第九話 『あのお方から賜りしワタクシ専用ホトトギスロボ、いきっまーす』
時刻は早朝六時ーー。
どこか都内の喧騒とかけ離れたあまりの静けさに、まるで何ごともなかったかのようにさえ感じてしまう。
しかし、SNSなとでは梅歌宅の襲撃は大々的なニュースとして取り上げられており、その実行犯として謙信と信玄のぼやけた姿の監視カメラ内映像が拡散されてしまっていた。
幸い、映像には乱れがあり顔の特定には至れていないようだ。
(もし、本格的に捜査が進めば……二人にはもっと迷惑をかけてしまんだろうか……。特に、謙信様はストリーマーだし大丈夫なのかな……。大丈夫な訳ないよね)
そんな梅歌の心配は梅雨知らず。
現代でも別の意味でその存在が轟いてしまった二人は、不眠不休にも関わらず、赤星風林こと武田信玄。
そして樗澤虎白こと上杉謙信らはまるで疲れ知らずに元気だった。
何より、その精神的な安定さは並外れており彼らから不安、焦り、プレッシャーなどを一切感じられない。
ーー至って、通常運転であった。
それもこれもやはり、彼らが元非検体であり外宇宙人であることの所以だろうか。
(どう見たって普通の人間にしか見えないのに)
「なぁに梅ちゃん?顔に穴が開きそうなくらい見つめられても、駅弁のおかずはあげないケド〜?」
「ち、違います!!というか、信玄様であるなら初めからそう仰ってくださいよ!」
周りへ聞こえぬように、か細く聞こえるか聞こえないかの声量でやり取りは繰り広げられていく。
しかし信玄だけは、お構いなしの様子で食事を楽しんでいた。
「まあ無理もない。あんな突拍子のない話を聞いて"はいそうですか"、とはいかないだろ」
「上手く飲み込めず、不甲斐ないです。
勿論、お二人が嘘を言っているようにも思いません。
……ただ、不思議なんです。
ぽっかり穴が空いたところが、埋まるような心地よさをお二人からは感じます」
「やはり、それが既に異質体である証明なんだ。恐らく俺たち非検体との親和性が極めて高く、それに何か意味がある……と信玄と俺はそう睨んでいる」
「まぁ、何はともあれ。これから名古屋の拠点に向かえばそれもわかるでしょ。
ただ、あのおっかなぁい奴がすんなり受け入れるかは別の話かもだけど〜」
信玄の含みのある物言いに、若干不安を覚えるものこ、それを察した謙信に肩を抱き寄せられる。
「あまり不安にならなくていい。
絶対に、何があってもアンタのことは俺が守り抜く」
「……ありがとうございます。
でも、ちゃんと私にお稽古つけて下さいね!約束、ですからね!」
「ひゅ〜!とんでも誘い文句だよなソレ。
まあ梅ちゃんなら、案外オレら以上の戦国大名になっちゃったりしてね〜!」
『声が大きい!!』
「……へいへ〜い」
「次、名古屋に到着いたします」
『……』
車内にアナウンスが流れると、先ほどまでの和気藹々とした空気は一変。
「気を引き締めていくぞ」
謙信のその一声を皮切りに三人の面持ちは真剣そのものになり、名古屋へとその足を踏み入れた。
梅歌一行が訪れたのは、名古屋城ーー。
黄金の鯱鉾が朝日に煌めき堂々と聳え立つその出たちは、まさに国宝級の要塞であった。
しかし、信玄に案内されたのはどう考えても立ち入り禁止の裏道だ。
まだ朝八時前。
入場はできない時間帯のため人はほとんどいないが、圧倒的に目立つ三人をなぜか警備員は見て見ぬふりをしていた。
「……ッ」
裏道から城内へ入ると、あきらかに違和感を覚えた。
所謂地下に位置するだろうこの場所に、絶対にそぐわぬ近代的なエレベーターが目の前にあったからだ。
「……なんでこんなところに?!!」
「そりゃさらに下へ行くためでしょ〜?」
「……で、ですよね!!」
戸惑いながらも乗り込み、さらに最深部の地下五十メートル以上下へと降り立つ。
扉が開くとそこはーー。
大きなリゾートホテルのような景観の、黒と赤の建物を中心にその周辺を取り囲むように広がる城下町。
そこでは、人々が賑わい行き交い。
当たり前のように生活している様が伺える。
「現代と戦国時代が融合した新たな町……みたい!!」
【そうでしょうとも、そうでしょうとも!
何と言っても、あのお方があのクソ狸から奪い取ってみせたこの名古屋城を、このようなスンバラしい近未来地下都市へと昇華させたのですからねぇ!
ええ!お前ら愚か者共が驚くのも無理はないというもの……】
「ッて、きゃぁああ!!!!?」
どこからともなく聞こえてきた声ーー。
そして梅歌の周りを飛び回るホトトギス型の小型ロボット。
明らかに歓迎されているように感じられない待遇に、臨戦体制になる謙信と信玄。
「なんだ、この機械は……!!
ちょこまかと、梅歌の周りを!?」
「上杉、なぁんかイヤな予感がしない?」
「……もう既に、俺はイヤなんだがな」
あまりの速さで奔走するため、梅歌の周りは風が巻き上がり、二人をまるで近づかせない。
しかし次の瞬間。
その反動でスカートが捲り上がるーー。
「……!!?」
「わぁお、白……か」
「ぎゃぁぁあ!!!お二人とも見ていないで、な、何とかして下さい!」
【ははは!この俊敏さについてこれるものならば、やってみせなさい!
さあ!あのお方の役に立てる存在であるのだと示すのです。春日井梅歌!上杉謙信!武田信玄!】
「この変態がッ」
【あぁッ!あのお方から賜ったホトトギロボがぁああッ!!?やめろ!上杉謙信!】
謙信は、ものの一瞬で鷲掴みにしていた。
「……おい。
俺の許可なく、梅歌の周りを飛び回るな。
何より、彼女のテリトリーを侵すことは赦さないッ!!!よって万死に値する……ッ!」
握り締める力だけで装甲はメキメキと剥がれていき、謙信の手の中でただの鉄の塊と変わり果てる。
【そんな……。ゆ……ん。
許さんぞォォオオオ!!!!!上杉ィイイイ!!!ポチぃッとなぁああ!!!】
『……え?』
突然ガバっと床下が開き、三人はその深淵へと急転直下ーー。
【後悔しろザマァないですねぇぇえええ!!!あははははは!!!】
「ンギャァア!!!」
「梅歌!!俺の手に捕まれ!!」
「オレも!オレも!やばい!上杉オマエあそこまでしなくてもよかったろ〜!!?」
「すまん、ついカッとなってしまい……。梅歌のこととなると自制が」
「お二人とも!その話は後にしてくださいッ!!ぁぁああああァァァア!」
梅歌は二人の手を握り締める。
いつ訪れるかわからない落下への恐怖に、その雄叫びがこだまするーー。
一方、名古屋城地下城塞の監視室。
そこには、忍者姿をした男が小指の爪を噛みながら、三人の落ちゆく姿を眺めていた。
「アナタ方がいけないのですよ……。ワタクシの大切なあの方からの贈り物を、ぞんざいに扱うから……。
精々、その開かずの部屋で女一人を囲み理性を保っていられるのか……実物ですねぇ!」
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