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異世界と私と銃とファンタジー  作者: 白築 える
アルゼン国での強敵
91/217

暴走馬車と追い立てる盗賊

一同は夜のキャンプに向けて周囲を確保していた。

リンは特大のドームテントを創造するとそれを組み立てている。


「あー。そっち引っ張ってー。」

「こうか?」

「アーム。もうちょい。」

「これでいいか!」

「おっけー。」


リンはスリーブを引っ張りながらポールを差し込んでいき、アームと一緒に持ち上げた。

これで一応形にはなったが、これでは風などで動いてしまう。

ハンマーを創造すると四隅にペグ(地面に刺す杭の事)を打ち付けていく。


「ふう。完成だね。」

「ああ。見張りは俺達三人でローテーション組むからリン達女性陣はいいぞ。」

「恩に着るのじゃ。」

「はいはーい!一緒に寝る時間が減るので俺はローテーションからはずしてくださーい。」

「却下。」

「そんなー。」

「いい?アラスが何かしてきたら股間を蹴りあげなさい。」

「アイリス、それはさすがにオーバーキルだ。」


イルミスがさすがにツッコム。

さすがにこれだけは聞いてるイルミスも痛い。


やがて日も暮れた頃、光源を確保できなかったイルミスたちはリンが出したLEDランタンを照明にしていた。

謎仕様により電源不要のLEDランタンだ。

これなら一晩中あたりを照らし続けることができるだろう。


「この辺はいつも燃やす物が無くて夜が困る。しかし、この明かりは便利だな。直視すると少し目が痛いが。」

「ああ、そうだな。これなら雨の日でも使えるな。」

「アームもテントに入って休んでこい。後次はアラスの番だっと言っておいてくれ。」

「分かった。」


その夜は襲撃も無く静かな夜だった。

イルミスは久しぶりの野宿だと思っている。

鈴が来てからあまり無茶なことはしていなかったからだ。


「(最後に野宿をしたのはドラゴン討伐以来か…シュナイダーは元気でやっているだろうか。それにしても鈴が来てから色々あったな。そういう体質なのだろうか…。)」



*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*


ルーツ国王都。


「それじゃ頼んだよ。」

「了解です!」

「いつも安くて助かるよ。今回の荷物は大重要なものだから扱いに気をつけてね。」

「大切に扱います!それじゃ行ってきます!」


そう言うと馬の手綱を握り馬車を急発進させた。


「相変わらず馬車の扱いが雑だな…荷物壊れなきゃいいけど…。」


そんな心配をしていた。


「うちのモットーは早い安い!冒険者なんて雇ってたら日が暮れちゃう!たとえ盗賊に襲われようとも逃げてみせるさ!わはははは!」


そんなことを口走りながら王都を全力疾走で出て行った。

そして一人の兵士が怒られる。


「こら!今身元検査しなかっただろ!」

「いや、しようにも止まらなかったから―。」

「うるさい!そこは体を張ってでも止めるんだよ!」

「そ、そんなむちゃくちゃな…。」

「減給だからな。」

「俺の給料ぅ…。」


減給させた当の本人は街道を爆走していた。


「私何かしちゃったけどまあいいか。目標はアルゼン!ゴーゴーゴー!」


*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*


翌朝。

相変わらず起きない鈴と飛鳥を起こしにかかるアイリス。

飛鳥には魔法の言葉。

鈴には昨日思いついた熱湯を掛けてみることにした。


「<蒼白の炎よ、燃え上がれ。水よ、炎と混じり熱湯となれ。ホットウォーター。>」


バスケットボールぐらいの熱湯が鈴の頭に落ちた。


「あつ!あつい!ぶるああああああああ!」

「<水よ。我が魔力を糧にここに集い水球となせ。ウォーターボール>」

「ぶふ!」

「目が覚めたかしら?」

「アイリス…!熱い!冷たい!」

「どっちなのよ。」

「アイリス殿!その起こし方はやめて欲しいのじゃ!妾のトラウマが…。」

「なら早く起きることね。」


騒いでいると外からアームが覗いてきた。


「ずいぶんと朝から騒がしいな。」

「アーム。二人共起こしたわよ。」

「よし。二人共準備だ。」


まだ眠いという顔の二人と、起こした一人の三人はテントから出る。

鈴はさっさとテントを消すと体を伸ばし、寝てる間に凝り固まった筋肉を伸ばしていく。


「うーん!今日も元気にいってみよー!」

「鈴、あの回る銃は禁止ね。」

「えー。」

「あれ使われると処理が大変なのよ。そうよねイルミス?」

「剣で真っ二つよりグチャグチャになるからな。」

「そんなー。」


そんな他愛もない話をしながら朝の準備運動をしていた鈴であった。

その後朝食を取り、アルゼンに向けて歩き出す。


半日ほど歩いていた時後ろから随分とうるさい音がこちらに迫ってきた。

それは大量の馬の蹄の音、ガラガラと馬車の車輪の音。

時折馬車を狙ったと思われる矢がこちらに跳んでくる。


そしてその馬車はイルミスたち一同を追い抜かし、さらには盗賊と思われる集団も追い越して行った。

アームは情報を仕入れるため最後尾についていた盗賊を薙刀の腹で地面に落としたのであった。


「いってぇ…何しやがる!殺すぞ!」

「それはこっちのセリフなんだが?この状況が見えないのか?」

「ちっ…。」

「で、お前らは何を追いかけていたんだ?」

「誰が教えるかよ。」

「鈴ちょっとこっちにこい。」

「はいはーい。」

「ここに少女が居るだろ?」

「そんな小娘がどうした。」

「こうするんだよ。(リンに変わって前やった拷問を頼む。)


「(了解。)



スズはリンに変わると殺気とやらを何となく出してみた。

本人は出ているかわからないが、盗賊は先ほどまでの余裕な顔が緊張した顔になっていることが分かる。

リンは針を創造するとイルミスたちが拘束している男の手を引っ張った。

加護のおかげでリンはとんでもない力が出せるため男が腕を戻そうとしてもピクリとも動かない。

そして人差し指を持つと針を近づけた。


「お前!まさか!」

「ふふ…。」

「や、やめ―うぎゃあああああああああああぁあああぁぁぁぁぁぁあ!!」


大男すら絶叫するこの拷問はとても痛い。

更にこの世界には治癒魔法がある。

リンは針を引き抜き、アイリスが治癒魔法をかける。

そしてまた針を刺す。

アームが再度質問を投げかける。


「お前らは何を追いかけていたんだ?」

「ひ…ひ…だ、誰が!教えるか!捕まればどうせ死ぬんだ!絶対言わない!」

「これはダメそうだな。」

「私にいい考えがある。」


そう言うとリンは一本の注射器とアンプルを創造した。

初めて見るものにイルミス達も何だそれは状態である。

この薬は体内に入ると思考力を低下させ、一種の催眠状態に陥る。

ここまで言えばわかると思うがこの薬はアモバルビタール、通称『自白剤』だ。

リンはアンプルから薬を吸い出すと少し押し、薬を出した。


「まぁ。副作用として死んだり廃人になるかもしれないけど。…死を覚悟してるなら別にいいよね。イルミス、きちんと抑えてて。」

「了解だ。」


リンは盗賊の腕を引っ張ると注射器の針をさした。

そしてピストンを押し、薬を注入していく。

自白剤を注射された男は次第に意識が、思考能力が低下し、すっかりおとなしくなってしまった。


「私が質問を出すよ。」

「分かった。」

「お前らは何を追いかけていたの?」

「……馬車…。」

「中身は?」

「………金貨。コロシアムの優勝賞金…。」

「誰から聴いたの?」

「…ルーツ国の貴族…。」

「もういいわ。」


リンは注射器とアンプルを消す。

脳に作用した薬が消えても男の状態は直ぐには戻らない。

何かしらの反応を起こした結果まで消すことはできないからだ。


「あの馬車にコロシアムの優勝賞金ねぇ。なんで護衛をつけてないのかしら。」

「それに裏には貴族がいるのか。とりあえずあの馬車を助けるべきだな。」

「それじゃあちゃっちゃっと行ってくるよ。」


リンはそう言うと乗り手のいなくなった馬にまたがり、それと同時に人格をスズへとチェンジする。


「後追いかけてきてください~。」


そう言いつつ馬を走らせた。


「俺達も後から追いかけるからなー!」

「聞こえたか?」

「たぶんスズには届いたと思う。」

「で~、この男どーすんのよ?」


男は薬の作用下にあり、イルミスの拘束から放たれ地面に倒れている。

はっきり言って邪魔である。

放置したら通った人が襲撃されるおそれもあり、そうでなくても盗賊と言う時点でそのうち何かをやらかすだろう。


「一思いに殺っちゃえばいいんじゃね?」

「…縛って端に転がしておこう。」

「アームもひどいことを言う男だな。」

「なんでもいいから早くしないと鈴に追いつけなくなるわよ。」

「そうだな。」


とりあえず男を縛り街道から退けるとイルミス達も駆け足で鈴を追い始めた。


*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*


「なんで盗賊なんかが馬持ってるのよ!こっちは馬車なんだから少しは手加減しなさいよ!」


盗賊に追われている女性は護衛もつけておらず、さらには大金を運んでいるのだ。

そもそもこの女性、一度も護衛をつけたことが無い。

護衛をつけると余計に重くなり、遅くなるからだ。

しかし、そんなに走らせていたら馬が持たないと思うだろう。

この女性が使っているのは二頭の普通の馬ではなく、ブルートフォースと呼ばれる手なずけられる魔物である。

肉食ではないので怒らせない限り襲われることはなく、さらに魔力を使ってのスタミナブースト、馬並の速度を出せる。

これで今まで盗賊などから逃げてきたのだ。

しかし今日は運が悪かった。

まず一つ目。

盗賊がなぜか馬を持っていた。

二つ目。

日ごろの無理が祟って車輪が外れてしまった事。

三つ目。

止まった位置が盗賊のアジトのすぐ近くという事。


女性は衝撃で投げ出され、地面に転がった。二頭のブルートフォースはおとなしくしているが後ろと横から盗賊に包囲されてしまった。


「ちゃんとメンテしとけばよかった…いてて。」

「もう逃がさねえぞ。」

「ひぃ!おたすけー!」

「連れていけ!」

「いーやー!」

「うるせぇぞ!」


そういうと盗賊の一人が短剣で左腕を切裂いた。


「いやあああ!」


痛みとショックから女性は気絶してしまったが盗賊にとってそれはとてもやりやすくなった。

なぜなら抵抗しないからだ。

女性を担ぎ、積み荷の金貨箱を抱えると馬を引き攣れ茂みの中へ入っていったのだった。


一方鈴はというと。


「どこまで逃げたのかな?尋問してたから遅くなっちゃったけど…。」

"尋問じゃなくて拷問だったけどねー。"

『同じようなもんよ。』

"違うと思うけど…。"


馬を走らせさらに五分後、やっと見つける事ができた。


「うわ。馬車こわれてるじゃん。車輪が外れたのかな?」

"そうっぽい。"


現場には車輪が転がっており、その後地面を擦った跡が残されている。

鈴は馬車を確認したが中には何もなく、ブルートフォースを操っていた者の姿もない。

もちろん鈴はブルートフォースや乗っていた人の性別を知らない。

鈴にとってブルートフォースは変わった馬だなー程度にしか見られなかった。

現場を見終えると周囲の探索を始める。

すると、草木に血が付着している物をみつけた。

その奥に進むと、一定間隔で血が林の奥に続いているのが見て取れた。

鈴は奥に進む前に人格(パーソナリティ)同調(シンクロ)で矢印看板を創造すると林の方向に刺しておいた。


『よし進もう』

“そうだね。”


鈴はM4を創造すると茂みの奥へと向かう。

なるべく音をたてないように身をかがめ、アシストも使用し足音を消す。

しばらく血を追って行くと集落のようなものがあった。

そこには先ほどの大量の馬と盗賊いる。


『どうしようか…。』

“まず人質を助け出そう。”

『盗賊は無視…だね。数がちょっと多すぎ。』

“いくら銃が強くてもこの数を援護なしに倒すのは無理だね。”


スズとリンが頭の中で会話をしているが、盗賊の数は約四十人から五十人に上る。

どこからこんなに集まったのか不思議である。

建物は派閥ごとに分かれているらしく隠れる場所はたくさんある。

これなら人質のいる場所まで行けるはずだ。


『M4は邪魔だな。コンバットナイフにしよう。』

“発砲音でばれちゃうからね~。”


スズは人格(パーソナリティ)同調(シンクロ)を発動させるとコンバットナイフを創造した。

それを構えると少しずつ身をかがめ集落へ近づいて行く。


集落裏の家に身を寄せると少しずつ移動し、家の角から顔を覗かせる。


『敵影なーし!』

“焦らず進もう。”


集落の隙間を通り進んでいく。

途中家の下の間から足がこちらに向かってくるのが見えた。

スズはすぐに家の下に潜り込むと、向かってくる盗賊をやり過ごす。


「あ~あ。見回りなんてしなくても侵入者なんてこねーよ。」

『いるんだなーこれが。』

“おまわりさーんこいつです!”


足音が遠ざかると家の下から這い出ておそらく人質がいるだろう奥の家に向かっていく。

しかし、奥の家の入口は集落の真ん中に向いている為正面からは入ることはできない。

鈴は入れそうな入口が無いか探していると、窓が一か所開け放たれていることに気が付いた。

自分ではギリギリ足りないと察すると、直ぐにリンに交代した。

リンはすぐに跳躍すると窓に手をかけ顔だけ中を覗く。

中には金銀財宝とどこからか捕まえてこられたらしい四人の女性の姿があった。

その中に一応止血されているが血がにじんでいる女性を見つけた。

おそらく馬車を操作していた人だろう。

中に盗賊が居ないことを確認したリンは素早く体を窓に入れると家の中に着地した。

家の中にいた女性たちが反応しそうになったが、素早く口に手を当てるジェスチャーをし、声を出させるのを抑えた。

リンは小声で女性たちに話しかける。


「皆捕まったの?」

「はい…助けてください!」

「シッ!静かに。」

「んん~?なんだ~?」


女性の声に反応したのだろうか。

野太い声が外から聞こえてきた。

おそらく見張りだろう。

リンは上を見ると、すぐさま跳躍し天井を支える柱につかまった。

それと同時に男が入ってくる。


「逃げようとしても無駄だぜ~。ひひひ。」


そう言って女性たちに近づこうとしたところにリンが天井から降りる。

素早く男の口に手を回すと男の首筋に力いっぱいコンバットナイフを突き立てた。


「っ!?」

「ひっ!」


男は一言も発することなくリンに優しく床に倒された。

首を貫通する一撃を食らった見張りの男は誰が見ても即死だ。


「とりあえず脱出するよ。」


リンは一旦コンバットナイフを消すと金切りハサミを創造する。

金切りハサミで檻に付いている鉄の鎖を切断する。

それを三回繰り返す。

すべての鎖を切り終えると扉を開け、檻の中から外へと出す。

馬車の主だと思われる女性は気絶しているためリンが背負、檻の外へでる。

正面からは出られず、見張りを殺してしまったためタイムリミットがあるのだ。

リンはふっと思った。入ってきた場所から出ればいいと。



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