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能力教室の号哭  作者: スペルナ
立てない子鹿編
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運命の分岐

 ──翌日朝・学校──



「浅野ユキさんが亡くなられました。」


朝の気だるさを吹き飛ばすような孤独と不安を抱えたまま迎えたホームルームで、先生がメガネを右手であげながら開口一番に話した内容は、私の息を殺すのには十分すぎた。


「警察からは殺人と判断されましたが、まだ犯人は捕まっていません。皆さんも気をつけて早く帰るように。まあ皆さんの能力は強力なので大丈夫だとは思いますが。しかし生徒が亡くなったことは事実です。今日からは明るい時間帯に3人以上の複数人で帰ってください。不審者に出会ったらすぐに安全な場所に駆け込み、警察に通報してください。」


まだ4月ということもあって、誰も涙を流すほど悲しんではいなかった。私は涙を通り過ぎて死んだように青ざめていた。人が死んだということに対しての重要性はみんな理解しているようで、決して雰囲気は良いものとは言えなかった。私は顔が真っ青になった。


「ではこれで今日のホームルームを終わります。号令。」


「起立、礼。」


他の人が「ありがとうございましたー」と暗い声で挨拶をした。しかし、数分が経つとだんだんといつもの雰囲気に戻ってきた。それを見て、悲しみの次に湧いて出てきたのは怒りだった。どうしていつも通りにできるのだろう?人が死んだんだよ?ユキは明るかったけれども、クラスの中心にいるような人物ではなかった。能力も周りの人をちょっと強化するだけで、使いやすいけれどもそれ単体では強い能力ではなかった。それでもユキは強かった。これまで私を含めて、周りを鼓舞していたことを知ってる。この県一番の能力進学校に一緒に進学してきてから、周りは「能力が弱い」という理由だけでユキを拒絶したけれど、それでもユキは頑張って周りと関わろうとしていた。でもその結果がこれだなんて……


「ひどい……!」


私は葛藤の末にでてきた気持ちを無意識的に呟いていた。もちろんそれを聞く人なんて誰もいなかった。私の感情なんてクラスの30人の会話でかき消されてしまった。でも、そんな行き場のない怒りよりもやはり悲しさが勝って、それ以上は何も考えられなかった。


『そんな悲しい顔しないで。私のことは気にしなくて大丈夫だから。仕方なかったんだよ。だから前を向こう。大丈夫。私はすぐそこにいるよ。』


「……うん。わかったよ……でも……」


「1時限目始めるぞー」


「起立、礼。」


「「「お願いしまーす」」」


お願い…お願いだから…帰ってきてよ…ユキ…



 ──放課後・廊下──



私の死んだような感情も葛藤も時間がだんだんと薄めていった。だとしてもやはり悲しさが残り続けて、私はのらりくらりと廊下を歩くことしかできなかった。


「おっ、昨日ぶりだねマオ。」


声でわかる。ミズキだ。でも私はミズキの言葉に答えることはできなかった。


「……」


「……ごめん。そんな感じじゃないね。辛かったよね……」


ミズキは咄嗟に私に謝って、私の頭を撫でた。この感じだとおそらく知っていたのだろう。だとしたらきっとあの態度は私を励まそうとしてくれたのだろうか。でもやっぱり苦しい。今は何を言われてもネガティブな方向に思考が進む。私は歩き始めて家に帰ろうとする。


「……ごめんなさい。今は……誰とも話したくないの……」


しかし、次に発せられた言葉は衝撃的なものだった。


「もしかしたらユキを生き返らせられるかもよ?」




多分これまでの人生の中で一番速く動いたと思う。私は進めていた足を止めて即座に振り返る。今日初めて見たミズキの目線は昨日とは一変してまっすぐと、力強く私を見つめていた。それを見て、私の瞳に生気が戻る。首には先生がつけている名札をぶら下げていて、その瞬間初めてミズキが教師だと言うことを知るが、そんなことは今はどうでも良かった。


「どういうことなの!!!」


これまた私は普段は絶対に出さない大きな声を出した。私の心臓の音がうるさい。ミズキはこれほどまで私が荒ぶるとは思っていなかったのか、少し躊躇う。はやく答えて。その方法を。


「ええっと……あ、そうだ。私の特別教室を『卒業』できたら、そのご褒美としてユキを生き返らせてあげる。どう?悪くない提案でしょ?」


ぐるぐると思考が巡る。あらゆる感情がごちゃ混ぜになって私の喉を締める。そんな私に理性なんてものは残っていなかった。私はこの時だけ、本心をぶちまける機械になっていた。


「蘇生はできるの!?」


「うん。できるよ。」


「じゃあ今!!ここで!!!生き返らせて!!!!」


「やだ。」


「なんで……」


「だから言ったじゃん。『卒業』のご褒美にするって。私はマオに特別教室に入ってもらいたい。マオは強くなって、ユキを生き返らせたい。利害が一致してるじゃん?」


「なんでよ……ひどい……お願い……お願いします……どうか……」


私の膝が廊下につき、体が前に倒れそうになったところをミズキが支える。依然として私をまっすぐ見据えている。が、徐々に落ち着きがなくなって来て、ミズキにも困惑が生まれてくる。しかしその後、何かを決心したのか、再びミズキの表情が真剣になっていく。


「はあ……仕方ない……そうやって頭を下げてても何も起きないよ。それに私は一切ひどくない。私は貴方を強くする。そしてユキを蘇らせる。マオから見たら良すぎる条件だよ。それにそれをするもしないも全部私がするの。主導権はもとより私にあるんだよ。いい?感情的になりたい時こそ理性を保ちなさい。そうじゃないと得られるものも得られないよ。」


「……」


悔しい。言い返せない。わかってる。認めたくないけれど、私が今しなければいけないことはミズキの言う通りにすることだと。正直うざい。きっとこの人もそうだ。人の命をなんとも思わないような人。でもこの人の発言は悲しいほど理にかなっている。冷静になってきた私がする判断はすでに一つに絞られていた。


「……案内してください。」


「いいね。ここでまだ喚いていたらどうしようかと思ったよ。」


「……申し訳ないですが、私は貴方が嫌いです。例え教師だとしても、私は貴方を見損ないました。」


「あぅ……それはごめんだけど……でもこう言う考えは大切だよ。どんなに嫌でも苦しくても、やらなきゃいけない時はあるから。……まあまだ残酷だったね!ごめんごめん。じゃあついてきて。早速行くよ。」


あははと笑う彼女を私はただ見ていることしかできなかった。彼女の言っていることは正しい。だからこそ私は彼女についていく。嫌でもこれが最善の選択になるはずだと考えることは簡単だった。目標は決まった。彼女に認められて、ユキを蘇らせる。だから待ってて。ユキ。

一部修正しました。

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