追い立てられた魔物
パソコンの調子が悪く起動しないと言ったな。
あれは嘘だ。
一晩経った宿では相変わらず鈴が寝こけていた。
アイリスは日課のように鈴を起こしている。
水魔法で。
そして毎回同じ反応が返ってくる。
もう少しバリエーションが増えないかと内心アイリスは思い始めていた。
「もー毎朝びしょ濡れだよ~。」
「起きないのが悪いんでしょうが。これから寒くなるからもっときつくなるわよ。」
「えーせめてあったかいお湯かけてよー。」
「そうね。その手があったわ。今かける。」
「いやいやいや!もう起きてるからね!?」
鈴は詠唱に入ろうとしていたアイリスを止める。
アイリスは残念そうな顔をしていた。
意外とSかもしれない。
いや、鈴を起こしたりアラスの暴走を鎮圧するので目覚めてしまったのかもしれない。
「まあいいわ。昨日食事に時間かけすぎて買えなかった食料の補充と水の補給するわよ。」
「了解サー。」
二人は宿から出ると買い出しに向かう。
勿論買うものは干し肉である。
「肉肉~干し肉~。」
「肉ばっかり食べてると太るわよ。」
「だって保存食ってそれぐらいしかないじゃん?」
「それはそうだけど。」
「それじゃ、おじさん干し肉二枚くださーい。」
「二百銅貨ね。」
「はい。」
「まいどありー。」
「私も買うわ。」
二人は食料の補給を済ませると井戸のある住宅街広場へ向かっていた。
井戸の場所はアイリスが知っているため鈴でも迷わずに行くことができる。
「この後左に曲がるんだよね?」
「そう。」
「じゃあここの路地入れば近道できるんじゃ!?」
「馬鹿ね。この街は増築に増築を重ねてるから路地は入り組んでるし、そこを根城にするチンピラが多いのよ。」
「普通に行きます!」
「それでいいのよ。」
鈴とアイリスは井戸にて水を補充すると、魔法を掛け疲労回復水。別名エナジードリンクと変化させた。
疲労、怪我回復にはアイリス。
その後一度宿に皆で集まると朝食を取ることになった。
食堂は宿の近くにあったレッドバード亭を利用する。
朝食ということで皆軽い物を頼んでいたが、鈴とアラスだけは肉料理などの油が多いものを注文している。
「鈴いい加減にしないと太るわよ。」
「大丈夫!歩くから!」
「それでは今日は鈴に戦ってもらおうか。」
「え?」
「それいいわね。」
「修行も休息が大事じゃ。」
「えええ~。……そんなに言うならやってあげます!」
「あ、今思い出したのじゃ。リン殿と手合わせしておらぬ。」
「あーそうだったね。」
「今夜やろうぞ。」
「ああ、今のうちに言っておこう。今日は野宿だ。」
『これはチャンス!』
"ん?“
「夜テント出すのでその中で寝ましょう!」
もちろんリンが出すのだが。
一同は朝食を食べ終わると街を出た。
ここからは小さな村などが続く道になる。
途中盗賊でると言う話も聞くので迂闊に通れないのだ。
大抵の商人は護衛を付けて通る道だ。
鈴は一人で戦うことになってしまったため一番先頭を歩いている。
しかし格好が変だ。
体にはジャガーノート装備。片手にはミニガンを。
もちろん主人格はリンである。
スズではこんな重装備では歩けたものではない。
「なんかリンちゃん怖くね?」
「失礼だぞ。」
アラスとアームがこそこそと話しているが、ジャガーノートを着ているリンには小さい声は届いていなかった。
一時間ほど歩いた時前方からゴブリンと思われる魔物が現れた。
「ほら、来たわよ。」
鈴はミニガンを構え発射体制に入った。
そしてその音でゴブリンがこちらに気がついたようだ。
しかし、リンを見るなりいきなり逃げ出してしまった。
だがミニガンの回転は止まらない。
7.62mm弾が大量に吐出され、ゴブリン達はたちまち肉塊と化してしまった。
一瞬だけリンからスズに変わるとミニガンのリロードを行った。
リンが過剰に弾を撃ち過ぎたためだ。
「討伐完了。」
「ひえー容赦無いなぁ。」
「魔物に容赦してどうする。」
「なんかすごかったわね。今のは。」
「喋ってないで道のど真ん中で死んでるゴブリンを片付けるぞ。」
「それじゃ集めたら私が燃やすわ。はいはい頑張ってー。」
男達はゴブリンの肉塊街道から外へ放り投げていく。
ベチャベチャと嫌な音がするが気にせず作業を進める。
あらかた片付け終わったのでアイリスが呼ばれた。
「<蒼白の炎よ。>」
ただの蒼白の炎を手のひらに発動させるとそれをゴブリンの死体に向かって放り投げた。
死体はあっという間に燃え上がり、肉の焼ける匂いがあたりに広がる。
温度が高いため直ぐに灰になってしまったが、骨だけはかろうじて残っている。
「これで魔物も寄り付かないだろう。」
「街道の血も洗い流すわ。<水よ。激流となりて具現化せよ。ウォータージェット。>」
手のひらから水が勢い良く噴射され地面に着いた血が薄まり、流れていく。
若干地面がえぐれてしまったがそこは問題ないだろう。
「終わった?」
リンがヘルメットを外し話しかけてきた。
ヘルメットをつけているときは全く音が聞こえないので外すしか無いのだ。
そして手にはミニガン。
「終わったわよ。もっと綺麗に倒してくれないかしら?」
「いや、スズからこれで行けって言われたから。対爆、防弾、衝撃、閃光、爆音全カットのジャガーノートと毎分三千発のミニガンで無双しろと。」
「こんなことを企んでいたとはね…。」
「すごい重そうじゃが、大丈夫かぇ?」
「スズじゃ皆の歩く速度に合わせられないから私がでてる。重さはたいして重くない。」
実際総重量が四十キログラム以上あるのだが、リンには重くないようだ。
「片付いたし先へ進むぞ。」
イルミスがそう言う。
リンが先頭に再び歩き始める。
時折馬車とすれ違ったり、追い越されたりするが皆護衛付きの馬車だ。
それほどこの道は危険なのだろう。
半日ほど歩き、昼食を取り始める。
もちろん鈴はジャガーノートとM134ミニガンを消している。
ここで大活躍なのはアイリス謹製疲労回復水別名エナジードリンクだ。
半日歩いた疲労が徐々に回復していく。
「ぷはー!このエナジードリンク最高!アイリス最高!」
「まぁ魔法の練習になっていいけどそれになれると大変よ。」
「そんなアイリスはどうなのよー。」
「私はいいのよ。」
「ずる!」
「なになになんじゃ?何か特別な水でものんでるのかぇ?」
「アイリス謹製エナジードリンクだよ!」
「ほう。少し飲ませてくれないか?」
「ほいほい。」
スズは飛鳥に水筒を渡すと飛鳥はそれを少し飲む。
「お?おぉ?少しずつじゃが疲労が回復するのう。」
「俺にも飲ませてくれ!」
「いいよー。」
「あ!鈴待ちなさい!」
しかしそれは遅かった。
既にアラスの手に渡り口を付けて飲んでいる。
「ん?何かまずかった?」
「いや…この後の展開が予想できる…。」
「やっべ。これまじやべえ!てか鈴ちゃんと飛鳥ちゃんと間接キスだよな!それだけでも疲労が回復するってもんだぜ!いやっほー!ぺろぺろ。」
「ぎゃー!何なめてんの!」
「いわんこっちゃない。」
鈴はすぐにアラスから水筒を奪い返す。
直ぐに舐められた場所を拭こうとハンカチをバッグから取り出した。
「よく拭いて…よし。大丈夫。」
「アラス殿…。」
「うん!何だね!」
「テーザー銃…。少しは頭を冷やせー!」
パスっと針が発射されアラスの左肩に刺さる。
「ちょ!痛!これって―。」
鈴は引き金を引いた。
「アババババババババ!」
五秒ほど引き金を引きっぱなしにし、電流を流し続けた鈴は満足気な表情を浮かべていた。
「ふぅ。スッキリした。」
「あっぱれじゃ!」
「鈴ちゃんひどいよぉ。」
倒れこんでいるアラスの元へアームが近寄って言葉をかけていく。
「今のは気持ち悪かったぞ。」
「そこは心配の言葉だろぉ!?じゃなくて、間接キスだぞ!お前枯れてんな!」
「鈴もう一発頼む。」
「了解です」
「ぎゃああああああ!」
アラスの叫び声が響き渡ったのだった。
昼食を終えた一同は再び進み始めた。
鈴はジャガーノートとM134ミニガンでリンが表にでている。
相変わらずの装備である。
街道を進んでいくが魔物があまり出ない。
リンは少し暇であくびをしていたりと。
「ん?」
リンは左側の胸ほどまでの高さがある草むらに目を向けた。
それと同時にイルミスも気付いたらしく、剣を抜く。
それを見ていた四人も戦闘準備に入る。
「…困った。相手が見えない。」
『鈴ー。剣に変えるよー。』
“ういーす。それはしょうがないね。”
リンはM134ミニガンを消すと、両刃の剣-ロングソードを創造する。
刃渡り八十センチの長い剣だ。
動きにくいジャガーノートを消すとアシストがあるスズに変わった。
『よし。獣相手ならいける!』
突然ガサガサと音がしなくなった。
だが気配はまだ残っている。
「……来るぞ!」
勢いよく草むらからとびだしてきたのは狼―いや、狼より二倍ほど大きい、シルバーウルフぐらいの黒い狼が飛び出してきたのだ。
飛び出してきた一頭に続くように包囲するかのように残りの黒い狼が出てきたのだ。
一番最初に飛び出した黒い狼は一番先頭にいた一番弱そうな鈴に目をつけていた。
口を開け、牙を丸出しにして飛びかかってくる黒い狼。
しかしその目論見は見事に外れた。
「せいやああ!」
鈴はアシストによりゲームと同じ勢いで剣を振るった。
ただ振るうだけでは押し倒されてしまうので身をかがめ相手の横に入るように剣を振るったのだ。
その結果、相手の跳躍と鈴の加護付きの腕力が上乗せされ、黒い狼は口から斬り裂かれ真っ二つになる。
これには鈴も予想外で有った。
ロングソードということもあったのだろう。
「ブラックウルフか。この道には居なかったような気がしたが。」
「そんなことはどうでもいいのよ。倒せばいい。」
黒い狼―ブラックウルフは飛び出した一頭目が殺られたことに警戒をしているようだ。
しかしジリジリと間合いを詰めている。
「蒼白の炎よ、我が魔力を弾丸とし敵を撃ち抜け。ファイヤーバレット!」
次に動いたのはアイリスだった。
素早く詠唱を済ませ炎の弾丸をブラックウルフに撃つ込む。
アイリスの魔法の中でも最速に位置するこの魔法は相手の回避を許さない。
ブラックウルフは体に入った炎の弾丸に身を焼かれ転がりまわり絶命していく。
イルミス達も動き出し、ブラックウルフの殲滅に当たる。
鈴は最初の一頭目で血を浴びたため、なるべく血を浴びないように倒していく。
『あ”ー血がつく。ゲームでは血が出なかったからなぁ。』
"そうだね。しかしこれが現実!“
『後でアイリスに服洗ってもらおう…。』
"イルミス達はあまり血が付いてないね。やっぱりアシストが有っても経験の差はあるみたいだね。“
『そうだねっと。そろそろハンドガンで応戦しようかな』
鈴は剣を左手に持ち帰ると右手にベレッタを創造する。
「くらえ!」
鈴は狙いをつけると引き金を引いた。
弾丸は見事にブラックウルフの胴体を捉え苦痛の声をあげさせた。
しかし、体が大きいため9mmでは一発で倒しきることができない。
今度は頭部に向けて三連射。
一発は外れたが、残りの二発が頭部をえぐり絶命させた。
『後十一発!』
"がんばれ~。“
鈴は迫り来るブラックウルフを斬り裂きながら銃弾を撃ちこんでいく。
残り九発。
突然茂みからブラックウルフが追加で二体現れそれの排除のために銃弾を撃つ。
残り二発。
アイリスの援護に二発。
ベレッタのスライドがオープンし、弾切れを起こした。
鈴はそれをブラックウルフに投擲する。
キャインと言う鳴き声と共にベレッタが頭に当たったのだった。
茂みから出てきたブラックウルフの総計十八体。
その全てが鈴達に駆逐された。
鈴の討伐数は四体。
その他は飛鳥がほとんど倒してしまった。
魔力強化された身体能力は異常である。
倒したと思ったら既に次のブラックウルフが斬られている。
ビックリ超人間か。
「なんでこんな場所でブラックウルフが出たんだ?」
「さぁ?」
「珍しいことなのかぇ?」
イルミスが新参二人に説明をする。
通常この地域でブラックウルフが出ることは一度も報告がなかった。
「何かから逃げてこっちに来たとか!いや、そりゃないか!」
「そうか。その線が。」
「でも何から逃げて…。」
「え?まさか俺の予想あってた?フッ。さすが俺だな!」
「調子に乗らない!」
「うぼあああ!」
「アラス殿はそこがなければいいやつなのじゃが…。」
一体何に追い立てられたのかは現在の時点では不明だ。
ブラックウルフの討伐部位だけ持って死体は燃やすことにする。
これは先程よりミンチになっていないため片付けは簡単だった。
「アイリス~服洗って~。」
「返り血だらけじゃない。しょうがないわね。男どもは回れ右!飛鳥はこっち見ないか見張ってて。特にアラスを。」
「了解じゃ。」
「えーなんで俺~?」
などと言いながら振り返った所を飛鳥の刀の鞘が頭に打ち付けられた。
鈴は人格同調を使い下着姿でいるのはちょっと恥ずかしいのでバスタオルを創造した。
「はい。お願いします!」
「初めて使うわ…。<水よ。衣服の汚れを洗い流せ。ウォーターウォッシュ。>」
鈴の衣服が水の玉に飲み込まれると洗濯機のようにぐるぐると回り出した。
それを見た鈴は内心、洗濯機みたいっと思っていたのだった。
アイリスが魔法を使い始めてから十分。
汚れが綺麗に落ち元の色に戻った。
魔法の水なので一~二分放置すれば綺麗に乾くだろう。
鈴はそれも合わせてバサバサと服を振っていた。




