女を襲う輩がいるとは・・・」
「あ、いえ。あれはメルジオさんも被害者ですから、お気になさらず」
リリィが慌てて首を振ると、メルジオは穏やかに微笑んだ。
「お気遣い感謝します。『救世の魔女』殿」
「――!」
その呼び名に、リリィの頬がほんのり赤く染まる。四賢者になってからというもの、その二つ名で呼ばれる機会はまだ少なく、くすぐったくも嬉しかった。
(リリィが、メルジオ殿と嬉しそうに話してる・・・)
その様子を見つめるオリビエの胸中は、穏やかとは程遠かった。少し、いや、かなり嫉妬していた。
そんなオリビエをよそに、大将戦が始まる。
「貴女と相まみえる事、嬉しく思います」
メルジオは開始早々、全力で魔法を構築した。氷、雷、風――三つの魔法の同時発動である。二つ扱えれば秀才、三つで天才と呼ばれるこの世界において、まさに大将にふさわしい実力だった。
(ほよ〜、流石、大将に選ばれるだけあるなぁ)
感心しながら、リリィは氷、雷、風、そして炎の魔法を構築した。
「――!」
メルジオが目を見開く。
「まさか、私の三つ同時発動を超えるとは。流石ですね」
冷や汗を浮かべつつも、メルジオは魔法を放った。
「メルジオさんも、充分凄いですよ」
リリィも魔法を放つ。それぞれの魔法が正面から衝突し、次々と相殺されていく。しかし、手数で勝るリリィの魔法が最後にはメルジオを捉え、勝負は決した。
「流石です。魔法使い冥利に尽きますね」
起き上がったメルジオは、すっとリリィの手を取った。
「ほよ!?」
戸惑うリリィ。間近で見るメルジオは、オリビエとはまた違う方向に整った顔立ちをしていた。
「貴女の力、私の学院に欲しいくらいです。どうでしょう?」
「え?あ、えっと・・・」
勧誘の言葉にしどろもどろになるリリィの前に、すっと人影が割り込んだ。
「うちの学院の生徒を勧誘されては、困りますね」
オリビエだった。メルジオの手を丁寧に、しかし確実に引き離す。その目は、まるで笑っていなかった。
「リリィはうちの生徒ですので、ちょっかいを掛けるのは、辞めて頂いても?」
そう言うと、オリビエはごく自然にリリィの肩を抱き寄せた。
(ほよ!?)
リリィの心臓が、バクバクと音を立てて暴れ出す。
(何でこの人はこんな事をスマートに出来るんだろう・・・)と思いつつ、親善試合はマクスウェル魔法学院の勝利と言う形で幕を閉じた。
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