ミズキ特別教室
──進路相談室3前──
「着いたよ。」
彼女は「進路相談室3」と書かれた看板の下の扉を開けて私を通す。そこにはすでに7人の生徒がいた。何人か見知った顔がある。机椅子が8セット用意されていることから、私含めてこれで全員だと理解した。
「じゃ、空いてる席に座って。みんなに話すから。」
「……はい。」
正直言ってあんな鬼の言うことなんて聞きたくないが、他の生徒のことも考えて席につく。周りの人はすでに私と彼女に気づいていて、姿勢を改めている。彼女が教壇に登り、先生のように──いや、実際先生か。認めたくはないがやはり彼女の首からは教師の名札がついていて、生徒の制服も着ていない、まごうことなき先生だ。そんな彼女が躊躇うことなく開口する。
「おっけー。全員揃ったね。それじゃあまずは……みんな、ここ、『ミズキ特別教室』に来てくれてありがとう。」
彼女は一瞬で昨日の親しみやすい雰囲気に戻った。しかしもう昨日のように気を許すことはできなくて、やはり彼女を先生と見ることは難しいと感じた。でも周りの人の緊張は既に解けていることを見ると、やはり彼女は気配づくりが上手いのだろう。
「今日は初日ってこともあるし、まずは特別教室の説明と、書類作成、自己紹介をするよ。まあゆるーくやってこうかー。」
彼女は話しながら、指を鳴らした。と思ったら、気付いたら私たち全員の机の上に入部届が配られていた。
「じゃあまず入部届からやっていこう。ってのも実はこの特別教室、扱い的には部活なんだよね。だから私の言う通りに書いていってね。じゃあまず部活名は…」
こうして私たちは入部届を書き終えた。何か怪しいところがないか紙の隅から隅まで調べてみたが何も怪しいところはなかった。彼女も教師だし、流石に杞憂かな。
「じゃあ次はちょっとした説明していこうか。ちょっと真面目な話するよ。」
そう言った次の瞬間、空気が変わった。
「ここではみんなにそれぞれとあることをして欲しい。それが『自分の強さ』を見つけることだ。強さとは人それぞれなんだ。例えば、アスリートにとっての強さは技量や筋肉量だが、棋士の強さは思考力となるでしょう。そして、各々が『自分の強さ』を見つけることができれば、それから生まれる力は格段に『自分の力』になりやすい。まあ簡単に言えば自分を見つめ直してみようってこと。でもそう簡単にできるとは思わないこと。自分を見つめ直すことの過程で君たちは苦しみを乗り越えなければいけないからね。」
そう言い終わった後、彼女はいつも通りの雰囲気に戻った。
「そんな感じだね。まあみんな一年生だし卒業まで三年あるから、それまで気長にいこう。じゃあ次は…自己紹介していこうか。そうだねえ……じゃあクラスと名前、趣味や好きなこと、あと意気込みを聞いていこうか。アオイからお願いできる?」
そう彼女が言った後に立ち上がったのは水色の長い髪と瞳をしたしっかりとしていそうな女性だった。私たちの顔を順々にみるその凛とした姿がとても美しく見えて、まさに「委員長」といったような人だと思った。
「一年四組の水瀬アオイです。趣味は読書で、先生の話を聞いて、自分の力を扱えるように努力します。」
予想通りの透き通った声を聞いて私は少し安心する。クールなところがかっこいいと思った。
「じゃあ次はショウ!お願い。」
「はい!」
そう言われて元気よく返事をして立ち上がったのは薄い金髪で赤い瞳を持った男性だった。体格ががっしりとしていて、目つきが暖かい。短い髪が明るい雰囲気を加速させている。例えるなら「体育会系」ってとこだろうか。
「俺は夜吹ショウ!一年二組だ!夜吹だけどそんなに暗くはないぞ。みんなと仲良くすることが好きで、ここに来たからにはみんなと仲良くしながら強くなりたい!よろしく!!」
どうやらかなり性格と外見が一致している人が多いみたいだ。ショウは実際に明るい人だった。
「じゃあ横にずれてどんどん行こうか。次お願い。」
そう言われて立ち上がったのは銀色の長髪と紫の髪先のグラデーションがある女子だった。瞳の中に星のような模様があるのが珍しいと思った。アニメのキャラクターに似ていて、現実の人間かどうかほんの一瞬だけ見違えた気がした。
「私は一年一組の星崎ミサキ。趣味はアニメを観ることで、みんなと良い日々を過ごしていきたいと思います!よろしくお願いします!」
本当に容姿通りだな。太陽のような明るさではないけれども、決して暗い雰囲気は感じ取れなかった。次に立ち上がったのは緑色の髪と目をした男子だった。でも、雰囲気が全然ショウと違っていて、体格もリョウほどよくない。それに、どちらかというと周りを避けるような様子だ。
「……二組の嶺井リュウだ。趣味は…特にない。俺は速く強くなりたい。」
リュウの様子は何かに怯えているように見えた。気のせいだろうか?リュウの隣の生徒が立ち上がった。彼女に関しては知っている。明るい茶髪でリュウよりも明るい緑目をしている、優しそうな女性だった。話したことはないけれど、目つきが柔らかくて親しみやすそうだと思った。
「私は守山チハヤ。一年三組です。趣味は裁縫です。これから仲良くしてください。」
礼儀のいい人、というのが一番あっているだろうか?次は中性的な男子だった。チハヤよりかは濃い茶髪で、アオイよりもやや明るい青色の目をしていた。身長は……リュウと同じくらいだろうか?
「僕は森川カエデ。一組だよ。好きなことは……みんなと仲良くいることかな。声がちょっと小さいかもだけど、内気ってわけじゃないから話しかけて欲しいな。これからよろしく。」
軽く会釈をしてからカエデも座った。内気じゃない、なんて言えるのは羨ましいなあと思った。カエデが座ってから間も無く、私の前に座っていた女子が立ち上がった。水色と紫色のグラデーションのある髪を持っていて、どこかほんわりとした雰囲気をしている。
「私は蝶里ハナ。三組だよ。趣味は高校生っぽいことをすること!みんな、これからよろしくね〜。」
…..こんな人クラスにいたっけ?……いや、いたか。いた気がしなくもないけど……こんなキャラが濃い人、普通認知してるはずだけど……何でだろう。……あ、次私の番だ。失敗したくないな。大丈夫だよね?
『大丈夫だよ。自信持って。深呼吸して。』
お父さんがふと言ってくれたから、私は席を立って、みんなに話し始めた。案外緊張はしなかったが、だとしても第一印象は大事だと思う。
「私の名前は鏡月マオ。一年三組です。趣味は……友達と笑い合うことです。よろしくお願いします。」
そう言って私は座った。これで全員の自己紹介が終わった。
「よし。これで全員だね。今日だけで全員分の名前を覚えろなんて言わないから、少しずつ絆を深めていこう。こっちは入部届の処理するからみんなもう帰っていいよ。あ、でももしみんなと喋りたかったり自習したかったりで残りたいなら6時まではここにいていいからね。」
そう言って彼女はそそくさと部屋を後にした。
こんなクラスで大丈夫だろうか?かなり個性的な人が多い……この中で私は……生きられるかな?……と思ったところでドアがもう一度開いた。
「……あ!大事なことを忘れてた!『卒業』について話すから聞いて!」
そう言って彼女はもう一度教壇について真剣な目になった。そして黒板に字を書きながら説明を始めた。
「『卒業』について説明するよ。『卒業』っていうのはまあ……一種の承諾みたいなものかな?教室をを引退することじゃないよ。別に『卒業』することを義務付けられているわけじゃないけれど、ここではその制度を取り入れてる。とは言っても私が発案したんだけどね。卒業条件は2つ。『私に実力を認めさせること』そして、もう一つは『私を倒すこと』だよ。まあ私ってかなり強いからどちらかと言うと一つ目の方法がやりやすいかな。どちらにせよこれは3年間の最終目標になるからかなり厳しくなるよ。覚悟しといてね。」
彼女は少し間を置いて続けた。
「そして、何人かの生徒にはもう言ったけど……卒業報酬があります!!はい拍手!」
少し間が空いた後、全員が遠慮しがちな拍手をした。私も周りと合わせるために、一応小さく拍手した。
「その報酬とは……なんと!願いを一つだけ叶えちゃいます!あ、流石に世界の半分とかはだめだよ?でも、そういう物以外ならなんでもおっけー。物でもなんでもいいよ。」
これだ。私はこれでユキを蘇らせたい。でも、最終目標でこれか……かなり長い道になりそうだ。周りを見てみると、全員が顔をこわばらせて固唾を飲んでいた。
「じゃあこれで言いたいことは全部……だね。よし。じゃああとは自由で。私は忙しいからじゃあねー。」
そう言い残して、彼女はもう一度ドアを閉めた。もう一度周りを見渡してみると、何人かはまだ顔をこわばらせたままだった。……私、この中で上手く過ごしていけるかな…?
とりあえずここからは適当に不定期更新になります。好評だったら続きが早く作られる…かも?
一部修正しました。