【小話1前編】男の嫉妬は見苦しい
ブラックモア公爵の悪事を暴き、学院に迫る災害級の魔物の群れをたった一人で討伐した事で四賢者に就任したリリィは学院では知らない者は居ない存在となっていた。
何せ史上最年少で四賢者になったのだ。皆が尊敬の眼差しを向け、リリィは少し恥ずかしそうにしたりする。
しかし、四賢者になった事でリリィの生活が激変する事は無くマクスウェル魔法学院の生徒として朝は寮の食堂で賑やかに朝食をとり、授業を受け放課後は友達と笑い合う。そんな普段通りの日々はリリィにとって何物にも代えがたい、かけがえのないものだった。
――
「割とまともに、威力を抑えられるようになったわね」
昼食度の食堂の一角で、ロナが紅茶を片手に言った。
「そうね、以前よりは良くなっているわ」
ふふっと笑みを零しながらミリアムも頷く。
「後は魔力操作で魔力出力を0.01まで絞れば・・・他の人と同じくらいにはなるはず」
ティオが自前の魔力観測用の魔導具を見ながら分析している。
「今日は頑張ったんだよ」
えへへ、とパンを頬張りながら言うリリィにロナは呆れ半部で言った。
「リリィ、抑えられるようになったって言っても壁に穴を開けてる事実は変わらないから・・・」
「ほよ、でも術式を組まずに魔力をそのまま放出するのは得意になったよ」
笑顔で言うリリィだが、それはブラックモア公爵の刺客との戦いで魔法術式を阻害されて魔法が発動出来ない状況で使った手段であり、本来そんな事は推奨されていない。
「貴女・・・そんなの得意になっても自慢にはならないから・・・」
ため息をつきつつロナが言う。
四賢者になっても、リリィは相変わらず施設を破壊してしまう問題児だった。ただ、入学当初に比べれば随分とまともになり、その回数は着実に減りつつある。
周囲の生徒たちの反応も、様々だった。
「リリィ、今日は壊さなかったらしいぜ」
「マジ?明日、雪でも降るんじゃね?」
「四賢者になったリリィちゃん、可愛い・・・」
聞こえてくる声に、リリィは「ほよ?」と首を傾げるばかりだった。
――
「よう、四賢者さま」
リリィに不意に声をかけてきたのは、赤みがかった髪の少年だった。
「ほよ?」
誰だろう?と首を傾げるリリィに、少年は呆れたように肩をすくめる。
「おいおい、忘れちまったか?俺だよ俺、アーサーだよ」
「・・・あっ」
ぽん、とリリィは手を打った。魔法交流戦で先鋒を務めた、あの先輩だ。
「アーサーさん、どうしたの?」
「いやぁ、今度、魔法戦の親善試合をやるんだけどさ」
アーサーは頭を掻きながら言う。
「リリィ、出てくんねぇか?」
アーサーの話では前回の魔法交流戦では相手校の大将がブラックモア公爵の差し金で別人が大将に成り代わりリリィを襲った事で無効試合となってしまった。その代わりとして今回の親善試合をガルシアが相手校であるロラカント魔法学院の学院長に打診したのだと言う。ロラカント魔法学院長も乗り気で、今から既に闘志を燃やしているのだと言う。
――
そんなリリィとアーサーのやり取りを、オリビエは遠巻きに見ていた。リリィが他の男子と話している。別にアーサーにその気が無いのは分かっているのだが、何だか胸がチクリと痛む。
(リリィ・・・アーサーと楽しそうに話してる・・・)
「嫉妬か?」
「――え!?」
隣でエリオットがニヤリと笑っていた。どうやら、また声に出てしまっていたらしい。
「え、あ、いや。そういう訳じゃ・・・」
取り繕おうとしても、無駄だった。何しろ、オリビエ自身が、これが嫉妬であることをはっきりと自覚してしまっていたのだから。
アーサーが立ち去ったのを見計らい、オリビエは、何でもない風を装ってリリィに歩み寄った。
「リリィ、アーサーとは何の話だったの?」
あまりにも直球な問いだった。ロナ達はオリビエがアーサーに嫉妬してると見破り苦笑いしている。
しかし、そんな事を一切気づかないリリィは笑顔で言う。
「私ね、今度の親善試合に出る事にしたよ!」
楽しみと言いパンを頬張る。オリビエの心配なんてなんのそのだった。
屈託なく笑うリリィに、オリビエは安堵と、ほんの少しの複雑な気持ちを抱えながら、「そうか」と微笑み返すのだった。
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