第一話 『望み』
もしも、人気ストリーマーが自分の前世の恋人である。そう彼との記憶が蘇ったあなたなら、どうしますか?
この物語の主人公春日井梅歌は、どんな壁も超えて、きっと彼に思い出してもらおうとすることでしょう。
そう、既に。
行動力のある彼女は、握手会へ参加し、初対面した魁謙信とあろうことか二回目の会う約束まで交わしていたのだから。
そんなことありえない?
突拍子もない?
しかし梅歌は、前世で婚約する前に死んでいます。
だからこそ、この一度きりの人生で彼女は今ここでやらねばならないと感じたことに、ただ全力を投じているのでした。
「ぅううあああ!どーして、OKするのよぉおお謙信さまぁあ!!」
梅歌は、駅改札前で一人。
人目も憚らず、悶絶していた。
その原因は、言わずもがな。
昨日、握手会へ初参加しただけの梅歌からのメッセージに、一つ返事で再開を承諾した人気ストリーマー魁謙信(恐らく、上杉謙信の生まれ変わり)だった。
(……もう少し警戒心というものを。
って私も、そんなこと言えた立場じゃないよね)
しかし、約束は約束。
梅歌は既にその集合場所に到着しており、謙信にチャットを打ち込んでいるタイミングだった。
スマホに視線を落としていると、背後から誰かにトントン指で突かれた。
「アンタだよな?綺麗さん……」
「あ!ええと!」
「俺のことはわかるか?」
「……は、はい。私は春日井梅歌です。謙信様!」
「シー、あまり大きな声で言わないでくれると助かるんだが……」
(ひ、ヒイ!距離感!!近い近い近い!)
キリッとしたトパーズ色の瞳と、長いまつ毛。
濃いエメラルドグリーンの髪が、しなやかに揺れる。
高い鼻筋に、弧を描いた薄ピンクな唇。
俳優さながらの容姿端麗さに、すぐさまあらぬ方向を見るしかなかった。
「あはは、……はぁ」
(どこも見れない、顔以外を見なければ……)
しかし、こちらの気持ちは梅雨知らず。
グイグイと迫る謙信に、どんどん後がなくなり壁際まで追い詰められる。
ほとんど壁ドォンな状態に、周囲の視線は集まるばかり。
「で。何故俺ともう一度会いたいと思ったんだ?」
「あはは、単刀直入ですね。
でも、そ、そのー。できれば……二人きりになれそうな場所で……」
主に、謙信が目立ちすぎているのと、周りからの視線に耐えられないためだ。
その上、こんな公な場所で
「上杉謙信ですよね?」とか「私はその恋仲でした。あなたは謙信様ですよね?」
だなんて、口が裂けても言えない。
「……そうか、それほどまでにアンタは覚悟が決まっているんだな」
「……?は、はい」
「わかった。ついてこい」
「えぇ!!?」
何故か手を引っ張られながら、私はただ彼の背中を追いかけることしかできずにひたすら歩いた。
「二人きりになりたいんだよな?そうじゃないと話せないのだろう?」
「はい」
「他の相手にも、そうするのか?」
「……ッいえ、虎白様が初めてです」
「そうか、よかった。タチの悪い輩もいるからな」
「そうですよね……す、すみません」
「……いや、今回引き受けた俺も同じようなものかもしれないが」
「ッ!い、いえ!謙信様は悪くありません!」
「今は、虎白だ」
「すみません!虎白様……」
「さ、様は要らないが……まあ、好きに呼んでくれ」
「はい……」
「着いたぞ」
「え?!もう!?」
目の前には、高層マンションが聳え立っていた。
駅から徒歩十分圏内、相当立地や交通の便のいいお高そうなお城に見える。
「来ないのか?」
「今行きます!すみません、見慣れてなくて」
「謝る必要はない。子供みたいにキラキラに瞳が輝いていた。久しぶりに、そういった人を見た気がするんだ。だから、嬉しかった」
「……それは、良かったです!?」
エレベーターで、部屋まで向かうまでも謙信とは話が途切れず、阿吽の呼吸が不思議と合うような穏やかな時間が流れた。
(初対面の時も、初めて会ったようにも感じなかった。
今も緊張はするけど、たぶんお互いに嬉しさが優っているというか……自惚れでありませんように)
そんなことを願いながら、エレベーターが到着した階層を出れば、その突き当たりにエスコートされた。
「何もないが、入ってくれ。ソファーにでも寛いでいて欲しい」
「はい!!お邪魔します……」
あろうことかたった二回の面識の私を、自宅のマンションへと彼の厚意で招き入れてくれた。
「あ、あの!謙信様、これ貰ってください」
「これは、酒……」
流石に手ぶらでくるわけにもと思い、仰々しくも高価な日本酒を渡す。
単発バイト一ヶ月分が、これで消し飛んだ。
しかし、それもこれも全ては謙信ともう一度逢いたいがため。
梅歌に、一才の後悔はない。
「ッ俺の好きな銘柄だ……」
(ふふ、喜んでくれてる。良かった……)
彼のせせらぎのように澄み切った瞳に、この決断が間違いではなかったのだとそう思わせてくれた。
「こんな高価なもの……俺は。それ相応のものが返せるかどうか」
「いえ、こうしてお時間をいただいてるので」
「しかし……、いやありがたく頂戴しよう」
「そうしてもらえると、助かります」
「あぁ、それで本題に移るが……」
「はい!謙信様、実は……!!」
「待て……」
口元を手で覆われてしまい、上手く話せないどころか呼吸もままならない。
大きな彼の手が唇、頬に触れて、ただそれだけなのに梅歌の胸の鼓動は鳴り止まらなかった。
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