プロローグ
一度目の婚約者候補は私の初恋の人だった。
望んでいた縁でとても嬉しかった事を覚えている。でも、相手のエドワード・シュナーベル侯爵令息。
でも、その縁は突然断ち切られた。
いわゆる王族からの圧力で。
年頃になるロクサーヌ王女殿下が護衛騎士でもあったエドワードとの婚姻を強く望んだからだ。
ロクサーヌ王女が生まれた時王妃はそのかけがえのない命を落とされた。
その為国王陛下はロクサーヌ王女をことのほか溺愛している。
王女ののぞむことならどんな事でも叶えてやりたいと思うらしく、幼いころからロクサーヌ王女は何でも思い通りになる環境に置かれて来た。
そのせいか、年頃になり興味が異性に向くようになると厄介になって行った。
そばに置く教師、護衛騎士、側近や侍女もすべて自分のお気に入りを置かなければ気が済まなく、万が一にもそれに異論を唱えようものならすぐに泣きわめくか、父である国王にそのものがいかに自分を虐げたか嘘の話をして何の罪もない人間を奈落の底に突き落として来た。
そんな事が重なるともうロクサーヌ王女に逆らうものはいなくなった。彼女は自分の思い通りになるものをそばに置き何時でも何でも思いつくまま好き放題を繰り返した。
そしてエドワード・シュナーベル侯爵令息もその被害に。
ところがエドワードは王女の婚約者になる事を拒む代わりに隣国ニルブラ国への外交官任務を受けてこの国を後にした。
私は彼にそんな激しい熱情を抱いていたわけではなかった。
でも、彼との婚約話がなくなった事。
彼がこの国からいなくなった事に深く気持ちが沈んだのは確かだった。
そして私はルキアス・モリバート伯爵令息と婚約をすることになった。
彼は身なりも整って礼儀正しい人だった。顔立ちも端正で少し甘い雰囲気に少し安心した。
でも、時折見せる仕草や目くばせにはどこか甘えが残っている気もした。
まあ、私がそんな事を言えるほど完璧な人間でないことはよくわかっている。人のことを言えるほど自分が秀でた女性ではないと思っている。
そんな状況の中半年ほどで婚姻をする事になった。
ルキアスは5歳年上である程度仕事も出来る男だったし特に問題もなかった。
両親は彼の結婚を期に彼に爵位を譲り領地に下がった。
ただ婚姻を急いだのは我が家が出資した商会の運営が破綻してモリバート伯爵家にかなりの負担をかけ婚姻を急かされた。
私が個人管理する事になっていた商会や持参金がモリバート家へ譲渡される形で嫁ぐことになった。
つまり私は身ぐるみはがされた状態での婚姻となった。
そうは言っても夫婦関係は悪くはなかったと思う。
最初のうちは夫婦としての関係もあり仕事も真面目にやっていると思っていた。
あからさまに私を嘲ることもなく使用人も優しかった。
だが、彼は友人の誘いに弱く、それでいて自分の事は種に上げて私に理解を求めるのがうまかった。
さらに言えば従姉妹のセシリーナからの呼び出しには何を置いても駆けつけた。
それに一言いえば、君ならわかってくれると思っている。やっぱり君は頼りになるよと。
これが彼の常套句だとも気づかずに。
何でも言う事を聞く都合のいい女。
不満は漏らさずなんでも飲み込む優しい女。
優しい言葉を掛ければじっと待っている女。
扱いやすく出しゃばらない女だと。
夫婦になって3年。子供はまだいない。それは出来るはずもない。そのような行為は2年以上もご無沙汰なのだから。
それに次第に彼がやるべき執務もすべて私に回されて、気づけば屋敷のことから領地経営の事まで何でも私に任されていた。
彼曰く、君がいれば安心だと一言いえば終わり。
それにくわえて義母からは孫の顔が早く見たいと言うが、それは彼にも責任のある事ですと言い返せば、まあ!ルキアスは疲れてるのよ。そこはあなたがもっと気を遣うべきだとねじ伏せられる。
義父からは自分の頃より経営がうまく行ってないと責められたり、領主が領地に顔を出せないのは問題だと言われたり。
私だって何度もそう言いました。でも、ルキアスは私の話など聞く気すらないらしくそれを言えば私の要領が悪いからだと怒られる始末。
それは夫であるルキアスに言ってほしい。私に言われても出来ない事だから。
そうやって気づけば3年が経っていた。
それでも私はまだ信じていた。




